第446話 なんかそういうことがあったかなかったかで言うとなかったようです、NOTギデオン(動詞)です

 修道院の玄関ロビーに招き入れられた後、どうしてもからかい返したくなったようで、アクエリカがユリアーナを不躾に指差しながら言った。


「彼女、ドラゴスラヴのお師匠様」

「え!? あんちゃんの!? もしかしてめちゃくちゃスゲー人なんじゃ……」

「そうよ? 無礼がないよう気を付けなさいね、デュロン」

「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに彼は私を揺籃の師のように思ってくれているようですが、たまたま上手くコツが噛み合っただけで……順を追って説明しますね?」

「ユリアーナはこう見えてムッツリドスケベ女だから、あの顔だけは男前のお坊ちゃんが相手ではね。辛抱たまらず咥え込んでしまったというわけ」

「違いますよー、ありませんよそんなことは。ただ、彼の固有魔術は潜在能力からして、もしかしたら本来もっと自由度が高かったかもしれないのに、それを狭めてしまった可能性があるというのが、少し後悔している点ではあるんですけど……」


 冷静に軽く笑って否定し話を変えるあたり、アクエリカの扱いをよくわかっている。

 というか、よしんばユリアーナがドラゴスラヴと男女の関係になっていたとして、アクエリカのド下品な言い様には閉口する。

 そういうところが勝手に敗ける原因じゃねーのか、というデュロンの思考が伝わったのか、アクエリカは若干クサクサしつつも説明してくれた。


「昔……十年くらい前なのかしら? 当時の彼はまだあの固有魔術を確立していなくて、自分の腕を爆破しながら突きを撃つとかいう、脅威的に頭悪い戦法をしていたそうなの」

「マジか……それ威力上がるのか?」

「いえ、やはりお世辞にも効率的とは言えなかったのですが、つまり当時の彼がそれくらい荒れていた証左だと思ってください。

 身体強度と再生能力の高さにかこつけて自暴自棄に暴れていたので、見ていられず保護してお世話したはいいものの、なかなか生き方を変えてはくれず……。

 あるとき『もっと攻撃より防御のことを考えてください』と言ったら、『じゃあ手本を見せてみろよ』とこう来たわけですね。

 幸い私の固有魔術は防御や支援に使うタイプなので、これを機に私なりにとレクチャーしていたら、結果いつの間にかああなっていまして……。

 鶏が先か卵が先かという話なんですが、魔術の形態変化に引っ張られるように、彼の性格も『守る』が主軸になっていったようで……」

「で、今ああいう能力と物腰になってるわけか。スゲーいいことしたんじゃねーの、ユリアーナさん」

「だ、だといいのですけど……そのー、私見としてはですね……」

「もう、彼自身がここにいるでなし、はっきり言いなさいな」


 アクエリカに促され、ユリアーナは顔を赤らめて、しどろもどろになりつつも言い募る。


「え、えーと、当時の私は彼のなんと言いますか、尖っていて危なっかしいところが、えー、それで気になったようなところがありまして。自分でなだらかにしておいてなに言ってんだという話ではあるんですけど、私だけじゃなくてですね、一般論としてですね……そういうトッキントッキンな方が好きという女性も結構多いようでして、もったいないことをしたかもな、みたいな……なに言ってるんですかね私っていうか、あのー、そ、そんなです!」

「ほら見なさいデュロン、やっぱりこの子エロエロドスケベじゃない」

「この人がドスケベなら、俺たちは恋する乙女全員を発情期呼ばわりしなきゃならなくなるぞ。やだよそんな世界観、アンタの頭ん中だけにしてくれよ」


 王様の耳はロバの耳、アクエリカの耳は蛇のそれなので都合の悪いことは聞こえないらしく、自分の言いたいことを勝手に喋るが、これはいつも通りといえばそうではある。


「で、このデュロンが、どうやら最近のドラゴスラヴのお気に入りみたいよ」

「え!? そうなんですか!?」

「えっ。いや、まだ二回くらいしか会ったことねーんだが……そうなのか?」

「そうみたいよ」

「そうなんだな」

「そ、そうなんですね……ということはデュロンくんから彼に、私の印象や行状が伝わったりなどしうるわけで……ちょ、ちょっと待ってください、相手がアクエリカだからと完全に油断してました。私ちょっと髪型作ってくるので、少々お待ちを!」


 慌てて奥の部屋に引っ込みながら、すれ違ったスタッフたちにお茶を出すようお願いしていくユリアーナ。

 応接室の準備ができていないと謝るスタッフたちに、このままここで待つのでお構いなく、とにこやかに言ったアクエリカは、ふと真顔に戻ってデュロンを振り返る。


「彼女に会ってみて、どう思いましたか?」

「いや……今のところスゲーかわいい人だなとしか……」

「そうよね。あの子は昔から、ずっとああいう性格だから……あなたにとっても、彼女からは多くを学べると期待します。そういう主旨でここに連れてきたの」


 ユリアーナが去った扉を見つめながら、アクエリカはいつになく真剣に語った。


「彼女を見ていると、わたくしたち魔族の性質というのも、そうそう生まれだけで完全に決まるものでもないのかもしれないと思えるのよ。もちろんあなたの魔力がゼロであるように、どうしようもない部分はどうしようもないけど、ある程度は……」

「なんだおまえら、だれなんだ!?」「なにはいってんだー!?」「せんせいをいじめるなよー!?」


 急に外から騒がしい声と足音が雪崩れ込んで来たと思ったら、デュロンとアクエリカはすでに、農具を持った十数人の、いずれも十歳前後と思しき子供たちに囲まれていた。

 どうも彼らには二人が、ユリアーナを脅しに来たヤクザ者にでも見えるようだが、客観的に仕方ないとも思える。

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