ガルボ村事変・デセール 〜鼎の軽重を問うべきは〜
第299話 天より賜りし使命を
あれは七年くらい前のことだっただろうか。いつものようにサイラスに食ってかかり、返り討ちに遭って転がされたジェドルは、腹癒せを探して村の中をさまよっていた。
陽が落ちかけ、すでにおっさんたちが仕事を終えている坑道の近くに行くと、祖父と村長がなにやらコソコソ歩いていくのを見かける。
さては美味いものでも隠しているなと、ジェドルは見つからないように後を尾けた。
予想に反して、二人が姿を消したのは殺風景な洞窟の中だった。
しかしやはりなにかあるに違いないと、ジェドルはこっそり忍び込み、入り口付近の死角となる、小さな窪みへ身を潜めた。
さあなにを見られるかとワクワクしていると、二人はなんということもなく去ってしまった。
扉が封じられる重厚な音がしたところでようやく、ジェドルは自分が閉じ込められてしまったことに気づく。
「お、おいっ!? じいちゃん、そんちょう! おれ、ここにいるよ! かってにはいってわるかったよ、だしてくれよ!」
今にして思えば二人は仕置きのためにわざと閉じ込めたわけではなく、ジェドルがいることに気づかなかっただけなのだとわかる。
しかし当時の彼は見捨てられたのだと絶望し、ちょうど夕飯時が近づいていたということもあり、空きっ腹を抱えてうずくまるしかなかった。
このまま一晩経ったらどうしよう、ずっと見つからなかったら死んでしまうんじゃないかとすら考えた。
しかも、洞窟の奥には……詳しくはわからないが、なにかがいるのを感じる。
襲ってきて取って喰われるという感じではなさそうだが、不安の種がさらに一つ増えた。
追い詰められたジェドルは
なのでひとまず、通りかかった小さな蜘蛛を、捕らえて口へ放り込む。
「ごめんっ……!」
魔物や魔族の肉なら普段から散々口にしているのに、なぜかその蜘蛛に対しては罪悪感があった。
それとは関係ないのだろうが、このとき初めて、ジェドルの
『……い……むい……』
「な、なんだ!? だれがしゃべってる!?」
このときジェドルは消化変貌により、本来他の生物には感知できない、蜘蛛同士の交信器官を再現していたのだと思われる。
耳で聞いているようなそうでもないような、音なのかそうでもないのかわからない、とにかく伝わってくる思念に対し、彼は必死で返事する。
しかしジェドルの言葉は相手に届いていないようで、一方通行の受信に終始した。
『……むい……ねむいよ……ねむい……』
「ね、ねむいのか……? おまえ、だいじょうぶか? ねむいんだったら、ねたらどうだ……? それとも、ねむれないのか? ふみんってやつか?」
『ねむいけど、おきないと……でも、おきられないよ……』
「あ、そっちか……でもいまはゆうがただぞ。むりしておきなくてもいいんじゃねぇか? おれだってあさはおきたくないけど、パグがむりやりおこしにくるんだ。あ、パグっていうのは、おれのいとこで……」
『ねむい……でも、おきたい……はやくおきたい……』
「お、おきたいのか……じゃあ、おれがおこしてやる」
そうして自然と警戒の解けたジェドルは奥へ行き、ザカスバダクに対面して、その巨大で厳つい姿に驚いたが、さらにしばらく
同時に祖父と村長が、どうにもならないことはわかっているが、それでもこいつの様子を見るために、ここへ通っているということを。
ジェドルは自ずと拳を握り締め、躊躇いなく宣言していた。
「わかった。いつかおれが、おまえをおこしてやるよ。おれ、ばかだから、なかなかできないかもしれねぇけど……おれにできなくっても、おれよりすごいやつとか、おれよりかしこいやつをつれてきて、おまえをおこしてもらうよ。だれかのちからをかりるのはわるいことじゃないって、じいちゃんがいってた。だっておれたち、ぐーるだから!」
やはり返事はなかったが、いつの間にか相手の譫言は治まり、深い眠りに就いていた。
