二百三十六話 まるで子供
キャバリオンを造り終えた日の翌日、アラッドは父に遂に造りたいと思い、精進し続けた末に望んでいた一品が造れたと報告した。
当然、フールはその一品が気になり、アラッドに見せてほしいと頼んだ。
何かをつくることに関しては、戦闘並みに才を持っているとしか思えないアラッドが精進し続けた末に造ることに成功した一品……気にならない訳がない。
「こちらが、自分が長年求め続けたマジックアイテム……キャバリオンです」
「キャバリオン……アラッド、これはもしかして乗るのか?」
「その通りです」
鉄製の馬の半身。
だが、前足部分にのみ、穴がある。
そこからフールはもしやという考えに至った。
「実演してみせますね」
アラッドはひょいっと跳んで穴に脚を入れ、キャバリオンを装着。
そして先日の夜に歩いた感覚を思い出し、一定のペースで歩き始めた。
「おぉ~~~~、凄いな!!!!」
目の前で起きている光景にフールだけではなく、興味本位で付いてきた騎士や兵士たちも驚かされた。
「よっ!」
最後に少し前傾姿勢になり、後ろ足で蹴りを行う。
その動きにまた感嘆の声が上がり、今度は拍手の嵐が起こった。
「こ、こんな感じのことが出来ます。勿論走ったりすることも出来ますけど、まだこう……馬の走り方というのを理解していないので、これが限界です」
「……す」
「?」
「凄いじゃないか!!!!」
「のわっ!?」
フールがぐいっと顔を近づけて褒めたため、思わずのけ反ってしまうアラッド。
「フールの言う通りよ!!!!」
「あ、ありがとうございます。母さん」
フールだけではなく一緒に見に来ていたアリサも顔を近づけて褒め、アラッドが長年努力を重ね続けて造り出した一品を褒め称えた。
「いや、本当に凄いよアラッド……こんなマジックアイテムは見たことがない」
「同感ね。私も冒険者時代に色々とマジックアイテムを見てきたけど、こんな凄いマジックアイテムは初めて見たわ!!」
両親二人が全力で褒められ、さすがのアラッドも照れ照れモードになっていた。
「ど、どうも……」
ただ、騎士や兵士からも賞賛の言葉を大量に浴びせられ、さすがに固まってしまった。
元々偉業を成し遂げたからといって調子に乗るタイプではないので、あまり褒められると、どう対応すれば良いのか困ってしまう。
「アラッド……是非、このキャバリオンを私にくれないか!!! いや、買い取らせてほしい!!!!!」
フールの目が子供のようにキラキラと輝いている。
しかし、騎士たちはその気持ちが十分に理解でき、指摘する者などいなかった。
「え? えっと……父さん、このキャバリオンは言ってしまえば、試作品です。性能的にはそこまで高くありません」
「いや、構わない! 是非とも欲しい!!! アラッドが望む金額で買うよ!!!!」
目から……表情から、どれだけフールが本気なのか伝わってくる。
ただ、アラッドとしては試作品である物をフールに渡すのは忍びない。
「父さん、一度落ち着いてください。父さんには必ず相応しい一品を造ります。なので、買取はその時まで待ってください」
「む、むぅ……そうだな。少し興奮し過ぎていた」
アラッドの言葉で我に返り、フールはようやく落ち着きを取り戻した。
「ただ、これを使って練習するのは構いません」
「そうか!! それでは早速「フール様、まだ今日の仕事を全く終わらせないですよね」……」
事務仕事の補佐を担当しているナダックに痛いところを突かれ、フールは執務室へと連れていかれた。
「えっと……時間が空いてる人は、使ってみても大丈夫ですよ」
アラッドの言葉に多数の騎士や兵士の目が輝いた。
(……こりゃ最初に教えといた方が良いな)
一先ず装着して走ることは禁止と伝え、歩き方の感覚をその場にいる者たち全員に伝えた。
ちなみに……フールは執務室に連れていかれたが、アリサは特に仕事などないので、一番最初にキャバリオンを体験することが出来た。
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