百九十一話 思ったより堅い
(暴走状態ってのを考えると、さっきみたいに力勝負でいくのはあまり得策じゃないか)
先程の一撃はテンションがかなり上がっていた故に、かなり力を込めてぶん殴った。
アラッドの一撃は決して低い威力ではなかったが、レッドビートルの角には傷らしい傷が付いていなかった。
(一先ず、糸を使って優位に動くか)
既にバイアードたちには自身が五歳の誕生日に授かったスキルは糸だと伝えてあるので、躊躇することなく糸を使用。
強度を最大限にまで高め、レッドビートルがアラッドに近づこうとするたびに、脚や羽、角に糸を引っかけて動きを妨害。
「ふん!!!」
「ッ!!」
一瞬ではあるが、レッドビートルの動きを止めた瞬間を逃さず、魔力を纏った拳を叩きこむ。
(……効いてない、って感じではなさそうだな)
先程の角に拳をぶつけたのと同じく、ダメージがゼロではない。
だが、圧倒的なダメージを与えられたとも思えない。
事実、今回は甲殻をぶん殴ったが……吹き飛びはしたものの、罅は入っていない。
(暴走状態で防御力まで上がってるってことか……上等だ!!!)
そこそこの一撃では上手く仕留められないと分り、逆に絶対に体技で仕留めてやるという気持ちが溢れ出す。
「どうやらアラッド君は素手で倒すことに拘っているようだな」
「その様ですね。アラッド様は体技にも精通していますので、問題無く対応出来るかと。モンスターの暴走状態が続いてるのは少し不安ですが……万が一が起こる際に、私達が遅れなければ良い話です」
グラストやクロ、ガルシアたちも含めて勿論この戦いに割り込んで来ようとしてくる者がいないか、そちらにも注意を向けている。
ただ、アラッドに万が一があってはならない。
それが共通認識でもあり、いつでも飛び出せるように準備はしている。
(誰かに仕えることになっても、腕は全く落ちていない様だな……それにしても、なんとも使い勝手の良いスキル……あまり器用な方ではないが、羨ましいと思ってしまうな)
暴走状態のレッドビートルの力では、強度を上げたアラッドの糸であっても引き千切られてしまう。
しかし糸は何処から現れるのか分らない為、どうしても不意を突かれる形で襲い掛かってくる。
そうなってしまうと、引き千切るまでに少しの時間が生まれる。
アラッドのスピードを持ってすれば、その一瞬でレッドビートルに気合の乗った一撃をぶち込むことが可能。
今のところ決定打にこそならないが、それでもレッドビートルの巨体を押し飛ばす威力はあり、徐々にだがダメージは蓄積されている。
「……凄い」
目の前でレッドビートルの動きを的確に止め、その度に蹴りや拳を叩きこむアラッドを見て……単純ではあるが、心の底から思った言葉がポロリと零れた。
レナルトにやって来てから、アラッドがモンスターと戦う姿は何度も見てきた。
ただ、今回いきなり襲ってきたレッドビートルの強さは先日集団で襲ってきたヒポグリフよりも上。
そんなモンスターを相手に一歩も引かず、ギリギリではあるが優位に戦っている同年代の男の子。
歳変わらない筈なのに……一生追いつけないのではないか?
そう思わせるほどに、目の前の戦いからアラッドの強さを感じ取れてしまう。
(ッ!? いけない!!! 眼を逸らしてはならない!!!)
アラッドが強いことは分っていたが、予想より数段上の実力を持っていた。
ただ、それでもこの現実から目を背けてはならないと思い、アラッドが暴走状態のレッドビートルと戦う様子をしっかりと目に焼き付ける。
そして少しでも自分に真似出来る動きはないかと観察する。
実戦を体験すれば誰でも感じるが、ただ武器や五体を使って訓練するだけでは……それらの動くが実戦で活かされるとは限らない。
アラッドは動きを止められるのが一瞬なので、拳も蹴りも普段の訓練通りに放つ場合は少ない。
しかし、それでもアラッドの一撃は確実にレッドビートルの中に響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます