六十話 少しの間お休みだよ
「アラッドさん、もしかしてちょっと元気ないですか?」
「……そう見えるか?」
「はい、なんどか普段と比べて表情が沈んでると言いますか」
週に一度の鍛錬の昼休憩中、バークは師であるアラッドの表情が沈んでることに気が付いた。
事実、アラッドは表情だけではなく気分も沈んでいる。
「もう少し経てば、王都のパーティーに行くんだよ」
「ぱ、パーティーですか。さすが貴族ですね」
「えっ、ラガスさん遠出するんすか?」
四人には様付はしなくて良いと伝えており、最近はさん付けで呼ばれるようになり、本人が多少砕けた言葉でも構わないと伝えた。
「あぁ、まぁ……ちょっと色々事情があってな。俺もそろそろ社交界デビューしないといけないらしい」
「ど、どれぐらいで帰ってくるんすか?」
「だいたい十日から二週間ぐらいは帰って来ないんじゃないか」
「その間、俺たちはどうすれば!?」
「自主練だな。俺がいない間も怠けるんじゃないぞ」
「う、うっす……」
アラッドとの鍛錬時間が無くなると知り、一気に表情が沈む。
だが、だらけてはいられないと気合を入れなおし、顔を上げる。
「もしかしてアラッドさん、婚約者を探しに行くのですか?」
「なんでそう思う、アミット」
「その、貴族のパーティーはそういった場でもあると聞いたことがあるので」
アミットの認識は決して間違っていない。
その他の交流を楽しむ者もいるが、婚約者探しをメインでパーティーに参加する者は少なくない。
中には親に言われてとある令嬢や令息をお近づきになろうとするケースもある。
だが、アラッドは今のところそういったことに全く興味がない。
「そうい場であるのは間違ってないだろうな。でも、俺はまだそういうのに興味がない。十五歳になって冒険者になる。冒険が始まってから良いなって思った人がいればアタックするかもしれないな」
「なるほど、冒険の中にそういう出会いがあるかもしれませんね」
「俺の母さんは冒険の最中に父さんと出会った訳だからな。その可能性は大いにある筈だ」
「それでは、結婚して冒険者を引退したらどうするのですか?」
冒険者を引退したらどうするのか。
それに関してはまだ十歳にもなっていないので、全く考えていなかった。
(冒険者を引退したら、か……どの歳まで体が動くのか分からないから、死なない限りいつ引退するとは名言出来ないな)
一生の内にこの世界を冒険し尽くせるのか。
答えはノーかもしれない。
そうなると、本当に引退際を迷ってしまう。
「いくつになったら引退するってのは決め手ないけど、引退したらここに戻って後進の育成、かな……うん、多分そんな余生を過ごすと思う」
そんな人生も悪くないと思っていることに嘘はない。
だが、アラッドの中には戦闘欲以外にも錬金術を使った生産欲がある。
その二つが歳を取っても消えなければ……生産に必要な素材が欲しいという理由で森の中に入り、モンスターを倒すといった今の様な生活を続ける……かもしれない。
「まだ冒険者にもなっていないから、先のことなんて分からないけどな。四人は……やっぱり目指せ高ランクの冒険者か?」
「勿論っす!! 目指せAランク冒険者っすね!!!」
「僕も同じですね。冒険者として生きるなら、やっぱり上を目指したいです」
男子二人の目には熱い熱が籠っており、どんな壁に当っても必ず越える……もしくはぶっ壊そうという気迫を感じ取った。
「私はこの二人が心配だからというのがありますけど……でも、バークの言う通りやるからには上を目指したいですね」
「わ、私は皆一緒に色んなところを見て回って、冒険したいです」
アミットからは二人と同じ様なやる気の炎が漏れており、エレナは上を目指すといった目標にはやや消極的だが、仲間の傷を癒し、守るためには努力を惜しまない!!! そんな意思を感じさせる。
(四人とも気合入ってるな……こりゃ将来大物になるかもな)
バークたちに対して、現時点で既に大物であるアラッドは大きく評価した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます