第318話 この後メンバーがあと一人加わります

「で、お前らも来んの?」


 聖ドナティアロ教会の回廊を正面玄関に向かって歩きながら、デュロンは後ろをついてくるサイラスとギデオンに尋ねる。


「いや、オイラたちはメンバーに選出されてないみたいね。せっかくサボれる機会なのに残念だね」

「俺たちはお前たちがいない間、せいぜいファシムの攻略法を広げておこう」


 ギデオンに本音を言われてしまい、サイラスは長い前髪の下で片目を瞑ってみせた。


「ま、そういうことね。オイラたちが代わりにあいつにボコられといてやるから、お前たちは少しでも羽を伸ばしてくるといいね」

「サイラスさん、ギデオンさん、ありがとう! でも無理しないで……わー!」


 二人がかりでヒメキアの頭を撫でくり回しつつも、二人の視線はデュロンに向いている。


「……さっきのヴェロニカの話を聞いて、なにも感じなかったと言えば嘘になるね」

「俺たちの場合、差し当たっては、種族能力の拡張と応用を窮めるところからだな」

「こっちも別に遊びに行くわけじゃねーさ、指以外にも掴めるものは掴んでくるぜ」


 二人はデュロンと拳を合わせ、軽く手を挙げ立ち去った。

 髪の毛をぐしゃぐしゃにされたことに気づいていないようで、鳥の巣状態のヒメキアがニコニコ見送っているため、軽く手櫛で整えてやると、その笑みをデュロンに向けてくれる。


「デュロンありがとー。他のメンバーは誰なのかな? クーポちゃんの村に行ったときは、ソネシエちゃんとイリャヒさんがあたしと一緒だったよ」

「そして今回もそう」

「ソネシエちゃん!」


 角を曲がった先から現れた親友に、ヒメキアはノータイムで抱きつく。

 後ろから現れたその兄が、なにも訊かずとも説明してくれた。


「今回も任地がまあまあ危ないところなのですが、依頼者の要望でどうしてもヒメキアを連れて行く必要があるのです。

 なのでもちろんそういうことがなきよう努めますが、ヒメキアを人質に取られるなどの状況を想定して私を。必然的にソネシエを。そして新米研修ということで、を入れるそうですよ」


 さらにその後ろから姿を見せたのは、まだ制服に着られている感の強い、ナチュラルハイの上長森精ハイエルフ

 あざとく舌を出しつつウィンクしながら敬礼していて、すごくかわいいのだがちょっとだけ殴りたくなる塩梅が不思議だ。


「はいはーいっ! 呼ばれて飛び出て、あなたのわたしのドルフィちゃんですよっ! 先輩がたの胸をお借りするつもりで、張り切って行っちゃいたいと思いますぅ!」

「こいつ誰かに似てるなと思ってたんだけど、タピオラ姉妹とノリが大体同じなんだよな」

「少し苦手」

「少し苦手ってなんですか!? 地味に傷つくんですけどぉ!? ねぇねぇソネシエちゃん先輩、仲良くしてくださいよぉ!」

「年上の後輩というものが初めてできたけれど思ったほど良いものではない」

「悪いものではないの言い間違いでなく!?」

「思ったほど良いものではない」

「きっちり繰り返さないでくださいよぉ!?」


 迷惑そうに揺さぶられるソネシエを微笑ましく眺めながら、イリャヒは一同を促した。


「さあ、では二人目の依頼者のところへ行きましょうか」



 そうして訪れたのは、他ならぬミレイン市庁舎であった。

 デュロンは何度か来たことがあったが、ヒメキアは初めてだったようで、例によってウロチョロしようとする彼女を引き止め、三階にある市長執務室へ直行する。


「邪魔するぜー、旦那ー」

「友達の家かのような入り方……失礼します。ご依頼を拝命すべく参りました」


 勝手知ったる他者ひとの部屋だが、親しき仲にも礼儀ありということらしく、変わらず丁寧に挨拶するイリャヒに、デュロンも形だけ倣ってみる。


 ミレイン市長アゴリゾ・オグマは、体格や血色こそ初めて会ったときと同様まで戻っていたが、以前少しだけ垣間見た、険しい表情で一同を迎え入れた。

 むっつりと推し黙る彼に代わり、秘書のコニーさんがにこやかに応じて、お茶を淹れてくれる。

 デュロンとヒメキアはアクエリカのところとヴェロニカのところでも飲んできてお腹がチャプチャプだったが、礼儀の一環としていただいておく。


 一息吐いたところで、さて、と全員の意識がアゴリゾへと集中した。

 市長案件なのだ、ただならぬ要求が飛び出るに違いない。

 おそらくヒメキアを指名したのもこの男だ。心してかからねばなるまい。


「今回君たちに来てもらったのは他でもない」


 アゴリゾは血走った眼で、デスクの向こうから身を乗り出し……精悍な顔が一気に泣き崩れる。


「娘がグレた! 私に愛想を尽かして家出して、不良グループに加わってしまったんだ! 頼む、彼女を連れ戻してくれーっ!」


 なんか……なんというか、思ってたのとだいぶん違った。

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