第417話 4 WHY US
ようやくわかってきた。アクエリカがこの場における護衛として、デュロンとヒメキアを連れ込んだ理由は、大きく分けて四つあると考えられる。
一つ目は直前にアクエリカが言った通りだ。たとえばイリャヒとソネシエなら純粋な防御性能という意味では最善だろうし、リュージュとオノリーヌなら対応力に長けるだろう。その中でアクエリカは「壁」と「薬」という、もっともシンプルかつ強靭な護衛能力を持つ二人の組み合わせを採用したに過ぎない。
二つ目は先ほどあったくだりの通り、二人を枢機卿たちに紹介したかったから。もちろん〈特異点〉だか〈罪の子〉だか、諸々引っくるめての話だ。とにかく場をコントロールするのに必要な要素の一つと判断したのだろう。
三つ目、これはデュロン単体の話だが、アクエリカの背後に生体嘘発見器である人狼を置いておくこと自体に意味がある。トビアスが言ったように、同席しているすべての枢機卿たちが証言者となるため、どうせ吐いた唾を飲めないので必要ないのではと思われるが……たとえば〈銀のベナンダンテ〉撤廃のくだりに嘘があれば、今後デュロンたちはアクエリカに見向きもしなくなるだろう……ということは当然すべての枢機卿が理解するので、アクエリカの発言に別方向から信憑性を加える手助けになったと思われる。
そして四つ目が、今のこれだ。誰かがこの踏み込んだ質問をしてくることも想定内だったらしい。
アクエリカは仮に『〈金のベナンダンテ〉計画』の全容を知っているか見当がついていたとしても、笑顔の裏にすべてを仕舞い込み、おくびにも出さない腹芸を息するように熟すだろう。
ヒメキアはアクエリカを担ぎ上げる現行部分しか知らないし、ほんわかひよこなのでそもそも危険性がない。
そしてデュロンは彼自身の私見を話している限り、復讐の意思がないことは嘘ではない。
結構綱渡りな気もするが、少なくともデュロンの代わりにオノリーヌを入れるよりは絶対にマシなのは間違いない。
姉の名を頭に浮かべたことで、デュロンにも「せっかくの機会だから」という気持ちが湧いた。
「ただ……」
言ってしまい、注意を引いてしまってから、覚悟を決め、啖呵を切る臆病さが、デュロンの短所であり、同時に長所でもあると自負している。
「これ以上俺の身内に手を出されるってんなら話は別だ。そのときは俺の死に場所も、この教皇庁のどこかにさせてもらう」
そして言ってしまってから、枢機卿たちの反応を注意深く探るデュロン。
多くは中庸である驚嘆に、薄く恐怖や嫌悪が混じっている。
デュロンは嗅覚を研ぎ澄ませて、確かめる相手をさらに絞り込んだ。
「『殺す』じゃなく『死ぬ』なのが、なんとも謙虚というか、分相応だね。だからこそ聞くに値する。肝に銘じておくよ」
トビアスは言葉通りに感心している様子だ。期待や好奇心のようなものも混じっていて、逆に枢機卿としてはどうかと思われる。
「まったく尋ねる方も尋ねる方なら、答える方も答える方ね……」
ヴァイオレインは言葉ほど呆れてはいない。喜びというか、誇らしさらしき匂いがするのだが、気のせいか? デュロンに向けた感情ではない可能性がある。
「かなり肝が冷えたけど、有意義な時間だったのもまた確かだね」
ジョヴァンニは言葉とは裏腹に興味がない。ほぼ無臭である。なにか別のことを考えながら喋っている感じがする。やはりこの男は要注意だ。
「うむ……ではそろそろ、予定されていた本来の議題に移るか……私もこの時間が無駄だったとは思わぬ……グランギニョルめを絞め上げたことで、良い緊張感が生まれた」
サレウスは少し遠いので正確には把握できないが、やはり〈予言の子〉のことが頭にあるのか、死にゆく者の遺す希望、という感じのものがうっすら漂ってくる。直接会って確信がさらに強まった、彼は間違いなくデュロンを買い被っている。
「あらあら、ご冗談は止してくださいな。わたくし皆様に愛されていることはわかっておりましてよ」
そしてアクエリカはというと、子供のように元気いっぱいだ。とりあえず今言うべきことは全部言ったのでひとまず満足しているという趣である。場の空気が落ち着いたことに安心しているヒメキアとほぼ同じ匂いがする。ちなみに背後からものすごい怒りが検出されたがこれはメリクリーゼだ。
「いや、冗談ではないのだがな……」
「うん!」
「そうね」
「ちょっとはしゃぎ過ぎではあるね」
「えっ……ほんとやめてそういうの、わたくし寂しさで死んじゃうわ」
「グランギニョル枢機卿猊下??」
「メリーちゃんそろそろそれやめてくれない!?」
「大変ですな」「大変ですぞ」「大変ばい」「大変だ」「大変すぎる」
「メリーちゃんへの同情の声を口々に漏らすのもやめてくださる!?」
乱高下する雰囲気の温度差で風邪を引いたのか、エルネヴァが小さなくしゃみをするのが聞こえた。
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