百四話 快適すぎる

「……眠い」


異世界に転生してから何不自由なく育ってきたアラッドだが、ここ最近……一つ悩みが生まれた。


それは……国王から貰ったベッドの寝心地が良過ぎること。

ベッドが届くまでは基本的に二度寝などすることはなく、朝食を食べ終えれば直ぐに訓練に移る。

ただ、最近は仮に出かけない日だと……一時間程度ではあるが、二度寝するようになった。


決して寝不足が続いているのではない。

現に疲れは取れている。

新しいベッドが届く前と比べて、よく寝れていると実感がある。


国王がアラッドの年齢すらも知らないので、サイズは大人用。

それも……恋人か妻がいるという想定の元、送られてきたのでサイズは超大きく、いくら転がっても相当寝相が悪くなければ落ちることはない。


「永遠に寝れそうだな」


寝ることは嫌いではない。

寝すぎるのは体に良くないと解っているので、一度起きれば昼過ぎまで寝るようなことはないが、無駄に夜遅くまで起きることはなく、時間になれば直ぐに寝る。


この世界には目覚まし時計がないので、毎度従者たちに起こしてもらっている。

今も、時間になれば直ぐに起こせるようにメイドが待機している。


「アラッド様、目を閉じなくてよろしいのですか?」


「あんまりがっつり寝ると、本当に起きれなくなりそうだから、意識は起きてるぐらいが丁度良い」


誰かが傍にいると中々寝れないかもしれないが、アラッドは盛大にだらけていた。


完全に寝てはいないが、瞼を開けるのがめんどくさいと感じるほどはベッドの心地良さに溺れている。


(確かに疲れが取れて寝心地が良いベッドが欲しいとは思ってたが、ここまで良い物をくれるとは……国王陛下は太っ腹っだな)


アラッドのベッドとして送られてきた一品は確かに超高級品ではあるが、リバーシと同じく一気に広がったチェス……そのチェスの中でも、国王が持っている駒はアラッドが国王の為だけに作った駒。


その価値を考えれば、超快適快眠キングサイズのベッドなど大した痛手ではない。


「アラッド様、一時間が経ちましたが……どうなさいますか」


メイドはアラッドから二度寝すると宣言してから一時間が経過したと伝えたが、無理に起こそうとはしない。

それは、アラッドが普段からどれだけリバーシやチェスの作業を行い、実戦や訓練を積んでいるのか知ってるからだ。


(正直なところ、アラッド様は子供ながらに働きすぎです。まぁ、その影響でフール様も負けてられないといつも以上に働いていますが……まだ寝るのであれば、昼食まではそっとしておきましょう)


さすがに昼食前には起こしておこう。

そう決めると、アラッドがベッドからのっそりと起き上がり、床に降りた。


「もう起きてもよろしいのですか?」


「……あぁ、二度寝しただけでも十分だ。あんまり生活リズムは崩したくないからな」


(まだまだ十を越えていない子供なのに、本当に意識が高いですね。本当に七歳の令息なのでしょうか?)


その疑問に関しては、屋敷の住人全員が感じていた。

アラッドが提案した料理が美味しく、それだけでもこの屋敷に勤めていて良かったなと思う者が多い。


だが……ただ魔法の才能や剣、武器の才能が同年代の子供と比べて圧倒的に高いなど、そういった次元の話ではなく、全ての面において常人離れしている。


従者たちの中には神子ではないのか? そう噂する者もいる。

実際のところ、転生者ではあるが紛れもなくフールとアリサの子供である。


動きやすい格好に着替え、木剣を持ってとりあえず兵士や騎士たちが訓練を行っている場所に向かった。


「あっ……こっちで訓練するのは止めておいた方が良いか」


なんとなく来たので、特に訓練場で訓練をする必要はないが、訓練場には兵士たちに混ざって必死な表情で素振りを繰り返すドラングの姿があった。


(相変わらず真面目に訓練してるな……ただ、ちょっと頑張り過ぎじゃないか?)


目の下に薄っすら隈があり、顔から疲れが抜けていないように見えた。


(……俺が言っても無駄というか、喧嘩腰に言葉をぶつけられるだけだな)


他の者たちに気付かれないように、足音を立てずに扉の前から移動した。

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