百三話 五歳になった時、どう考えるか

「ん~~~~~……まだよく分かりません!!!」


「……まっ、そりゃそうだよな」


予想通りの解答であった。

今のところ、アッシュはシルフィーの様に誰かに憧れではいない。


憧れる人物がいれば、大多数の人はあの人の様になりたいと一度は思う。


「俺が言うのもなんだけど、これから人生は長いんだ。いつか何かになりたいって目標が見つかるだろうな」


「目標……えっと、冒険者は楽しそうだなって、思います」


「おっ、そうか」


まさかの現時点で冒険者に興味を持っている。

絶対にその道に進むと決まった訳ではないが、弟が自分が進む道に興味を持っていることが素直に嬉しかった。


「冒険者になるなら、強くならないとな」


「アラッド兄さんの様に、ですか?」


「いや……俺はちょっと特殊だから参考にならないな。これから先、その気持ちが変わるかもしれないけど、冒険者になりたいなら強さは第一に必要だ。だから、今から真面目に鍛えておいた方が良いかもな」


自分ほど鍛えろとは言わない。

自身が行っているトレーニングや、まだ十歳になって言のにも拘らず、モンスターとの実戦を行うのはあまりにも普通ではない。


そんなことはアラッドも解っているので、強くなるにはこうするべきだ!!! という内容を強要するつもりは全くない。


(五歳の誕生日を迎えれば、冒険者になりたいって考えも変わるかもしれないしな)


今のところギーラス、ルリナ、ガルア、アラッド、ドラング。

五人とも戦闘系のスキルを授かっている。

アラッドのスキルは例外的存在だが、攻撃性……特に殺傷性が高いスキルと言える。


流れ的に、アッシュとシルフィーも五歳の誕生日にスキルを授かる可能性は非常に高い。

だが……二人とも戦闘系のスキルを授かるのか……断言出来る者はいない。


(五歳の誕生日に授かるスキルは、その人の誠実というか根っこ? が反映されるって聞いたことがあるな……もしその通りなら、アッシュが戦闘系のスキルを授かる可能性は結構低いかもしれない、か)


真似事で子供サイズの木剣を振ることはあるが、軽く体を動かす程度。

貴族の家に生まれた令息として、たしなみ程度に剣を振るう。


そんな感じの時間しか鍛錬に費やしてない。

シルフィーはアッシュと違い、大多数の時間を剣術訓練の時間に費やしている。


母のエリアとしてはもっと礼儀作法や、一般教養の学びに時間を使ってほしいと思っている。

だが、そんな母の思いとは真逆で、シルフィーはそういった堅苦しい内容を学ぶ時間を物凄く嫌っている。


礼儀作法や一般教養を学ぶ時間よりも、木剣を振っている時間の方がよっぽど楽しい。

しかし比較的に家族内で仲が良いアリサから、剣術訓練以外にもそちらを頑張らなければならないと諭され、渋々椅子に座って机に向かっている。


「真面目に鍛える……シルフィーの様に?」


「え? あ、ん~~~~~……シルフィーはちょっとそっちに時間使い過ぎって感じではあるな。でも、強くなりたいって気持ちが大きいなら、今よりも頑張った方が良いかもしれないな」


アッシュに戦闘の才能が無いのか……それともあるのか。

まだ現時点ではアラッドには分からない。


もしかしたら錬金術や、学者の道に進む方が正解かもしれない。

大人しい性格で、そこまでシルフィーの様に剣術訓練に興味がなかったとしても、戦闘の才能がないとは断言出来ない。


何故なら……人が持つ才能は、必ずしもその人が欲しいと思い、手に入るものではないから。


(今は一応木剣を振ってるが、本当にそっちに力を入れるなら短剣……もしくは細剣が似合いそうだな。そもそも武器を使わず、攻撃魔法で戦うスタイルになる可能性もあるか……エリアさんの息子なわけだしな)


いったい弟がどの様な道に進むのか。

まだまだ分からないが、兄としてアラッドはそれが決まった時、背中を押したいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る