二百二十話 嘘をついたところで……
「なんかさ、あんまりこういった場に出てこないけど……随分強い強いって噂されてるけど、本当のところどうなの」
「どうなの、って言われてもな」
このロンバーの言葉に……アラッドは真っ向から喧嘩を売っているのか、自分と今すぐにでも模擬戦をしてどっちが上なのかを決めたいのか……それとも純粋にその噂に対して疑問を感じているのか分からなかった。
(そりゃそれなりに……ぶっちゃければ、八歳という年齢を考えれば超強いと思いますよ。ただ、あんまり本音というか事実をぶっちゃけるのはな)
ロンバーの言葉にどう答えれば良いのか迷っていると、その反応を見て弱点を突いたのかと思ったのか、更に上から目線な感情が表情に現れる。
「まぁ、ドラングの奴は大したことないって言ってるけど……本当に強いなら、授かったスキルぐらい、言えるよな」
親族から大したことはない、自分を超える逸材かもしれない。
両極端な意見が出ている本人がいったいどんなスキル五歳の誕生日に授かったのか……これに関しては、ロンバー以外の者たちも気になっていた。
(アラッド、どうするんだ?)
リオはアラッドが授かったスキルについて知っている。
ただ……その名を訊けば、絶対にロンバーが大人目線から理解することが出来ず、厄介事に発展するのが目に見えている。
(別に答えても構わないと思うが……初見であれば、理解するのは難しいか)
実際にアラッドの糸がどれだけ凶悪なのかレイ嬢たちは知っているが、名前だけ聞けば侮られるのも確か。
(あらあら、アラッドさんにそれを聞いてしまいますか)
(……なんとなく、これからどうなるかイメージが湧きましたわ)
(多分、殺されはしない……はず)
レイ嬢以外の令嬢たちもこの先どうなってしまうのか……ある程度展開が読め、自業自得ではあるものの……ロンバーの身を少しだけ心配した。
ルーフも親からアラッドが授かったスキル、糸がどの様な武器になるのか……予想ではあるが、その内容を聞いているので、二人の衝突を止めた方が良いと思いながらも……元々気が弱いこともあり、あたふたするだけ。
「……俺が授かったスキルは、糸だよ」
アラッドは正直に話した。
(嘘を付かず、正直に答えるとは……流石アラッドだ)
(こういった状況でも偽らずに応える、か。よっぽど糸に自信があるんだね)
レイ嬢とベルはアラッドが仮に授かったスキルが剣技だと嘘を付いても、それはそれで悪い選択だとは思わない。
現に、アラッドの剣技スキルは授かったスキルだ……そう言われても信じてしまえる程に、練度が高い。
(ここで嘘ついても、身内であるドラングが否定すれば、直ぐに嘘だってバレるしな)
そこまで詳しく糸の性能については知らないが、それでもドラングはアラッドが授かったスキルが糸ということだけは知っている。
つまり、ここで嘘を付いてもいずれバレてしまう。
それはパーシブル家にとって、自分にとっても良くない結果となる。
(というか、もしかしたらこの中に人の嘘や違和感に気付くスキル? とかを持ってる奴がいるかもしれない。そういう奴がいるかもしれない可能性を考えると、ここで嘘を付くのは得策じゃないんだよな)
ただ……正直に話したら話したで、問題が起こるのは目に見えていた。
「ぶっ!!! はっはっはっはっは!!!! マジかよ、糸って……はっはっはっはっは!!!!」
アラッドの答えを聞き、一瞬辺りが静寂に包み込まれ……それをロンバーの爆笑が破った。
それが切っ掛けとなり、授かったスキルが糸だと知った他の令息や令嬢たちはロンバーほどではなにしろ、小さく笑い始めた。
そんな周囲の反応に対してレイ嬢たちの誰かが一喝しようとしたが、アラッドがそれを手で制した。
(俺を想ってくれてるのは嬉しいけど、それはそれで色々勘ぐられるそうだからな)
正直自分の自慢のスキルを馬鹿にされるのは気に食わない。
ほんの少しぐらいは糸の怖さを体験させても良いか……そう思ったが、今のところ目の前の令息は笑っているだけ。
ここで手を出すのは……よろしくない、かもしれない。
そう思ったアラッドは矛を上げないでいこうと思ったが、最後の……ギリギリのラインをロンバーがあっさりと越えてきた。
「やっぱり、親の違いってのは顕著に現れるもんだな」
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