七十九話 意識していなければ分からない
「よっと」
一切止まることなく連撃を続けていたアラッドだが、ここでステップバック。
モーナと大きく距離を取った。
「さ、さすがにスタミナ切れ……って感じじゃなさそうですね」
「えぇ、まだスタミナはあります。ただ……せっかくの模擬戦で攻めてばかりいるのもあれだと思ったんで、是非そっちから攻めてもらおうかと思って」
先程からモーナは一切攻めることなく、アラッドの攻撃を受けるか躱し続けた。
そしてここで露骨な対応の変化。
何かあるのかもしれない。そう考えるのが普通だ。
(あれだけ動けるから、相手の攻撃に合わせてカウンターを決めるのも余裕で出来そうですけど……だからといって、騎士である私が逃げるわけにはいきませんね)
アラッドが十分に強いのは身を持って理解した。
本人は正真正銘の七歳児だと断言しているが、まだ実はもっと年齢が上なのではと若干疑っている。
しかしそれでも自分が騎士。
子供が考える策一つぐらい乗り越えられず、騎士を名乗ることなんて出来ない。
「ふふ、良いでしょう。その案、受け入れます!!」
アラッドがどんな策を用意しようとも、絶対に打ち破ると誓って駆け出す。
だが、そんな思いを七歳の少年はあっさりと打ち砕いた。
「えっ、ふぶっ!!??」
自身とモーナの距離が半分ほどに縮まった瞬間を狙い、糸で脚を引っかけた。
相手はおそらくカウンター狙いで自分に一撃を与えてくると予想していたモーナはバランスを崩すと、そのまま地面に顔が激突した。
「はい、これで俺の勝ちですよね」
「……えっ!?」
顔面をそのまま地面に激突させたが、直ぐに起き上がろうとする。
しかしその直後、目の前にアラッドの脚が見えた。
そ~っと顔を上げると、そこにはモーナの頭に剣先を突き付けるアラッドが立っていた。
「えっと……模擬戦なんで、この状況は俺の勝ちになりますよね?」
「あぁ、そうだな。これは本気の決闘ではなく、模擬戦だ。急所の頭に剣先を突き付けた時点でアラッド君の勝ちだ。モーナ、それは認められるな」
「は、はい。そうですね……私の、負けです」
何故自分があそこで転んだのか。
脚に何かが引っ掛かったような感触はあった。
もしかしたらアラッドが何か仕掛けたのかもしれない。
(でも、アラッド君から全く目を離していない。何かを仕掛けた様には思えなかった……)
ただただ自分が攻撃するのを構えて待っていた。
自分が距離を縮めようと動いている間に動きはなかった。
にも拘わらず、自分は気付いたら顔を地面にぶつけて倒れていた。
「アラッド君、見事な戦いぶりだった……正直、最後何を行ったのかは分からなかったが」
「はは、まぁ……奥の手ってやつですね」
ディーネレベルの騎士であれば、糸の存在に気付ける。
モーナであっても意識すれば気付けるのだが、二人とも足元に意識が向いておらず、糸の存在に気付けなかった。
(今回の一件で足元に何か仕掛けられる可能性があるってのは分かっただろうから、次からは上手くいかないだろうな)
糸には他にも技があるが、今ここで大胆に使おうとは思っていなかったので、アリサから命じられた規制は寧ろ有難かった。
「そうか。奥の手が上手く決まったからということもあるが、君の歳でモーナに勝てる人物はいない。本当に強いな、君は」
「ありがとうございます」
「……騎士団に入るつもりは、ないんだな」
アリサから軽く話は聞いている。
フールからも期待されているが、進む道は冒険者としての道。
子供が何を目標にしてこれからの人生を歩むのか、それは子供たちの自由。
それはディーネも分かっているが、やはり惜しいと思ってしまう。
(七歳であそこまで動けるのだ。そして日々鍛錬を積み、モンスターと戦って着実にレベルを上げている……特例中の特例として試験を受け、最年少で騎士になるのも夢ではない……本当に、惜しいな)
現在騎士に任命された者の最年少は十五歳。
本来は十八歳になってから試験を受けられるのだが、過去に公爵家の人間が特例で合格し、最年少で騎士となった。
だが、ディーネはそんな天才騎士を超える可能性がアラッドにはあると確信した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます