二百二話 逃れられない責任

「アラッド様、道中は大変でしたね」


「ん? 何がだ」


レイ嬢とのデートが無事に終わり、夕食を食べ終えた後……いつも通り休むことなく錬金術の腕を磨くために、ポーション造りを行うアラッド。


「その……途中で失礼な子供がお二人に声を掛けたじゃないですか」


「あぁ~~、確か……ネーガル、だったか」


「この街を治めている貴族の令息です」


「らしいな……まぁ、後ろの騎士二人を使って実力行使することはなかったから、特に困らなかったな」


困る、面倒と感じるよりも……マナー違反を堂々と行うネーガルを見て面白い、可哀想と思うところが大きく、面白いものを見れた……というのが正直なところ。


「はは! 仮に騎士二人を使おうとすれば、俺たちが出動してしたっすよ」


「そうなるだろうな……そっちの方が、有難い」


日々努力を欠かさないアラッドだが、流石にネーガルの後ろにいた騎士二人が動けば……手加減をする余裕はない。

最悪の場合、殺してしまう可能性があった。


そう考えると、陰から見守ってくれていたガルシアやダリアが出動してくれる方が、色々と有難い。


「普通に考えてあり得ないのですけどね」


モニカの言葉通り、ネーガルの行動は貴族として……いや、人間の常識的に考えて、マナー違反。

後ろに騎士二人を従えてやって来るあたり、性根が腐っていると感じた。


「モニカの言う通りだな。アラッド様は優しいが、アラッド様ぐらいの立場であれば……打ち首は無理だとしても、その場であの令息をボコボコにしても、文句は言われないっすよ」


「ふ~~~~~ん…………俺としては、滑稽だったし……あれはあれで見てて面白かったからな……今更好きなだけ殴ってもらって構わないって言われても、ボコボコにするつもりはないですよ」


その言葉に嘘はなく、アラッドは心の底からネーガルの行動を見てて面白いと思っていた。


(行動自体はよろしくない事だけど、あそこまであっさり断られるところを見ると……ふふ、思い出しただけでも笑ってしまうな)


自信満々に声を掛け……尚且つ、隣に立っている少年よりも自分の方が上だと思わせる。


ネーガルとしては、レイ嬢が自分の誘いに乗ってくれると完全に思っていた。

自身に満ち溢れており、失敗するなんて思っていなかった……これを機に、気になる人との距離を縮められるかと思っていたのだ。


だが、その想いは呆気なく打ち砕かれた。

有無を言わさぬ態度で……言葉で砕かれたのだ。


ネーガルの精神ダメージが回復した頃には、二人の姿はなく……自身の恋が終わったという絶望に浸るしかなかった。


「心が広いっすね。けど、あの令息のやられようは確かに滑稽だったっすね」


「同感ね。あそこまでバッサリフラれると……ほんの少しだけ可哀そうとすら思える」


滑稽で可哀想。

その感想はガルシアとシーリアも含めて同じだった。


「あっ、そういえばバイアード様とグラストさんが領主の屋敷に向かったらしいっすよ」


「何をしに……っていうのは愚問か」


ネーガルの行動を考えれば当然の結果。


ただ……父親であるナーガ・レンバルトだけは少々可哀そうだと思った。


(子が起こした責任を親が取るのは当たり前かもしれないけど……それでも二人から説教? されるのはな……大人でもビビるだろうな)


普段は柔らかい物腰の二人だが、怒りの感情が表に出れば……大の大人でも耐性がなければ、震えビビってしまう。


ナーガとしては自分の息子よりもアラッドの方が優秀なんてことはあり得ない!!!! なんて頭に虫が湧いてるかの様な考えは持っていない。


子爵家ということもあり、アラッドがレイ嬢以外の令息や令嬢たちとお茶会をし……友好関係を持ったという話は耳に入っている。


ネーガルはその話を知らなかったが……親であるナーガは教育に失敗してるとは思っていなかった為、まさか自分の子供がマナー違反を堂々と行うとは一ミリも考えていなかった。


そのため、騎士から事の顛末を聞いた領主は卒倒しそうになった。

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