気持ちは伝わり、落ち着かせることができたのかもしれない。
しょうがないやつだなとジェドルは笑い、そして……。
「あっ!? それよりまず、おれがここから出られないんだった! おーい、だれかー! あけてくれよー! おれはここだーっ!」
再び必死で叫びながら扉を叩いてみるが、ほとんど誰も来ない秘密の場所だから、ほとんど誰も来ない秘密の場所なのだと、アホなジェドルにもさすがにわかった。
これはまずい。いっそ冬眠しないといけないのは、むしろジェドルの方かもしれない……。
だが奇跡が起きたのか、硬く閉ざされていた扉は、嘘のようにあっさりと開き始めた。
祖父と村長が戻ってきて、再び合言葉を唱えてくれたというのは、その通りではある。
ただ、ジェドルがいないことに真っ先に気づいて、二人を連れて探し回ってくれたのは……真っ暗闇に差し込む温かい黄昏の光の中で、いつものように優しく笑っているのは……。
「……ゃん……ェイちゃん……起きて、ジェイちゃんってば」
「なんだよ、パグ……まだ全然朝じゃ……ん? なんだ、ここは……?」
いつものように揺り起こされ、いつものように顔を覗き込んでくれる、とろんとしたかわいらしい笑顔があるので、てっきりいつもの寝床かと思ったのだが……まったく知らない民家らしき建物で、見覚えのないベッドに寝そべっていることに、ジェドルは自覚が及んだ。
パグパブにのしかかられたまま、彼は慌てて上体を起こす。
「おや、眼が覚めたんだね。安心して、ここは当面の潜伏場所として使う、僕の友達の家その二……いや、その六ぐらいかな?」
近くのテーブルで紅茶を嗜みながら穏やかに応じたのは、銀髪碧眼に細身で細面の、ヴィクターと名乗る胡散臭い少年だった。
隣の椅子にはエモリーリというこれまた怪しい少女も、仏頂面で座っている。
「そうか……俺は、敗けたんだったな……」
だんだんと記憶が戻ってきて、三人が顛末を説明してくれるにあたり、ジェドルは気分が落ち込んでいった。
サイラスやデュロンはムカつくが、あいつらにボコボコにやられたこと自体は大した問題ではない。
そのあたりを汲んでくれるようで、ヴィクターはとうにニヤニヤ笑いを引っ込め、秀麗な眉を曇らせていた。
「……ごめんよ。効果的な作戦として運用したことは認める。君の友達が撲殺され、自爆した責任は、あの子を起こした僕にある」
すべての事情に精通していても捉え方は様々だし、逆にいくらでも言い逃れのしようはあるはずだ。心がなければ、相手のそれにも気づくことはない。
確かにこいつは、ザカスを利用して使い潰した。しかし今はジェドルの気持ちになって考え、悲しみに共感しようとしている。
相手の立場に成り代わることで理解できるというのを、比喩抜きで可能とするということが、ジジイやサイラスが口を酸っぱくして言っていた、本物の
こいつの能力は、自分のそれに少し似ている。共感を抱かざるを得ないのは、むしろジェドルの方だった。
なので許すも許さないもない。願いを叶えてくれたランプの魔神に、その結果責任まで負わせるのは、筋が違うというものだ。ジェドルは力を抜き、再びベッドへ横たわりながら言う。
「いや……いいさ。あのまま荊の檻に囚われたまんまなよりは、あいつにとってもマシだったかもしれねぇ。勝手に作って、勝手に殺すに任せた……罪は俺たち、ガルボ村の住民にある」
らしくもないしんみりした語りに自覚が及び、ジェドルはいつものように歯を見せた。
「つっても今は、そっからすら主犯扱いで実質追放されちまったみてぇだけどな! ギャハハ! ちょうどいい機会だ、あんなクソ田舎の因習に囚われるなんざ、こっちから願い下げだっつーの! なにを企んでんのかは知らねぇが、ヴィクター、エモリーリ、テメェらの好きに使われてやるぜ。ただし、肉っ! テメェら金は持ってそうだ、美味ぇ肉だけは喰わせろよ!」
お安い御用だとばかりに、肩をすくめてみせる二人。なかなか話がわかる連中のようで助かる。……そうなると差し当たりの懸案事項は一つに絞られた。
「おい、パグ。いつまで俺の上に乗ってんだ」
「あっ、ごめん。重かったよね」
「いや、それはいいがよ……お前、なんで俺についてきてんだ? パパママ村長悲しむぜ」
「わたしだって、結構暴れたよ。たぶんジェイちゃんより善戦した。わたしの方が強いから」
「今それ言わなくてよくねぇか!? つーかお前そもそも、俺のことそんなに好きじゃねぇだろ!? サイラスんとこ帰れよ、今ならあいつも気兼ねしねぇし、なんとかしてくれるだろ!」
勢いに任せて言ってしまった。これでただでさえなかった勝ち目は完璧にゼロだ。末永くお幸せに、と胸中で祈るジェドル。
しかしパグパブは、一向にジェドルの上から下りる様子がない。
「そうだね。わたしはジェイちゃんのこと、あんまり好きじゃないよ」
「改めて言われると傷つくんだが……じゃあ、なんでなおのこと……」
「あのね、つまり……ちょっとだけ好きなんだ」
「え……」
「ちょっとだよ。ちょっと、だからね……」
今さら気づいた。正面から覆い被さってくるパグパブは、いつものぼんやりした表情を装っているが、赤らんだ肌がうっすらと汗ばんでいる。
都合の良い夢を見ているのかと疑うジェドルだが、彼だけを見ている葡萄色の眼は、揺らぐことなく現実だった。
「ごめんね、ジェイちゃん……ずっと気のないような、そのくせ気を持たせるような素振りをしてて。
確かに、わたしはずっとサイラスのことが好きだった。今でも忘れたわけじゃないよ。
でもね、いつもわたしを見て、わたしに見てほしくて頑張ってるジェイちゃんと、わたしはずっと一緒にいたんだよ。
わたし、もしかしてちょろいのかな……どうしても気になる。ジェイちゃんのことを、放っておけないの。
ねえ、ジェイちゃん……わたしもまだわからないんだ。ジェイちゃんの〈
俺の能力はそんなことできねぇよ、と言おうとしたジェドルだったが、心の準備もへったくれもなく、普段ののんびりした態度からは信じられない、必死でギュッと眼を瞑った、かわいらしい表情のパグパブに、あっさり口を塞がれてしまう。
「わっ!?」
真っ赤になった顔を両手で覆うエモリーリの肩に、ヴィクターが手を置いて促し、気を利かせてくれた。
「おやおや、僕らは席を外した方が良さそうだね。じゃ、後は若い二人にお任せってやつで」
二人きりになったジェドルとパグパブは、もはやなにも我慢することも、取り繕う必要もなくなった。
すべてはジェドルとパグパブが勝手にやったこと、というガルボ村側の基本姿勢は、アクエリカの温情とやらによって受け入れられ、特に処罰らしきものはなしで、穏当に教会の麾下へ収められることとなった。
もちろん村長や副村長を含めた、二人の家族はその限りではなかったが、正確に言うともはや彼らでは、取りたくても責任を取れないというのが実情に近い。
教会の支配に対する諦観ムードは最初から強かったが、それはヴィクターとエモリーリを抱き込んでいた副村長すら、結局は例外ではなかったと言える。
というわけでザカスバダクを倒した後は、特になんの揉めごともなく、スムーズに任務完了となった。
あるいはデュロンたちが力を見せたことが、住民たちを心腹させる最後の一押しになったとも考えられる。
ヴィクターの目的がザカスではなくジェドルとパグパブだったように、アクエリカがザカスを探していたのも、使うのではなく倒すことによる示威を求めていたのかもしれない。
だとすればまたしても彼女の思惑通り、まさしく「奇跡」の担い手と呼べるだろう。
ベルエフやオノリーヌとも改めて話し合ったが、間違いない。やはり彼女は「王」の器なのだ。
ミレインの寮に帰ってきて私服に着替え、談話室でヒメキアや猫たちと一緒に寛ぎながら、そんなことをつらつら考えているデュロンのところへ、慌ただしく近づいてくる姿があった。
「やっほい! 見るね、二人とも!」
ガルボ村での任務を成功に導いたサイラスは、事前の契約通りミレインへの赴任が叶ったのだが、同時にアクエリカの計らいによって、正式な
もちろん扱いは〈銀のベナンダンテ〉のままなのだが、サイラスとしては憧れていた黒い制服を着られることが嬉しいようなので、二人は素直に褒めてみる。
「おー、似合ってんじゃねーか」
「サイラスさん、かっこいい!」
「うはは、ありがとね! っていうか、こないだから思ってたけど、デュロンとヒメキア、お前ら二人が一番黒服似合ってないね」
「テメーなんてこと言いやがる!?」
「ひどいよ! あたしたち、結構気にしてるのに!」
「あ、自覚はあるんだね……なんか、えーと、ごめん……」
気まずくなった彼は、慌てて話題を変えてくる。
「ギデオンにも見せびらかそうと思ったんだけど、あいついないね?」
「ああ、今はパルテノイと一緒に、ガルボ村の温泉へ行ってるらしい」
「えっ……それって……」
「いや、大丈夫だ。ホレッキとナーナヴァーも一緒だから、滅多なことはねーだろ。やらかそうとしたら、あの二人が止めるはずだ」
「うーん、どうかね……逆に止めるはずのあの二人の方がむしろ、みたいな……」
「やめろ、なんか生々しいから。わりと克明に想像できちゃうから」
サイラスは二人の対面に座り、お菓子をバリバリ食べながら放言した。
「やっぱりなんだかんだ言って、幼馴染同士ってのは強いね。かく言うオイラも、フラれたばかりで傷心中ね、誰か慰めてほしいね」
「ったく、お前もほんとバカだな。相手が好き好きオーラ出してる間に繋ぎ止めておかねーから、いつの間にか離れてっちまうんだよ」
「いや違うね、オイラとしてはこうなってよかったというか……そもそもオイラの方は恋愛的な意味で好きってわけじゃなかったから、ただちょっと懐いてくれてるのが嬉しかっただけで……」
ウジウジ負け惜しみを言っているサイラスを、色恋に疎いヒメキアが見て首をかしげる。
「ねーデュロン、あたしぜんぜんわかんないや。どういうことなのか教えてー」
「えーっとな、要するにパグパブは愛するより愛されたい、追いかけるより追いかけられたいタイプだったってことだな。たぶん彼女自身もあんまり自覚してなかったはずだ」
「そっかー。パグパブさん、ねこみたいな人だったんだねー」
「猫ってそうなのか?」
「うーん、わかんないけど。どうかな? シュネーザちゃんはどう思う?」
「にゃぁん」
「そっかー、ねこだからわかんないかー」
「俺もまずシュネーザがオスかメスかすら知らねーんだわ」
二人ののんびりしたやり取りを見ていたサイラスは、やがて欠伸混じりに立ち上がる。
「じゃオイラ、訓練に混ざってくるね。友達も軽く百人くらい作ってやるね」
「ああ、俺も後で行くよ」
この分ならすぐに馴染めるだろう。心配は要らなさそうだ。
なのでデュロンの懸念は、自分の方へ戻ってくる。
ふと吐き出そうとして押し殺したため息は、しかしヒメキアが聞いていたようで、顔を覗き込んでくれる。
「デュロン、落ち込んでる? 大丈夫? ねこ触っとく?」
「ああ、ありがとう……いや、ほら……お前も見てただろ、最後のあれ」
「赤ずきんちゃんさん、やっぱり強かったね。爆発をわーって飛ばしちゃったよ」
そうなのだ。正直言って、自信を喪失している。デュロンに同調するように、ヒメキアもしゅんとした顔で切り出した。
「あのね、デュロン。実はあたしも落ち込んでるんだー」
「えっ? あ、もしかして……」
「うん。すなねこがいなかったから!」
落ち込んでる、と言うわりにはしかし、彼女の眉尻と口角は、すぐに跳ね上がった。
「でもね、あたし諦めてないよ。すなねこは、いると思うんだー。あたしの生き物を感知する力がまだ弱いから見つけられないだけで、すなねこはきっとあたしのことを待ってるんだよ」
そうしてニコニコ笑いながら見つめてくるので、デュロンは彼女の言いたいことを察した。
今はまだ力が及ばないだけで、砂漠に現れる天使がごとき光明は、意外と近くに潜んでいるのかもしれない、ということだ。
