七十八話 そろそろ焦れる
(このままじゃそろそろ限界だな)
真っ当な剣術、そして素の身体能力だけではモーナに剣が届くことはない。
それを感じ、相手はまだ自分に攻撃してこようとはせず、防御に徹している。
(どこまで通じるのか、試させてもらおう)
丁度良い実験台。
そう思いながらまずは身体強化を使った。
「えっ! ちょ!?」
いきなり剣速が上がり、剣筋も真っ当なものからフェイントや必ず当てるという執念を感じさせるものへと変化。
人によっては邪剣と呼ぶ類の攻撃だろうが、お構いなしに剣を振るう。
時には木剣の持ち手を変えて刃の部分を短くし、回転数を上げる。
(ちっ! 動揺したのは最初だけか)
最初の数撃はいきなり身体能力が上がり、剣の質が変化したことに驚き慌てた。
しかしそこは騎士。
直ぐに同じく身体強化を使い、アラッドの剣に対応した。
だが、問題無くアラッドの剣を対処しているのとは裏腹に、モーナは内心で突然の変化に物凄く慌てていた。
(きゅ、急に身体強化を使うなんて……ちょっと戦い慣れ過ぎじゃないですか? それにこの剣筋だって……剣質だけなら、百戦錬磨を感じる。直ぐに身体強化を使わなかったら本当にやられてたかもしれない)
アラッドは直ぐに自分の動きと剣を対応されたことに悔しがっているが、騎士に身体強化を使わせたことじたいが凄い偉業なのだ。
七歳の子供に騎士が身体強化を使えば、それは正真正銘の虐めだ。
だが、その騎士が身体強化を使わなければ危ないと感じた。
そしてそれは正しかった。
(……これでも無理、か。分かってはいたけど、やっぱり騎士ってのは凄いな)
グラストと偶に模擬戦を行っているので、騎士が強いというのは身に染みて解っている。
だが、グラストとの模擬戦は鍛錬のつもりで行っている。
それに対して今行っているモーナとの模擬戦はかなり勝つつもりで戦っているが、一向に押せている気がしない。
(可愛くてスタイルが良いってだけじゃないんだな……そろそろ剣以外にも増やすか)
木剣を渡されたが、木剣しか使ってはいけないというルールはない。
片手持ちに切り替え、拳や蹴りを使いながら攻め方を大きく変える。
「ちょっ! ど、どれだけ手札があるんですか!?」
「……とりあえず、色んなことに手を出してますね」
体技意外にも槍や短剣、斧などのロングソード以外の武器にも手を出しまくっている。
一つの道を究めるのが最善と考える者もいるが、アラッドにとって真メイン武器は糸。
武器以外にも魔法に手を出したりしてるので、何か一つを極めるというのは性に合わない。
(こ、この子いったい何なんですか!!!??? 絶対に七歳児じゃないですよね。どう考えても騎士……と同等な存在とは断言出来ないですけど、そこら辺の学生レベルは超えてる気がします!!!!)
見た目は騙されてはならない。
子供の皮を被った立派な獣、それが実際に戦って感じたイメージ。
「モーナさんは、本当に強いですね」
「それは、こちらの言葉です! 本当に七歳ですか!?」
「正真正銘、七歳児ですよ!」
「正直ちょっと信じられません!!!」
モーナの言葉を否定しようとは思わない。
実際、中身は二十歳を超えている。
考えや行動が七歳児でないのは当たり前。
(もっと攻めても良いよな)
なんだかんだ言いながら、自分の攻撃を余裕でガード。もしくは躱している。
そう認識したアラッドは更に攻めを加速させ、魔力の斬撃や拳、蹴りの遠距離攻撃を放つ。
「わわわわっ!!?? ちょっと苛烈過ぎじゃないですか!?」
「そんなこと言いながら、全部躱すかガードするかで全く食らわないじゃないですか!!!」
さすがにアラッドも少し焦れ始めた。
相手は格上である騎士。この模擬戦は始まる前から自分が負ける可能性が高いのは分かっていた。
だが、それでもここまで自身の攻撃が当たらないとは思っていなかった。
(できれば勝ちたいんだよな……そうだ、攻撃に使っては駄目ってだけだもんな)
一回限りの奇襲を思い付き、アラッドは必死で零れそうな笑みを堪えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます