二百六話 次は本気の戦意を引き出す

「参りました」


「うむ、良い戦いだった」


二人の戦いは約十五分ほど続き……結果はバイアードの勝利で終わった。


「アラッド様、お疲れ様です」


「おう……ふぅーーーーーーー、超疲れた」


アラッドは全力で……途中からは殺気を撒き散らしながら戦った。


全力中の全力。

その状態で戦わなければ、バイアードの遊び相手にすらならないと思った。


「本当に良い戦いだった。当たり前だが、同年代でアラッド君に敵う者はいないだろう」


「ありがとうございます。でも、バイアード様は全く全力じゃなかったですよね」


「……ふふ、悔しがるところはそこか。まぁ、これでも何十年と戦場に身を置いてきた。まだまだ若造には負けんよ」


確かにバイアードは全力中の全力で戦はなかった。

だが……アラッドが糸を使い始めてから、長年の経験で培った直感がなければ躱せなかった致命的な一撃が多いと感じた。


(とはいっても、アラッド君があと十年も経てば……私が老いるとはいえ、模擬戦では勝てなくなるだろう)


バイアード的には、学園を卒業してから数年経つ騎士を相手にする気持ちで戦っていた。


ただ、アラッドの手札は一般的な騎士とは違うため、警戒心だけはマックスに引き上げて戦っていた。


「そうですか……もし、次模擬戦をする機会があれば、バイアード様から本当の戦意を引き出せるようになります」


「楽しみにしとるよ」


今回の戦いで戦意が滾っていなかった訳ではない。


それでも、本当に面白い相手が現れ……見たことがない何かと戦う。

そんな気持ちが強く、敵を倒すための戦意は湧いてなかった。


まだまだ格上のバイアードに対し、アラッドは本気中の本気……バイアードを殺すつもりで戦った。

それでも足りないかもしれないと思っていたが……結果として、今のアラッドでは力及ばず。


「アラッド様、お見事です」


「うっす……でも、俺的にはあんまり良い結果じゃなかった」


「……確かに、負けという結果は良い結果ではありません」


どんな勝負の世界でも、負けは負け。

特に今回、アラッドは倒す気ではなく……殺すつもりで、モンスターと対峙する時と同じ気持ちで勝負を挑んだ。


にも拘わらず、結果はバイアードの本気を出すことができずに負けた。


「ですが、今のアラッド様であれば……新しく入隊した騎士には焦らず勝てるでしょう」


「……かもしれませんね」


入隊したばかりの騎士という言葉を聞き、アラッドの偶には以前軽く模擬戦を行った新入りの騎士……モーナが頭に浮かんだ。


(入隊したばかりの騎士だと、まず子供なのにあり得ない身体能力の高さを持っているって点で戸惑いそうだ)


その隙を許すアラッドではなく、もし新人の騎士と戦うことになれば、アラッドが考える通りになる可能性は非常に高い。


「そして、糸を使い始めれば……おそらく、騎士となって五年、六年と経つ者でも対応が困難になるかと」


「…………ダリアも、同じ感想?」


「そうっすね。お二人が戦っている最中に、もし自分がアラッド様と本気で戦ってたらって考えてたんすけど、二回か三回ぐらいは死んでたっすね」


「そうか……でも、次の戦いではそうはいかないだろ」


「そりゃ俺だって学ぶっすからね。モニカも一緒だろ」


同じ護衛のモニカに話を振るが、振られた本人は大きなため息を吐きながら答えた。


「あんたねぇ……そもそも私じゃ、アラッド様と動きの速さが違い過ぎるの。今回の戦いでアラッド様の戦い方が全部分かっても、一対一の勝負じゃどう足掻いても無理よ。持ってるマジックアイテムとかフルで装備して良いなら話は変わるけど、それはフェアじゃないでしょ」


「うっ、すまん。分かった、俺が悪かった」


モニカの言葉通り、魔法使いがアラッドと戦うには分が悪過ぎる。


上級の魔法を速攻で放てるのであれば別だが、中級の攻撃魔法であればアラッドも速攻で放てる。

そして接近されると、魔法メインで戦う者のスピードや反応速度だと、糸まで意識を避けきれない。


(……いつか、あれに対応してみせる)


今の実力では、どんな奇跡が起きても勝てない。

それを改めて思い知らされたレイ嬢だが……それでも強くなりたい、アラッドに追いつきたいという闘争心は一ミリも小さくなっていなかった。

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