デュロンの弱さも願いも知っているヒメキアは、それでも掴めると言ってくれている。
こんなに嬉しいことはなかった。やはり曇っている暇などない、鍛錬あるのみだ。
「そうか……そうだよな」
同時にデュロンは、一つの決断を固めた。
仮に戦闘能力的には蚊帳の外になるとしても、ヒメキアにも知っておいてもらいたいという気持ちが強まる。
元々この件の情報開示に関する裁量は、デュロンにもある程度与えられていた。
ギデオンやサイラスにも話す必要があるが、やはりまずはヒメキアだろうと考える。
「ありがとよ。おかげで元気が出たぜ」
「へへ……ならよかったー」
「ヒメキア、ちょっと外行かねーか?」
「えっ? うん、いいよ。お散歩しようね、デュロン」
残念ながらデートではない。中庭にクーポ・グーズベリーがいるのを見かけたから、彼女の力を借りるのだ。
彼女が固有魔術で作る紙は、一定時間が経つと書いた文字が消え、葉っぱに戻ってしまう。
筆談による密談には、うってつけである。
もっとも、どこの勢力の誰が見ているかわからないので、あくまでカムフラージュをしたというカムフラージュにしかならないのだが。
内容は……デュロンたちの大望を叶えるためには、アクエリカをゾーラ教皇へと担ぎ上げ、彼女の号令によって〈銀のベナンダンテ〉という制度自体を撤廃してもらうというのが、現時点でもっとも現実的な方法だと思われる……というものだ。
すんなり行くとは思えない。それでもひとまず、この路線で進めてみよう。
スナネコは見つかるだろうか。いいや、なんとしてでも見つけ出すのだ。
ほぼ同じ頃、エモリーリと一緒にその辺で時間を潰しながら、ヴィクターが考えていたのもその件だった。
次の
しかしアクエリカが遵法的に教皇の座へのし上がってくれる方が、教会上層部にとってはまだしもマシなはずだ。
なぜならそれに失敗した場合、彼女がどんな手段に打って出るかは、容易に想像がつくからだ。
というかもうすでに、その物騒な準備を整えて始めていても、なにもおかしくない。
ヴィクターの依頼主が想定しているのは、まさにその状況だ。
ゾーラで強硬な武力闘争が巻き起これば……教会上層部を第一勢力、ヴィクターの依頼主が副官を務める集団を第二勢力とすると……デュロンたちミレインの〈銀のベナンダンテ〉は、侮りがたい第三勢力として場を乱してくれるだろう。
そこでヴィクターたちの出番というわけだ。今後は最終局面における存在目的そのものを表す、〈
とにかくデュロンたちの動きを一定以下に抑えるのが任務である。これさえやっていれば見事ゾーラ教皇となられた依頼主様から、莫大な恩賞を賜れるという寸法なわけだ。
ただ……もちろん、使命は遂行する。しかしその過程を楽しまないというのも、ヴィクターとしてはいささか無粋に思われた。
こうして仲間集めをやっているだけでも楽しいものなのだから。
「さあ、次はどうしてやろうか?
エモちゃんが見た未来でデュロンが派遣されてたっていう、ギャディーヤ・ラムチャプの故郷には、僕が勧誘に行こうと思うんだ。
ミレインが迎える今年のハロウィンは、カブやカボチャを刳り抜いてる場合じゃなくなるかもね。すでに潜んでいる僕のスパイが、騒ぎに乗じて大型新米を引き込む予定だぜ。
一番の悩みは、来月の枢機卿会議かな。直接ゾーラに乗り込むのは気が引けるけど、面白い奴に出会えるチャンスでもあると思うんだ」
「どうでもいいけど、わたしやあんたに制御できる奴にしてよね。お守りをするにも限界ってものがあるわよ?」
「わかってるって。それじゃまずは落ち着いた頃合いを見計らって、ジェドルとパグパブに詳しい話をしないとね」
世界を引っ掻き回して遊び、報酬まで貰えるとは、なんと甘美な仕事だろう。
訪れ戯れる悪魔どもの気持ちが、ヴィクターには少しだけわかってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます