百九十二話 全く衰えない動きにイライラ

(こんなにドキドキするのは……久しぶりか)


ここ最近……随分とモンスターとの戦いにも慣れ、偶に遭遇するCランクのモンスターも一体だけであれば、確実に倒せる。


仮に複数体のCランクモンスターが襲ってきても、クロやガルシアたちと一緒に戦えば問題無く倒せる。


しかし、暴走したレッドビートルとの戦いは、自分一人だけで行うと決めた。

グラストたちは万が一のことを考えて準備万端だが、アラッドはグラストたちの助けを借りるなんて、一ミリも考えていない。


(しっかし……もしかして、昆虫系のモンスターはあまり学習しないのか?)


一発で勝負を終わらせる威力がないとはいえ、アラッドの攻撃は確実にレッドビートルの体内に蓄積されている。


レッドビートルは体に魔力を纏ったり、強化系のスキルを使ってはいるが、毎回面白いぐらいにアラッドの糸に引っ掛かってしまう。


勿論盛大に転んでしまうようなことはないが、それでも毎回大事な一瞬を奪われ、アラッドの気合の乗った一撃を食らってしまう。


ただ……レッドビートルのことをちょっとおバカなのか? と思いながらも、堅い角による突進や突き上げは非常に恐怖を感じる。


アラッドが全力で防御に徹したとしても、体格差のせいで盛大に吹き飛ばされるのは間違いない。

加えて、運良くて骨に罅が入る。


運が悪ければ、骨折……骨が体の外に飛び出る可能性もある。


それが分かってるからこそ、戦いを優位に進めていても緊張感が消えることはない。


(つか、本当にこいつ……いつ用意されたんだ? 多分テイマーか……いや、テイマーじゃないか。洗脳系? のスキルを持ってる悪党が俺たちに仕向けたんだろうけど……森の中に入ってから、それっぽい視線は感じなかったんだけどな)


先日レイ嬢とデートしている時には、グラストたち以外の……あまりよろしくない連中からの視線は感じ取れていた。


だが、本日はそれらしい視線を一回も感じることがなく、気付けば暴走状態のレッドビートルが全速力で襲ってきた。


(超遠い場所からでも正確に見れるスキルか……それとも超高性能なマジックアイテムの望遠鏡? でも使ってこっちの動向を確認してたのか……どっちも可能性としてはあり得そうだな)


アラッドが子供にしてはあり得ない感知能力を持つとはいえ、プロの戦闘者からすればそれなり。

感知、探索が仕事メインの仕事である斥候には敵わない。


クロも嗅覚による感知は得意だが、それでも限度がある。

それに匂いを嗅ぎ取ったとしても、その人物が悪人か善人かまでは分からない。


(おそらく、レッドビートルの暴走は人為的。俺たちの中の誰か……多分、レイ嬢を狙っての襲撃。それを考えれば、まだどこかで俺とレッドビートルの戦いを観てるか? それともレッドビートルじゃ無理だと判断して、もう立ち去ってるか?)


アラッドとしては、レイ嬢を狙おうとした人物を許す気は全くなく……見逃したくないという思いが強い。

だが、それでもアラッドは最強ではない。


周りに強い人間は多いが、それでも死ぬときは死んでしまう。


(なんにせよ、今からそっちを何とかするのは無理、か……というか、そろそろイライラしてきたな)


食らえばほぼ致命傷になる一撃を何度も放ってくるレッドビートルとの戦いにスリルを感じていたアラッドだが、レッドビートルはいくらダメージを負っても基本的にスピードやパワーが失われることはない。


スタミナも中々消費しないので、勝つには重要器官を潰し……しぶとい虫の神経を警戒して体を斬り刻むしかない。


ただ、今の自分の一撃では威力が足りないと判断したアラッドは、リンが自分の為に造ってくれた特注のガントレットを亜空間から取り出し、装備。


「これならいけるだろ」


ガントレットにはCランクモンスターの素材も使われており、装備者の腕力上昇や体技による攻撃力を増加させる効果が付与されている。


リンが造ってくれた装備を信じ、アラッドは腰を落として拳を構えた。

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