二百五話 目指している一手

(完全に警戒されてると、全然入らないな!!!)


アラッドとバイアードの戦いが始まってから既に五分が経過してるが……未だにアラッドはバイアードに一撃を入れられていない。


まだ糸という切り札は残しているものの、それ以外の手札は全て使った。

それにもかかわらず、バイアードに対して良い感じの一撃をぶち込めていない。


(この剣は悪くない。色々と小細工も使ってるんだが……初見で全て対応するとか、ちょっとヤバ過ぎないか?)


毎日欠かさず魔力操作の訓練は続けているので、そんじょそこらの魔法使いには負けない魔力操作の腕を持っており、体や武器に属性魔力を纏っていれば色々と小細工が出来る。


その小細工で大したダメージが入るとは思っていない。

思っていないが……それにしても攻撃を当てられない。


「はぁぁああああああああッ!!!!!!」


「ぬぅ……ふん!!!!!」


バッシュを叩きこんでからの剣圧で鍔迫り合いを制そうとするが、無情にも弾かれる。


しかし、もう馬鹿正直に攻めても勝てないのは解っているので、左右からウィンドランスとファイヤーランスをぶち込んだ。


「喝ッッッッッッッツ!!!!!!!!」


だが、剣を振るう訳でもなく……体技スキルの技、気合入魂による衝撃波だけで掻き消された。


(嘘だろ!!!???)


この結果にはここ最近で一番驚かされたアラッド。


だからといって次の手を止めることなく、ロングソードに雷の魔力を纏い、そのまま脱力を駆使した突きを放った。


放たれた攻撃は空を割る雷の槍。


鍔迫り合いに力を使わせ、更には両側から風槍と炎槍の対処。

そこにスピード重視の攻撃が続く。


(見事、見事ですが……やはり強い)


学園を卒業したばかりの騎士でも……今の攻撃を全て対処するのは難しい。

大半の者が風槍か炎槍の対処に失敗。もしくは、雷の猛突にやられてしまう。


しかし、気合入魂で風槍と炎槍を吹き飛ばしただけではなく、集中力を増加させたバイアードを最後の攻撃に見事反応。


「はっ!!!」


刃に火の魔力を纏わせ、アラッドの攻撃を斬り裂いた。


「ッ!!?? い、今の連撃を、軽々と……流石、父さんとグラストさんの大先輩ですね」


「いやいや、正直……気合入魂を使っていなければ、最後の攻撃は対応出来なかった」


お世辞ではなく、正直な感想だった。


(魔法も得意だというのはこの戦いで解ってはいたが、あぁも剣戟の中に自然と織り込む……魔法剣士としての力量は、一流に近いか……同レベルだ)


本当にフールは末恐ろしい子供をつくった……と思ったバイアードだが、実際のところはアラッドが勝手に強くなっただけで、戦闘面に関してフールはあまり触れていない。


(気合入魂か……正直、あれは目標にしてる部分なんだが……実際にやる人は初めて見たな)


自身に飛んでくる攻撃魔法を気合を入れる技で弾き飛ばす。


アラッドも気合入魂は習得しているが、ランス系の魔法を掻き消すことは出来ない。


「すぅーーーー……はぁーーーーーー…………」


「ッ!!!」


先程までに戦意と闘志に満ち溢れた目とは違い…………据わっている。


(ここからか!!)


そう……ここからが、アラッドの本当の全力。


スレッドスラッシュ、スレッドクロウ、スレッドサークルが主な武器。

スレッドチェンジを使用し、扱う糸は全て鋼糸。


つまり……バイアードが体を魔力で防御、もしくは硬化などを使ってガードしなければ、大ダメージを与えられるかはさておき……必ず切れはする。


「ッ! なるほど、これは! 神経を削る、な!!!」


「対応するの、早過ぎませんか」


「これでも、今まで多くの者たちと戦って、きている!!! 経験値のお陰、といったところ、だろう!!!!」


過去に糸を使う暗殺者と戦い、勝利したことがある。

その経験があり、アラッドが次にどういった攻撃を行ってるのか……ある程度は予測出来る。


ただ、これでアラッド自身がロングソードを振るうか、体技を使用する。

そして攻撃、もしくは妨害魔法を発動。


そこに糸による攻撃が加わり……同時に三種類の攻撃を行える。


(ふふ、血が滾るわ!!!!!!)


だが……並ならぬ猛者たちと戦い続けてきた男は……既に全盛期を超えど、騎士としての……戦闘者としてのプライドが、好奇心が引くことを選ばない。

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