第325話 愛を説きながら世界を滅ぼすタイプの魔王ですね
デュロンとブルーノ、次いでイリャヒとドルフィが幽霊屋敷の中へ入って行ったので、ソネシエはヒメキアの護衛役として、乱闘が終わるのを外で一緒に待っていた。
ドッタンバッタン大騒ぎしている中の様子に構わず、地面に降りたヨハネスがウロウロするかわいい様子を見ているだけでも、十分に時間を潰すことができた。
やがて物音が治まったので、二人と一匹で中へ入って行く。
案の定、中は死屍累々という感じだったが、いちおう殺さずに済ませたようで、チンピラたちは全員が気絶、または戦意喪失しているだけだった。
二人と一匹の姿に気づき、イリャヒとドルフィが振り返ってくる。
「やあ、いらっしゃい。結構手早く済んだでしょう?」
「といっても、ほとんどあの二人がやっちゃったんですけどね」
戻した視線の先では、デュロンとブルーノが息を切らしている。
「結構きつかったな……いまいち最速で倒せた気はしねーよ……」
「俺も2000発くらい使わされちまった……まだまだ修行が足りねぇな〜、俺たち」
ヒメキアは二人を労うために近寄ろうとしたようだったが、ふと立ち止まったかと思うと、いきなり全然違う方向へ走り出したので、ソネシエとヨハネスは慌てて後を追った。
「ふんぬぐぐぐ!」
ヒメキアは倒れたチンピラたちの間から、一人を選り分けて両腋を抱え、真ん中の広いスペースに引っ張ってくる。
なにかと思えばその少女の頭部には獣化変貌により、特徴的な三角耳が顕現している。
「見つけた、ねこの女の子! この子は確保で、お願いね!」
「いや……ヒメキア、その子の固有魔術は普通の風嵐系なんだが……」
「ついでに言うと俺らの取り立て対象でもミレイン市長の娘でもねぇな〜」
だがヒメキアは捕獲した猫系獣人のかわいい女の子を、ぬいぐるみにするようにガッチリとホールドし、ぶんぶん首を振って駄々を捏ねる。
「やだ! 連れて帰る! この子はあたしの!」
「ヒメキアちゃん、猫のことになるととんでもなく強情になりますよねぇ……」
「この子、ここぞとばかりに我欲の強さ出してくるじゃん……こわ……」
「お前ら見た目に惑わされんなよ、ヒメキアの本性は冷酷な差別主義者だからな」
「彼女は猫を至上とする暴君。逆らう者はねこねこの刑に処される」
みんなに好き放題言われても頑として動かないヒメキアを、イリャヒが優しく諭す。
「ではヒメキア、あなたは一旦デュロンと一緒にその子を馬車へ連れて行きなさい。逃げないように、ちゃんと鎖で縛っておくのですよ」
「わかりましたイリャヒさん!」
「ただし街へ帰った後、その子がなんの重罪も犯していないことがわかり、かつその子自身がミレインへの定住を拒否したら、ちゃんと解放してあげなさいね」
「な、なんでですか!?」
「なんでって、それはその子にも自由に生きる権利があるからですけど……?」
「ヒメキアちゃんは猫系獣人に基本的な尊厳を認めてないんですか……!?」
「猫をなんだと思ってんだよ、ヒメキアちゃんマジ怖ぇよ……」
「いや、違うんだ……ヒメキアは全世界の猫を手に入れる帝王を目指してるだけなんだ」
「彼女はとても優しい。ただその優しさが猫に対しては異常出力されるだけ」
悪ノリしていたデュロンとソネシエが擁護に回るが、ドルフィとブルーノはますます加速する。
「ヒメキアちゃんは、あれですよね、愛を説きながら世界を滅ぼすタイプの魔王ですね」
「価値観や世界観が根底から食い違ってっから議論が成立せず倒すしかない的なやつね。ヒメキアちゃん、すまねぇ! 俺たちだってあんたを敵に回したくはねぇんだ!」
なにか寸劇が始まった。ヒメキアはショックを受けた様子で呻く。
「そ、そんな……あたしはただ、猫のお姉さんと一緒に暮らしたいだけなのに……」
「あ、これはあれですね、たった一つの小さな願いのために始まって、どんどんエスカレートした結果すべてを手に入れたはずなのに、その最初の願いだけは叶わなかったタイプの魔王ですね」
「倒した後にそいつが大事に持ってたロケットとかから真意が明らかになる感じのやつだな。悲しき悪役は悲しい、俺知ってる」
放っておくと埒が開かないと察したようで、デュロンは猫の女の子を抱えた。
「しょうがねーな。ほらヒメキア、行くぞ」
「デュロンありがとう! じゃああたしは目的を果たしたので、これで帰ります!」
「帰らねーぞ!? なにしにここへ来たんだ!? わりーなお前ら、すぐ戻ってくるから!」
デュロン、ヒメキア、ヨハネスの後ろ姿を見送り、前へ向き直ったイリャヒが、ソネシエ、ドルフィ、ブルーノに声をかけてくる。
「さて、実際の話、我々はまだ三つの依頼内容のうち、一つも満たせていません。ここからが本番です、気を引き締めて参りましょう。ほら、噂をすればです」
元は工房かなにかであっただろう、幽霊屋敷の最初の部屋には、正面奥に中二階の足場が組まれており、その奥の扉が開いて、四人の若い男女がゆっくりと姿を現した。
「おっ、出てきましたぜ、幹部級と思しき連中が。いい感じの高さから、思い思いのポーズをキメながら、カッコつけて見下ろしてくるじゃねぇですか」
「ブルーノくん、そういうこと言うのやめたげなさいったら。あなた
ブルーノとドルフィの茶々も意に介さず、ソネシエたちから見て左から二番目に立っている赤毛の男の子が、穏やかな、それでいて挑戦的な口調で話しかけてくる。
一見爽やかな美少年だが、ああいうのに限って変態率が高いのだと、ミレインに十年住んだソネシエはよく知っている。
「よく来たな、ミレインの
会話が成り立つ相手が一人でもいるのは幸いだ。頭を仕事用に切り替えたようで、普段の落ち着いた物腰に戻ったブルーノが、赤毛の少年に問いかける。
その間にソネシエは、他の三人の風体を注視した。
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