二百三話 同じ目

バイアードとグラストによってナーガ・レンバルトがしこたま説教を食らい……お礼の品を受け取ることになった。

ナーガと息子であるネーガルから直接謝罪を受け取ることも可能……だったが、アラッドはそれを断った。


自信満々な態度でレイ嬢をお茶に誘い、隣に立っていた男を軽く見下した目を向けていたにもかかわらず、あっさりと……ズバッと誘いを断られた。

そんな光景を見れただけで、アラッドとしては充分面白いものを見させてもらった気分。


レイ嬢もアラッドが必要ないのであれば、謝罪は必要ないと伝えた。

なので、せめてもの謝意として礼の品が送られた。


そしてその件から数日後……いよいよ翌日には別れる日がやって来た。

いつも通り、モンスターの狩りに精を出す……のではなく、森の中に入ったが……向き合っているのはバイアードとアラッド。


「アラッド君、私と全力で戦ってみてはくれないか」


その言葉が切っ掛けとなり、二人が面と向かう状態となった。

模擬戦であれば冒険者ギルドの訓練場でやれば良い……かもしれないが、他の者たちに被害が及ぶ可能性がゼロではない為、森の中へと移動。


アラッドとしても、バイアードの様な強者と戦えるのは良い機会と判断し、快諾。


(本当に全力でやらないとな……でも、糸だけは使わないでおくか)


糸を使わない状態が全力と言えるのか……いや、全力とは言えないだろう。

だが、糸を攻撃に使用すれば、非常に殺傷能力が高いものとなる。


アラッドの意外と強い負けん気。

自分が本気を出しても問題無いと思えるバイアードだからこそ、リミッターを制御せずに甘えてしまう。


その先に起こる万が一が怖いと思い、糸は使わないつもりで挑む。


ただ……先日、本当に運良く手に入れることができた主を選ぶ剣を抜き、錬金術師のおばあさんから貰った指輪もがっつり装備。


既に道中で遭遇したモンスターを相手にし、準備運動はバッチリ。


「すぅーーー、はぁーーーーー」


相手はどう考えても格上の騎士。

父親であるフールの先輩……弱い訳がない。


周辺の伐採は既に済んでおり、二人が暴れても問題無い。


「それでは……始め!!!」


二人の準備が整ったのを確認し、審判であるグラストが試合開始の合図を行った。


その瞬間、身体強化と脚力強化を使用したアラッドが全速力でバイアードに向かって突っ込んだ。


「ッ!!!! ぬぅ……中々の威力。初手から本気か」


「手を抜いてなんとかなるとは、全く考えていないので」


胸を借りるのではなく……全力で勝ちを取りに行く目。

その目を再確認できたバイアードは獣の様に口端を吊り上げ、大きな声で笑った。


「はっはっは!!!! それでこそ、あいつの息子だ!! そうだ、全力で倒しに来い!!!!!」


バイアードの脳裏には……かつてアラッドと同じ様に全力で自分に勝ちに来たフールの姿が浮かんでいた。


(この闘志が籠った目……あやつそっくりだ!!!!!)


見た目はほわほわのんびりした優男だが……ひとたび戦闘となれば、雰囲気がガラッと変わる。

そんな中……自身と同等の力量を持つ相手か、格上が相手の時に見せる目は……他者を圧倒する強さと恐ろしさがあった。


「シッ!!!!」


「ふんっ!!!!」


まだ力をセーブしているとはいえ、バイアードの斬撃は周囲に衝撃を与え……そんなバイアードの攻撃にアラッドは勇猛果敢に付いていく。


「…………」


二人の剣戟を観たレイ嬢は開いた口が塞がらない……なんてはしたない状態にはなっていないが、それでも声が出ない程二人の戦いに驚き……見入ってしまっていた。


(クソッ!!! やっぱりそう簡単に、良い一撃は入れさせてもらえないか!!!!)


レベル、経験、体格。

多くの部分でバイアードはアラッドを上回っている。


そして指導者としての腕も確かであり、アラッドがギリギリ付いて来られる速さと力を維持。

故に良い勝負をしている様に見えるかもしれないが……実際のところ、思いっきり手加減されているのが事実。


勝てる戦いではないと解っていても、勝ちたい気持ちは消えない。

二分ほど剣戟に時間を使うと……剣だけで勝つのは諦め、アラッドは攻撃魔法を使用し始めた。

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