五十九話 初の社交界
「一か月後に王都のパーティーに行くから。アラッドも付いてきてね」
「……えっ」
フールの部屋に呼び出され、伝えられた言葉を聞いて思わず固まった。
「聞こえなかったかい? 一か月後に開かれる王都のパーティーにアラッドも参加するんだよ」
「いや、内容はバッチリ聞こえました。ただ……何故俺を連れて行くのかと思って」
アラッドは成長するにつれ、少々強面方向に向かっている。
アリサやエリア、リーナ曰く本気で戦っている時のフールに似ていると断言している。
アラッドとしては何故そんな細かい部分を引いてしまったんだと思ったが、それなりにイケメンになるであろう面なので大きな不満は無い。
しかし、社交界向けの顔ではないと思っている。
「何故って、アラッドも僕の息子だからね。そろそろ社交界に一回は出ないとね」
「……そういうものなんですね」
「うん、そういうものだね」
駄々をこねても無理だろう。
そもそも我儘を聞いてもらっている時点で、本気で断ろうという気持ちがアラッドの中にはない。
「でも、父さん。俺は結婚とかにはまだまだ興味ないですよ」
(同年代の女の子なんて更に興味ない。こっちは前世の年齢を入れれば余裕で二十歳は超えてる。スタイルの良いお姉さんとかじゃないとこう……うん、そそられない)
中身と考えが立派なおっさんであるため、まだ十歳にもなっていないSJクラスには全く興味ない。
アラッド改め、工藤英二は決してロリコンではない。
「分かってるよ。ただね……アラッドを一目見てみたいと思ってる人が多いんだよ」
「それは何故ですか?」
リバーシや積み木をつくった人物がアラッドという情報はまだ広まっていない。
故に、娯楽の件に関してアラッドに会いたいと思う人物はいない。
だが……それでもアラッドに興味がある人物がいる原因は……フールにあった。
「はっはっは、ついパーティーでアラッドが凄いということを自慢してしまってね。一目アラッドを見てみたいという知人が多いんだよ」
「……な、なるほど。そういうことでしたか」
父親が外で自分のことを自慢してくれているのは非常に嬉しい。
嬉しいが、やはり恥ずかしい。
(父さんがヘマするとは思えないから、リバーシや積み木に関してバラしてはいないはず……なら、単純に俺の強さとかを自慢してるのか? ……嬉しいけど、やっぱり少し恥ずかしいところがあるな)
リバーシは現在も好評発売中。
一時ほどの勢いはないが、国外でも売れているのでアラッドへの製作は未だに止まらない。
「分かりました。ただ、あいさつ回りが終わったら自由にしてて良いんですよね」
「そうだね。美味しい料理を食べるのも良いし、同年代の友達をつくるのもありだよ」
(美味い料理は是非とも食べたい。ただ、友達は冒険者になってからでいいかな)
学校に通う気はないので、本当に気の合う人物でなければ同じ貴族の令息と友達になろうとは思わない。
(仮に友人になったとして、どこかで俺がリバーシや積み木の制作者だってのがバレるかもしれないし)
アラッド自身がついうっかり喋ってしまう可能性もゼロではない。
本人もそれが分かっているので、あまり今は友人をつくる気にはなれなかった。
「あと、当日はリーナとドラングも一緒にパーティーに行くから」
「そ、そうですか……分かりました」
地獄みたいな空間になりそうだと思いながら退出。
最近、ドラングがアラッドに絡むことはない。
しかし仲が良くなったわけでもない。
というより、二人が仲良くなることはまずない。
(ドラングと同じ空間で何日も過ごすのか……死にそうだな)
勝手にドラングが敵視ライバル視していることもあり、居心地が悪いのは百パーセント間違いない。
だが、もう行くと言ってしまった。
今更ドラングと一緒なら行きません、等と言えない。
「はぁ~~~~~……道中は延々と錬金術のことでも考えるか」
現在アラッドは七歳。
ポーション造りも欠かさず行っており、その腕は完全に素人の域を超えていた。
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