百九十四話 壁を越えた?
(本当に……強い)
自分より何倍も強いというのは分かっていたが、暴走状態のレッドビートルを一人で倒した。
この事実に対し……やはり、驚かずにはいられなかった。
(最後の正拳……いや、あれは体技スキルの崩岩拳か? レッドビートルの角を折るなんて……とんでもない威力だ。それに、自身と木々に糸を付けて衝撃に備える……瞬時に柔軟な発想を浮かべ、実行した……私は、とんでもない光景を見れたのだろうな)
七歳の子供が暴走状態のレッドビートルを一人で倒した。
確かにその光景は普通ではあり得ない光景。
他人にその光景を説明しても信じられないかもしれないが、それでもレイ嬢は自身の目でアラッドがレッドビートルに一人で立ち向かい、最後まで一人で戦って倒したという光景を確かに見た。
脳に……記憶に焼き付けた。
(アラッドは……本当に凄いな)
暴走状態のレッドビートルを一人で倒すという、年齢を考えれば十分な偉業を成し遂げたアラッドに対し……レイ嬢は更に尊敬の念を強めた。
(いつか……必ず追い抜く!!)
ただ、レイ嬢はアラッドの圧倒的な実力を目にしても……憧れだけで止まることはなかった。
今はまだ到底追いつけないが、いつか必ず追い抜く……絶対に追い抜くという熱い炎が心に灯った。
(ほぅ……さすが私の孫だな)
レイ嬢から発せられた熱を感じたバイアードは、もしかしたらあまりにも飛び抜けた同世代の実力を見て、意気消沈してるのではと思っていたが……それは余計な心配だった。
(しかし、いったいどこのどいつが私の孫娘を……組織ごと潰したいところだが、今動いても時間を無駄にするだけだな)
孫娘を殺ろうとした人物、組織に圧倒的な絶望を味合わせてから殺したいほどの怒りが募るバイアードだが、冷静な部分は失われていない。
それはレイ嬢の護衛である騎士たちも同じ気持ちだった。
「バイアード様、どうしますか?」
このまま森の中で狩りを続けても大丈夫ですかね? という問いにバイアードは少し返答に悩んだが、直ぐに問題はないと返した。
「このまま続けても良かろう。いや、今は少し休憩するべきか」
「はは、お気遣い感謝します」
終わってみれば完勝と思われる試合内容だったかもしれないが、アラッドは体力と精神力、両方をそれなりに消耗していた。
(Cランクのレッドビートルが暴走してたってのを考えれば、機動力や力はBランクに入っていた……か? でも、本当にBランク並みのパワーがあったら、最後の激突で俺の骨が折れていてもおかしくないよな……それを考えれば、暴走していてもCランクの域は出ていなかったか)
レッドビートルの渾身の一撃であるダッシュブレイクを崩岩拳で迎え撃ったアラッドだが、右拳の骨に異常はなく動かせる。
その事実からレッドビートルの攻撃力はBランクのモンスターほどの力はなかったのか。
そう考えるが、実際に外から戦いを観ていたグラストやバイアードの答えは違った。
(最後の一撃はおそらく、Bランクのモンスターと同等の威力があった筈……衝撃で後方に飛ばされはしましたが、それでもアラッド様の一撃はレッドビートルの角を確かに折った)
(一つ、壁を越えた瞬間……だったのかもしれないな。そう考えれば、あの一戦を直に見れた私は幸せ者だな)
戦士が……戦う者が、実戦で目の前に立ちふさがる壁を越えた。
その光景を見れたことに、二人はとても満足感を得ていた。
「すいません、もう動けます」
腰を上げ、アラッドはもう動けることを皆に伝えた。
太陽が沈むまでまだまだ時間はある。
レイ嬢は先程心に灯った炎を絶やすことなく、遭遇したモンスターと戦い、苛烈な攻めで勝利を収める。
人によっては危険な戦い方だと思うかもしれないが、自身が成長……進化するために、アラッドに追いつくためには必要な経験。
そんなレイ嬢の気持ちを理解しているからこそ、バイアードはレイ嬢の攻め方を止めなかった。
ただ、当たり前だが万が一が起こらないようにバイアードを含め、護衛の騎士たちをいつでも動けるように準備していたが、今日一日の間でその万が一が起こることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます