七十七話 飽きがなく、苦と思わない
「……凄いな、お前の息子は」
「でしょ!! 超自慢の息子よ!!!」
ディーネの褒め言葉を聞き、アリサは嬉しそうにドヤ顔をする。
だが、アラッドと新人騎士のモーナが実際に戦う光景を見て、多くの女性騎士たちが驚いていた。
(本当にあれが七歳の子供か? 実は何十歳も生きているが年齢が変わらない種族……いや、フール殿とアリサの息子だ。それを考えればあり得ない話だな)
稀にいくつになってもあまり外見が変わらない者はいるが、アラッドには当てはまらない。
転生者ではあるが、現在正真正銘の七歳児。
「レベルはいくつなのか、聞いても良いか?」
「ん~~~~……それは内緒ね。ヒントを出すとしたら、冒険者のルーキーという枠からは超えてる」
「なるほど……いや、待て。なるほどではない。やはりどう考えても七歳の子があそこまで強くなることはあり得ない! いったいどのような日常を送っているのだ」
強い子供というのは確かに存在する。
大人である自分が嫉妬するような才を持つ子供が現れる。
だが、新人とはいえ騎士。
厳しい壁を乗り越え、あるいはぶち壊した者にしか辿り着けない地位。それが騎士。
その騎士であるモーナと誰がどう見ても戦いと言える内容を繰り広げている。
この光景に驚くなというのは無理な話だった。
「他の子と比べて変わってるのは確かね。まず……二日に一度は護衛と一緒に森の中に入ってモンスターと戦っているの。しかも五歳からよ」
「……アリサ、すまない。私の耳がおかしかったかもしれない。もう一度言ってくれないか」
「二日に一度森に入って、モンスターと戦ってるの。最初はその素材を冒険者ギルドで売ることが多かったけど、今では家に持って帰ってくれてるの。だから夕食の料理が一品増えることがあるの。それと、モンスターと戦い始めたのは五歳からよ」
「…………聞き間違いではなかったのだな」
もしかしたら自分が聞き間違えたかもしれない。
そう思ってもう一度訊ねたが、同じ内容が……さらに詳しくなって耳に入って来た。
「はぁ~~~~……それは強制か?」
「そんなわけないでしょ。モンスターと戦いたいと言い出したのはアラッド本人よ。戦うスパンを決めたのもね」
「根っからのバトルジャンキーということか?」
「ん~~~、それはどうかしら? アラッドは錬金術にも興味があるの。森の中を探索する時は薬草を採集して、家で暇な時間を使って日々ポーション造りに励んでるの。勿論、自身を鍛えることも怠っていない」
「そ、そうか……しかし、それだとしっかり寝てるのか不安になるな」
アリサの話を聞く限り、忙しい日々を送って休む時間が無いように思える。
だが、実際のところは違う。
「ちゃんと夜には寝てるわね。なんというか……アラッドにとって自分を鍛えること、モンスターと戦うこと。そして錬金術で何かを造ることに対して、苦しいと思ってないのよ。だから使える時間は全て自分のやりたいことに使ってる……そんな感じかしら」
「鍛錬を苦と思わないタイプか……なるほど、やや納得した」
常人には推し量れない存在。
それは分かったが、まだアラッドの強さに関して完全には納得出来ない。
「しかしアリサ、アラッド君はどのようにしてフール殿から護衛付きとはいえ、モンスターと戦う許可を得たのだ? そして……どうやって勝利の山を築き上げた」
答えられないならそれでいい。
だが、そこが何よりも気になる。
モンスターと戦う……それは死ぬかもしれないという当たり前のリスクが付き纏う。
護衛が要るとはいえ、戦うのは五歳の子供。
助けの手が遅れれば即死は免れない。
「えっと……アラッドに弟がいるのは知ってるでしょ」
「あぁ、リーナ殿の息子であるドラング君だろ……もしや二人が模擬戦を行い、その結果を考慮して特別許可を出したということか」
「ま、まぁそんなところ。結果だけ言えば……勝負は拳一発で終わったの。開幕直後に身体強化のスキルを使って、更には拳と脚に魔力を纏って懐に入って、あばらに一撃を入れた」
「魔力を部分的に纏ったのか……本当に、子供か?」
「今でもまだ幼いけど、昔からアラッドはどこか大人びてるわね。勉強だって嫌がる素振りなく学んで、魔力操作の訓練を魔力が続く限り延々と続けた」
ただの子供なら、どこかで絶対に飽きが生まれる。
しかし前世の記憶を持っている工藤 英二にはその飽きがなかった。
故に、七歳児とは思えない実力と能力を手に入れたアラッドが存在する。
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