第344話 あたしたちの熱い絆を、有線生放送でお届けっ♡ 死ね、教会と金貸しの犬ども!!
レイシー・オグマは、いわゆる家でこっそり自主トレしているタイプの不良である。
自分なりに体を鍛えているし、固有魔術の練度にもそこそこ自信がある。
そしてその両方において、両親からそれぞれ大きな資質を授かっている自覚もある。
体術と魔術は、現行魔族社会における戦闘の両輪だ。
どちらかが欠けていることは大きなハンデとなり、まして魔力ゼロなどもってのほかだと、正直今の今まで思っていた。
しかしやはりプロの
デュロン・ハザークはさっきから、レイシー相手に互角の蹴り合いを成立させてくる。
もちろん体格や筋量、格闘技術は彼の方が上だというのは重々承知だ。
それでもレイシーの固有魔術〈
「くっ……!」
しかし、埋まらない。デュロンは驚異的な反応速度により、レイシーの電撃機動に追いついてくる。これはまだわかる、戦闘経験の賜物というのもあるだろうし、嗅覚感知で発動前兆を予測されているのかもしれない。
ただ、常に帯電し続け、迂闊に触れると放電するレイシーの打撃に対し、普通に手足で受け捌き、また空中に引いた雷の道にも平気で立ち塞がって、ビリビリ髪を逆立てながらも余裕で進路妨害してくるのだ。
無数に広がるはずの攻撃や機動の選択肢を狭められるレイシーは、焦って安直に突っ込んでしまい、危うく良いのを貰いかけたところで、なんとか離脱し距離を取り直す。
なんとも不可解だったため、思わず相手に直接訊いてしまった。
「な……なんで!? あなたちょっとおかしいんじゃない!? なんでわたしの電気が全然効いてないわけ!?」
「なに言ってんだ、効いてないわけねーだろ。さっきから手足が痺れてたまんねーよ、動きにくいったらありゃしねー」
「痺れ……って、それだけ!? 痛いとか、気絶するとかは!?」
どうやら思い当たる節があるようで、相手はポンと手を叩く。
「落雷による死因ってのは、だいたいが内臓へのダメージだって聞いたことがある。だが偶然にも俺は最近、内臓を直接攻撃される機会が多くてな。どうやら内臓ってのも鍛えることができるらしいぜ。特殊な訓練を受けてますってやつだな」
ちょっと自慢げに言ってくるので、イラッときた。レイシーが反抗期だからというわけでもなく、水を差してやりたくなる。というか普通に……。
「……へ、変態!」
「なんで!?」
「それはもう変態の領域でしょうよ! 普段なに考えて生活してんの!?」
「それはお前、日々強くなることを願って」
「きっしょ!」
「だからなんでだよ!?」
本気でわかっていないようなので言ってやる。母親譲りのサドっ気を発揮し、レイシーは眉をひそめて言い募った。
「ストイックに一意専心してる俺カッコイー! って酔っ払ってんでしょうけどね、周りがどう思ってるかとか考えたことある? 特に対等の立場にあるパートナーが、後ろでどんな顔してるか見えてる? あなたがそうやって体ブッ壊しながら戦ってるのを、限界超えたら治してくれるヒメキアさんが、どれだけ心配してるか本当にわかってるわけ?」
これは単なる八つ当たりだ。家を妻を顧みなかった頃の父への、やり場のなくなった怒りの捌け口に、よりによってその呪縛を解いてくれた張本人を指定するのは、恩を仇で返す筋違いだろう。
しかしこの挑発も半分くらいは本心で、いずれにせよレイシーは暴力神父のありがたい説教を一方的に聞き入れて、大人しくおうちへ帰る気などさらさらない。
それだけは伝えておこうと思い、立て板に水で喋り続ける。
「ま、今回それを彼女に直接訊いてみればいいんじゃない? 惨めに焼け焦げて再生限界に陥ったところを、優しく膝枕で癒してもらいながらさ!」
思うところがあったようで、苦み走って黙りこくる相手をいいことに、レイシーは横目で親友の戦況を確認した。
レイシーがデュロンにしているように、エーニャもブルーノになにか煽られたようで、攻め方が雑になっているのがわかる。
ブルーノは相当な使い手だ、しかもなんだか動きが良くなっているように見える。
生半可なやり方では敗ける確率の方が高いし、それはレイシーの方も同じと思える。
意を決したレイシーは、デュロンに視線を戻しながら声を張った。
「エーニャ! あれやるわよ!」
「え……!? もしかして今ここでベイクドチーズタルトを作るの!? 時と場合を考えようよ、レイシーちゃんてばもう!」
「なんでそれだと思った!? この前考えた戦い方の方だってば!」
「あっ、ごめん、わかった!」
「ならよし!」
お菓子なら互いの家で作ればいい。今ここでしかできない悪戯を働こう。
奇しくもここは幽霊屋敷だ。
おうちに帰らなきゃ、こわ〜い亡霊が連れ戻しにやってくる?
ならその秘密部隊や暗黒産業の兵士を、まとめて返り討ちにすればいい!
レイシーはデュロンへ牽制の連続突きを放つ。電気を食らうと筋肉は強制的に収縮させられ、本人の意思に関係なく体の自由が利かなくなる。
強靭な生粋の人狼に対しては、スタン効果も一瞬しかないが、その隙を突いて線路を引き、一気に滑走するレイシー。
同じくブルーノの動きをほんの短時間制することに成功したエーニャを、レイシーは横抱きに掻っ攫い、見せつけるように距離を取る。
侮るなかれ、これは単なるイチャイチャポーズではない。二人はすでに本気の戦闘態勢に入っているのだ。
「行くわよ、エーニャ!」
「りょーかい!」
レイシーは左手と腰でエーニャを支え、エーニャは右手でレイシーの肩にしがみついている。
その体勢でレイシーは右手を、エーニャは左手を掲げて、それぞれの固有魔術を発射する。
ただしエーニャのそれは〈
魂で繋がっていると思いたいが、最近親友になったばかりのこの二人では、まだ以心伝心で自由自在に立ち回るというわけにはいかない。
だから二人の間だけで通じる、専用の合図を作った。
これはこれでロマンがあって良い。
「フレイム!」「サンダー!」
先んじて放たれた炎の糸を導線とするように、ちょうど後から雷の道が追いつき、同時に着弾して、一瞬前までブルーノが立っていた地点をクレーター状に爆散させた。
調子は上々、普段通りの威力が出ている。
「うおっ……!」
自分の体を押し退ける形で辛くも躱したブルーノが、返す刀で「影の手」数十発を寄越してくるが、遅い遅い、拳に蝿が止まるというもの。
連携攻撃の瞬間以外は、レイシーの右手は移動に、エーニャの左手は牽制に使われる。
再び攻撃のチャンスが整ったと判断したところで、今度はレイシーが先んじて構えを取り、エーニャがそれに従う。
同じ魔力を線状に撃ち出す固有魔術を持った縁なのか、どちらが先に撃っても連携を成立できるため、どちらが起点を作ってもいいというのが、この二人の間での取り決めだった。
「サンダー!」「フレイム!」
蛇行しながら伸びる雷の道に、絡みつくようにして炎の糸がついていく。
微妙な時間差の発生する二段攻撃だが、同時攻撃とどちらが避けにくいかは、相手によるだろう。どちらでも構わない、敵に合わせる気もない。勝手に攻めるので、勝手に倒れてくれ!
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