百九十三話 保険付き

アラッドが亜空間から取り出したガントレットを装備し、腰を落として拳を構えると……次に繰り出される一撃はヤバいと本能的に察知したレッドビートル。


攻撃を繰り出される前に潰したいと思い、突進スキルによる技……ダッシュブレイクを発動しながら突っ込む。

ダッシュ時に加速効果があり、衝撃時には威力増大。


しかし、その大きな威力を敵に与える代償として、少々技の反動が自身に返ってくる。


だが……レッドビートルの防御力を持ってすれば、その程度の反動など大したダメージではない。

よって、レッドビートルはほぼリスクなしで最強の突進技を発動し、アラッドを串刺しにしようとする。


「せいっ!!!!!」


レッドビートルが直ぐに自分の攻撃に反応するということは分っており、アラッドもただの正拳突きを放つつもりはない。


レッドビートルの角が自身の体に迫りくるタイミングを見極め、体技のスキルの技である崩岩拳を繰り出した。


技名通り、岩をも崩壊させる威力を秘めた一撃。

七歳の子供が放っても、実際大きな岩を破壊するのは難しく……そもそも七歳の子供が習得出来る様なスキルではない。


ただ、アラッドの訓練量とレベルのお陰で……大人顔負けの崩岩拳を会得。


拳には当然魔力を纏い、今繰り出せる最強の一撃を放つ事だけに集中。


そしてダッシュブレイクと崩岩拳がついにぶつかり合い……結果、レッドビートルの角はバキッと折れた。

アラッドとしては結果オーライな出来だが、ダッシュブレイクに崩岩拳を合わせた本人は……ダッシュブレイクの威力を完全に殺すことが出来ず、レッドビートルと同じく後方に吹き飛んだ。


「うぉ、っと」


だが、こうなることを予測しており、事前に自身と周囲の木々に伸縮性が強い糸を繋いでいた。

その結果……レイ嬢たちの方へ吹き飛びそうになりながらも、ギリギリのところで今度は前方に跳ね……ジャストタイミングで糸を放す。


そしてようやく大きな隙を見せたレッドビートルの上を取って右手に風の魔力を纏い、全力で風刀を放つ。

丁度甲殻の境目を狙い、風刀は見事にレッドビートルの体をそのまま切り裂いた。


「もう、一丁!!!!」


今度は羽がある頭部より下の部分を真っ二つに切り裂き……碌に動けない状態にした。


「はぁ、はぁ、はぁーーー……終わった~~~~~」


一ミリもレッドビートルが動かないのを確認し、アラッドは地面に腰を下ろした。


「ワゥ!!!」


「お疲れ様です、アラッド様」


「おう。いやぁ~~~~、本当に堅かった」


アラッドの蹴りや拳は決して軽くなかったが、レッドビートルは何発……何十と食らっても機動力を落とすことなく、アラッドへの猛攻が止まらなかった。


「アラッド様、右手にお怪我はありませんか?」


「大丈夫ですよ。リンが造ったガントレットのお陰で、本当に問題無し。まぁ……本当は武器なしで倒してみたかったんすけどね」


愛剣である鋼鉄の剛剣や、先日購入した持ち手を選ぶ剣を使えば……もっと楽に勝てたかもしれない。

だが、アラッドは暴走したレッドビートルとの戦いは……武器を使わずに勝つことに意味があると思い、実行しようとした。


なので、アラッドとしてはガントレットは一応武器に入るので、やや不本意な勝ち方であった。


「いやはや、ガントレットを装備したとはいえ、暴走状態のレッドビートルの突進に拳を合わせ、角をへし折るとは……見事としか言いようがない」


「ありがとうございます……バイアード様、気になる気配はありましたか」


自分と同じ考えに至っているだろうと思い、アラッドはバイアードに細かい説明を省いて問うた。


「ふむ……残念ながら、怪しい奴らの気配は感じられなかった。だが、その考えで間違いないだろう」


「そうですか……なら、仕方ありませんね」


当然だが、バイアードの感知力はアラッドよりも上。

そんなバイアードに加えて嗅覚に優れたクロやガルシアに、風の流れに敏感なシーリアがいても、怪しい連中の気配を感じ取れなかった。


大人たちとアラッドがレッドビートルを暴走状態にさせた犯人について悩んでいる間……レイ嬢は先程の光景が目に焼き付き、少しの間驚き固まっていた。

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