第472話 爽やかな朝ね〜、ほんとに爽やかな朝だわ〜(棒読み)
眼を開けると、やけに不明瞭な薄暗い場所にいた。
わかっているのは後ろにヒメキアがいることと、機が熟したのか彼女を攫いに、ウォルコが訪れていることだけだ。
『どうしたデュロン、今日は調子が悪いのか?』
すでに爆裂の刃で散々に刻まれ、大量の血を流しつつも、デュロンはいつものように虚勢を張る。
『あんたこそずいぶん顔が白いじゃねーか、休憩したらどうだ?』
実際ウォルコはなぜか貧血気味で、ちょっと動いただけで息を切らしている。
理由はわからないが付け入る隙にはなる。
やはり調子の戻らない大振りな突きを見舞うと、それでもウォルコの額を掠め、ささやかな傷を作ることに成功する。
『……そのわりには、なかなか粘るじゃないか』
楽しそうな、それでいてどこか悲しげなウォルコの笑みに向かって、啖呵を切るデュロン。
『俺は動けねーだけだ。ただ突っ立ってるだけのことが、できねー道理がねーだろうが。まして後ろにヒメキアがいる。足に根でも生やしゃ済む話だ』
自分で言っておいてなんだが、今の台詞からなにかヒントが得られそうな気がした。
しかしそれを試す前にウォルコは踵を返し、いつかと同じように横顔で捨て台詞を残していく。
『また来るよ。次はお互い万全のときがいいな』
ウォルコが去るが、ヒメキアがなにも言わないことで、デュロンはようやく違和感を覚えた。
というかヒメキアの輪郭がやけにぼんやりしている。
いや、ちょっと待て。そもそも今デュロンは、ヒメキアと一緒にいないはずなのだ。
なぜならアクエリカと一緒に、ここは……どこだった……?
顔に差し込む朝の陽射しで、ようやくデュロンは本当に眼を覚ました。
浅い眠りを繰り返していたようで、寝違え気味の首とは別に頭も痛い。
有事の際に即起きられるよう、完全に入眠しないために硬めのソファを選んだことを思い出した。
そうだ、ここはユリアーナが院長を務める修道院だ。
そしてデュロンは護衛上の観点から、アクエリカと同じ部屋に……。
「おはよう~、デュロン~。昨夜はお楽しみでしたね~」
掛けられた声に振り向くと、アクエリカがベッドの上で上体を起こし、気持ちよさそうに伸びをするところだった。
ワンピース型の寝間着が乱れてあられもない感じになっているのもそうだが、発言内容にも異議がある。
「な、なんで知って……アッ! 違う、今のなし!」
「あらあらあら~、本当にユリアーナといやらしいことをしちゃったのかしら、この狼さんは~? どんなふうだったか、お姉さんに教えてみなさい?」
いつもいつもこうして一方的にからかわれるのも癪だ。
ふと思いついたデュロンは、精一杯の演技力で苦悩してみせる。
「しょうがねーだろ、全裸で待ち構えてるとは思わないじゃねーか」
途端にアクエリカは真顔になり、血の気が引いた額に青筋が浮かぶ。
「……えっ? まさかマジでわたくしのユリアーナに手を出したの? ブッ殺すわよこのクソガキ」
「うっわめんどくせ! 嘘嘘、冗談だから! 双方通行で重いのかよ、最初に言っとけよ!」
「誰が重いですって!? わたくしの質量、リンゴ三個ぶん~!」
「だとしたらまずもって心配なのは骨密度だよ」
「かなりデカいメロン約二十個ぶん~」
「かと言ってリアルな数字を出されてもどうしろと」
ようやくアクエリカが落ち着きを取り戻した頃合いで、なんかどこかからの呼び声が聞こえてきた。
「デュゥーロンくゥーん! あっそびィましょォーィ!」
「あら~デュロン、ずいぶん元気なお友達ね」
「こんなデケー濁声出す友達がいてたまるかよ、つーかなんで普通に来てんだよ……」
「そりゃァおめェ、ここは結構、ゾーラの祓魔寮から近ェんだよ」
「うわ出た!」
かなり高い位置にある明かり取り窓から、ギョロつく双眸が覗き込んできた。
ギャディーヤは三メートルほどの巨漢なので、そういうことが可能なのを忘れていた。
「出たたァーご挨拶だな、
「はい、ごきげんよう。そういうわけなので、デュロン、行ってらっしゃいね」
ゆるゆると手を振る上司の指示に逆らえず庭に出てみると、ギャディーヤとレミレが待っていてくれる。
この二人も忙しいだろうにわざわざ申し訳ない……という殊勝な気持ちは、次の瞬間に吹っ飛んだ。
「出たわね、送り狼の王」
「そのイジリ方やめてくれる? そういうアンタは俺の元祖・水場の女だ」
「水場の女という概念がちょっとよくわからないけど、あなたの初めてというのは悪い気はしないわね」
「で、やったか? やっちまったのか?」
「ほんと相変わらずだなアンタら、悪い意味で大人なんだよな」
幸先が良いかは微妙なところだが……ともかく枢機卿会議、会期二日目が元気にスタートだ。
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