二百十九話 怒りより心配が勝つ

(なんなんだよあいつ、いきなり出てきてレイ嬢やヴェーラ嬢と仲良くしやがって)


今アラッドは……同年代の中でも屈指のイケメン候補、美少女に囲まれている。


アラッドからすればこの世界の住人たちは顔面偏差値が前世と比べて高過ぎるので、少々感覚がマヒしているところがあるが……レイ嬢たちは紛れもなくこのまま無事に成長すれば、歳上歳下関係無く同性が羨む美女になる。


そして色々噂はされていれど、パーティーには殆ど出席していない人物がそういったハイレベルな美少女に囲まれていれば、嫉妬してしまうのが男というもの。


怒りの感情を露わにしている男の子以外にも、何故アラッドが親の爵位の高い美少女たちに囲まれているのか、中々理解出来ない。


とはいえ、侯爵家の人間ということだけは解っているので、下手に絡もうとはしなかった。


(ん? 誰かが俺に……あぁ、あいつか)


もう何年も森の中でモンスターと戦っていれば、自分に普通ではない感情を向けられているという状況は、直ぐに察知できる。


モンスターの中には殺気を隠すのが上手い個体もいるが、貴族とはいえ子供が完全に殺気や怒気を隠すのは難しい。


(できればこっちに来ないで、俺に絡まないでほしいんだが…………うん、分かってた。無理だよな)


自信の方に向かって来る少年から怒気の中に、それなりにある自信を感じ取ったアラッド。


自分の名前だけはそれなりに貴族界に広まっているということは理解しているので、こちらに向かって来る男の子がよっぽど馬鹿でなければそれなりに親が高い位を持っていることが解る。


「アラッド、彼はロンバー・アリンド。君と同じ侯爵家の人間だよ」


「情報提供ありがとう」


ベルは小声でこちらに向かって来る男の子の情報をアラッドに伝えた。


「やぁ、レイ嬢たちこの間ぶりだね」


令嬢組にしか興味がない。

そう言わんばかりの態度を見て、アラッドは心の中で思いっきり引き攣っていた。


(おいおい、さすがに露骨すぎないか? そりゃいきなり現れてレイ嬢たちに囲まれている俺が気に入らないだろうけど、ベルたちまで無視するか? てか、俺も一応侯爵家の人間なんだけどな)


アラッドの他に、ルーフも侯爵家の人間なのだが……ルーフは元々気が弱いため、ロンバーのような強気な相手は苦手なので、あまり強く出れない。


ベルの親は伯爵家で、リオの親は辺境伯。

位が下だからといって超横柄な態度を取って良い訳ではないが……子供の感覚だと、その少しの差がとてつもなく大きく感じる。


「あぁ、そうだな……それよりも、先に挨拶をする者がいるんじゃないか?」


ロンバーは確かに位がそれなりに高い侯爵家の令息だが、レイ嬢たち四人からすれば……一ミリも興味を持てない人間だった。


そんな人間がアラッドを完全に無視したとなれば……若干ではあるが機嫌が悪くなってしまうのも無理はない。

個人の感情はどうであれ、四人にとってアラッドはお気に入りの存在といっても過言ではない。


それはベルとリオも解っており、自分たちがロンバーに無視されたことなんて全く気にしておらず、女性陣が感情を爆発させてしまわないか、内心かなりハラハラしている。


「……それもそうだな。どうも、ロンバー・アリンドだ」


「アラッド・パーシブルだ。よろしく」


「あぁ、色々と聞いてるよ。ドラングからな」


「そうか」


どうせ碌なことしか言わない、伝わっていないというのが解る。

目の前で自信ありありな表情をしているロンバーの表情を見れば、完全にドラングの言葉を信用しきっているのが一発で分かってしまう。


同じ侯爵家の人間ではあるが、出来ない奴認定している事もあり、確実に下に見ている。


(とてつもなく面倒な相手だが……父さんのことを考えると、荒事にしないのが一番だよな)


とりあえずさっさとロンバーとの会話を終わらせたい。

そんな思いを……上から目線が隠せていないロンバーがあっさりと打ち砕いた。

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