第424話 アクエリカと喋ってる間だけ性格悪くなる説が有力です
「
やや遠慮がちに言葉を濁すイリャヒに対し、当のミマールサはあっけらかんと笑って応じる。
「そうなのぉ。あたしたちってぇ、相手が振り向いてくれないとぉ、奴隷レベルで従順に尽くしちゃうんだけどぉ……相手が受け入れてくれるとぉ、遠慮なく命をちゅーちゅーしちゃうんだよねぇ」
「蛙化現象みたいな感じなのでしょうか」
「うーん、相手がこっちを好きになったからってぇ、それを理由に嫌いになっちゃうわけじゃないんだけどぉ、もういいやってなっちゃうのはあるかなぁ」
「そこだけ聞くとマゾっ気モリモリの変態女が、相手がサドじゃなくなったせいで冷めるみたいで笑っちゃうわよね〜」
「猊下、もう少し言葉を選んでください」
「都合が良いようでその実めちゃくちゃめんどくさいメンヘラクソ女とも言えるわね〜」
「選んだ結果がそれですか……? あなたほんとこういうとき生き生きするのなんなのです」
いつもは口を挟んでくるオノリーヌとリュージュが真顔で沈黙しているあたり、
イリャヒがヘラヘラ笑うばかりのミマールサとアクエリカに眼を戻すと、依然楽しそうに説明を続けてくれる。
「基本的な種族性質がそんな感じなんだけど、スケベなお兄さんを一人二人、仮に百人二百人でも、取り殺しちゃう直接の害はぁ、今となってはそんなに問題視されてないんだぁ。
人間時代の掃討戦ではぁ、要人暗殺とかには使われてたみたいだけどぉ、同じ水準の容姿や魔性が珍しくもない魔族ちゃんたちはぁ、そんなに甘くないからねぇ」
「そうなのよね〜。さっきも言ったけど、彼女たち
「えへへぇ……エリカちゃんにそんなこと言われるとぉ、自信持っちゃうなぁ」
イチャイチャ絡んでくるミマールサの髪を優しく撫でながら、アクエリカはイリャヒたちに向けて話を続ける。
「というかそもそも、一口に魅了と言ってもね〜……たとえばあなたたちが知っているタピオラ姉妹やレミレちゃんが使うような、相手の感情や関係を無視して短時間で強制的に操るといった、催眠や洗脳レベルのものなら、なるほど強力で有意義な能力として理解できるわ」
明らかにアクエリカ得意の性格悪い話が始まろうとしていたが、止められる者は誰もおらず、ミマールサに至ってはニコニコ聞き入っている。
「でもたとえば、ある村に駐在して住民たちを何年かかけて誑し込む、みたいな任務を果たすとするでしょう? そんなの、ちょっと愛想良く笑ったり話しかけたり、適当に胸の谷間とかを見せておけば、男は全員勝手に落ちるんだから、それ用の特別な権能だの魔眼だの、加護だの祝福だの、かったるいものは要らないはずなのよね〜」
「そうだよねぇ。そんでそういうインチキ能力持ってる子に限って、『ワタシは好きでこんな魅了の力を持ったわけじゃないのほぉぉぉん! 魔女扱いされるのはもう嫌なのぉほぉん! こんなの祝福という名の呪詛なのおほほぉん! 誰か本当のワタシを見てぇぇへへぇん!』とか平気で言っちゃうんだよねぇ。あれなんなんだろうねぇ、被害者面も甚だしいよねぇ」
「ね〜。みんな生まれ持った自分の手札で勝負していて、それがわたくしたちの生涯という競技の性質なのに、天からの授かりものに文句垂れあそばすとか、どういうお立場なのかわからないわよね〜」
「デメリットばかりならともかく、メリットも明確にある能力なんだから、そんなの有効活用できない方が悪いよねぇ。ちょっとくらい悲運を呼び込んだからって、それがなんだっていう話でねぇ。いちいち腐らずに強く生きろよって感じだよねぇ」
「ほんとそれよね〜。しかもそのインチキ能力だかなんだかがなければ大したことない顔面をしておられるのに、親切な補正に文句を言いたがるのよねぇ」
「なんかねぇ、中途半端な能力持ってる子に限って、『ワタシの力が強すぎるせいでぇぇ!』って騒ぐんだよねぇ。あいつがまさにそうだったんだけどさぁ」
「確かにね〜。そうよね〜イリャヒ、タピオラ姉妹とかレミレちゃんとかヒメキアとか、強いもの持ってる子ほど文句言わないのよね〜」
「私に水向けるのやめてください」
「あらそう〜?」
「そんでどうもあいつ聖女になれると思ってたみたいだけどぉ、結局なれてないからねぇ」
「そうよね〜。彼女元気でやってるのかしら、どうでもいいけど〜」
「あぁ、風の便りで聞いたんだけどぉ、なんかあいつ死んだみたいだよぉ」
「あら、そうなの? 死者を悪く言ってしまったみたいだけど、まあいいか〜」
「いいでしょぉ。死んだからってなんでもかんでも許されるわけじゃないからねぇ」
やけに例が具体的だと思ったら、嫌いな共通の知り合いを扱き下ろしていたようだ。
昔なにか色々あったらしい、それはもう聞きたくない。
アクエリカの性格が控えめに言ってゴミカスうんこ虫団子だというのはわかっていたが、ミマールサも大概アレなようだ。
成年女性としてはまあまあ普通なのだが、聖女という称号の……いや、ここは自分が変な幻想を捨てるべき場面だと、イリャヒは自省した。
そしてアクエリカがあの三人に外で待機を命じた理由の一つも嫌というほどわかった。
イリャヒでも結構胃に負担がかかっているのだから、この場にデュロンがいたら間違いなく吐いている。
ヒメキアもソネシエも結構純粋でぽわぽわしていて、普段付き合っている友達もネモネモ、フミネ、リョフメト、クーポと純粋ぽわぽわタイプが多いので、こういうアレの耐性はできていないだろう。
そういう意味では……失礼な話だが、エルネヴァは若干アレなところがあるので、仮にアクエリカとミマールサに挟まれても、なんとか上手くやっていけそうな気がする。
ミマールサが急に手を叩いたので、イリャヒたち三人はびっくりしたが、先ほどすれ違った職員たちが入ってきたので、彼らを呼んだのだとわかった。すぐ外で待機していたのかもしれない。美味しそうな匂いのするワゴンを携えている。
「そうだぁ。もぉ、エリカちゃんが変な方向に舵切るからぁ、話が横道に逸れちゃったでしょぉ?」
「あら〜、ごめんなさいね〜」
「いいけどねぇ。こっちもせっかくのお客さんなのに、お茶も出さずに立ち話しちゃってたしぃ。続きはティーセットの準備ができてからにしようねぇ。ほらぁ、座って座ってぇ」
正直イリャヒとしてはもうかなり帰りたいのだが、そういうわけにはいかないようだった。
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