男女の恋人同士じゃなきゃデートとは呼ばないとかガタガタぬかす頭硬ぇタコには全力でドロップキック
第238話 パーティを開こう!②
その日、アクエリカの専属事務官に着任したシャルドネは、当の教区司教から仕事のやり方をやけにねっとりした目つきと手つきで教わり、最終的に彼女がメリクリーゼにしばかれるのを横目に、
ちなみにシャルドネ自身はアクエリカやメリクリーゼと同じように、聖ドナティアロ教会内に私室を用意され、そこで寝泊まりすることとなった。
アクエリカが勝手に作った特別な浴室(いちおう司祭クラス以上しか入れないとしてあるが、実際は彼女たちと、数人いる女性の
その恩に報いるべく、しっかりと働かなければ……というシャルドネの思考は、しかし寮の食堂に入った時点で一旦断ち切られてしまった。
なぜならそこにはクリクリしたかわいい丸文字で、
『ソネシエちゃん!
無事で良かったね、おかえりなさい!
記念お祝いパーティ!! やったね!!』
と書かれた幕が張られていたからだ。
それだけならさしものシャルドネもまだしも涙ぐむ程度で済んだのだが、さらに『ソネシエちゃん!』の後に、まるでそうなることを予期していたかのようにスペースが空いていて、そこに後から『シャルドネさん!』と書き加えてある。これでもうシャルドネの涙腺は決壊した。大人だって泣くときは泣くのだ。
「うぇぇぇわゔぁぁぁぁあああ! わ、私のっ、うゔぇっ……ありがどぼぉぉぉ!」
「わーっ!? ご、ごめんなさいシャルドネさん!? あれ書いたのあたしです!」
「う、ううん、違うの、ヒメキアちゃん……き、急に、いろんな人から、心配してもらえて……嬉しくて……ヒメキアちゃんほんといい子! うちにほしい! もらった!」
「ええええ!? あ、あたし、もらわれちゃったよ!?」
それを見ていたイリャヒがオノリーヌに向かって、指を鳴らして宣言した。
「勝訴!」
「いやいやいや、それはちょっと待ちたまえ、鶴の一声にも程があるのだよ。それでは今まで我々が送ってきた法廷闘争の日々はなんだったのかね」
「お前らあれまだやってたのかよ、もはや趣味だろ」
「ヒメキア、歓迎する。一緒にリャルリャドネの汚名を雪いでほしい」
「お、おめいをそそぐの? そんなに悪い評判じゃないと思うんだー」
「いや、ちょっと変態ばかり輩出してしまっているという誹りは免れないかもしれんぞ。なあ、わたしは見てしまったのだが、ソネシエのベッドで……いやなんでもない」
「わたしのベッドがなに」
「なんでもないと言っているであろう。少なくともわたしが確認した限りでは、痕跡は残っていなかった。気にするでない」
「なんなの」
「当人の名誉のために黙秘する!」
「リュージュ、あなたも裁判始めません?」
「スキーやってみる? みたいに誘うんじゃねーよ」
食堂の中はすでにたくさんの魔族たちで溢れていて、普通に勤務帰りらしき制服姿の
しかしそれとは別に、ソネシエと同年代から一回り上くらいまでの、私服や民族衣装を着た女の子たちが固まっているテーブルが二つほどあり、その正体に関して天啓を得たシャルドネは、両手で口元を押さえて
「こ、この子たちは、まさか……ソネシエちゃんの、友達っ……!? とされる存在……!?」
「シャルドネ叔母様も、意外と若干ナチュラル失礼だな」
「まあ実際ヒメキアまで一人もいなかったわけですし、潜在的にフミネ以外は……」
そこでテーブルに就いていた灰朱色の髪の長身の子が素っ頓狂な声を上げ、灰青色の髪をお下げにした小柄な子が慌ててフォローする。
「嘘だろう!? なんでだ!? 友達なんて、できない方がおかしいんじゃないか!?」
「わあっ!? ちょっと!? ごめんね、こういうこと言う人は放り出した方がいいよね!? バイバイ、フクちゃん! 山へお帰り!」
「うおおおお待て待て待て! ふざけるな、酒を呑みたいんだ私は! わはは! 今回は夕餉だからな! 大義名分が立っているから、リョフメトに凍らされずに済むぞ!」
「フクサが? それとも酒が?」
「前者に後者をかけたら?」「実際にかけてみたものがこちらです!」「「だば〜」」
そこで割って入った灰桜色の髪の姉妹が働いた無法行為に、さすがに酒呑みの子も慌ててふためいた。
「うわ!? 本当にかける奴があるか!? しかしわたしの内部循環があれば大丈夫だ! ちょっと外で揮発させてくる! 新しい酒を用意して待っているといい! ではまた後で! 今日は風が騒がしいな! でもこの風は泣いているーっ!」
そのままどこかへ走り去ってしまった。台詞から風使いなのかと思いきや、ソネシエに訊くと彼女は光使いらしい。デュロンくんも呆気に取られて見送っている。
「……あいつ呼んだの誰よ? リョフメトは知ってる?」
「知らない! むふん! いつの間にかついてきてたね!」
「なにそれこっわ……じゃ、脳味噌ピカピカお姉さんには外で頭冷やしてもらうとして、俺らも勝手に楽し……どうしたお前ら?」
「「「「「「…………」」」」」」
「あちゃー、さっきのフクサの発言がグッサリ刺さっちゃった子が一人、二人、たくさん!」「なんとか耐えてたリョフも後からじわじわ効いてきたみたいで苦しそうだよ!」
「なんでわざわざ言うの!? それはあたしたち友達作るの苦手族に対する宣戦布告とみなしていい!? 講和調停は受け付けないよ!?」
いきなり民族間抗争が勃発してしまった。シャルドネはこう見えてどちらかというと「苦手じゃない族」の方なので、ソネシエに味方したいがしにくいというもどかしさを味わうのだった。
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