第223話 パーティを開こう!
「ソネシエちゃああああん!!」
寮へ帰ったソネシエに、涙と鼻水を垂らしながらヒメキアが駆け寄り、必死で縋りついた。
ひとしきり頭を撫でて慰め、ぐしゅぐしゅになった顔をハンカチで拭いてやると、ようやく彼女はいつものように、ふにゃっと相好を崩してくれる。
それを見て、ソネシエの方も安心した。
「ごめんなさい、心配をかけた。もういなくなったりしない」
「へへ……いいんだよー。ソネシエちゃんが、ぶじならいいんだよー。
ソネシエちゃん、もし今夜しんどかったら、あたしたちだけじゃなくて、ねこたちも頼ってあげてね。
ねこはみーんなソネシエちゃんの味方だからね。みーんなだよ。
……う、ううう……デュローン!!」
ヒメキアがデュロンに対してまったく同じことをし始めたので、ソネシエが言われた通りに眼を向けると、どうやら彼らも心配してくれていたようで、ヒメキアの猫たちがにゃあにゃあ鳴きながら集まってくる。
彼女が手近なソファに座って迎え入れ態勢を示すと、もふもふと擦り寄って癒してくれた。
帰ってきたのだなという実感を、その匂いに包まれてようやく得るソネシエ。
だがその後フミネ、エルネヴァ、リョフメトから次々と突撃に遭ったため、猫たちは機嫌を損ねて解散してしまった。
自分たちを探すのに協力してくれていたという三人に、ソネシエは改めてお礼を言う。
「ありがとう。あなたたちがいなければ、わたしとデュロンは今頃、どうなっていたかわからない」
「あああ、あだぢはぞんな、なにもできでないがら! ずびび……見当違いのとこ探してだがらあ!」
「リョフメト、あなた泣きすぎですわ。これでお拭きなさいな。
……ふ、ふふん! まああたくしは、どうせ迷子にでもなっているのだろうと思っていましたし?」
「そのようなもの。しかしエルネヴァ、あなたが左手に持っている方がハンカチ」
「えっ? ああっ!? 待ってくださいな、リョフメトさ……ですわーっ!!?」
「……あれえ? エルちゃん、この紙なんか硬いよお……」
「ぬわーっ、新刊の『
「はい通りすがりの〈
「うおおおお、相変わらずクッソ便利ですわ! 納得の完品還元保証! それ商売に使えばガッポガッポのウハウハ札束風呂じゃございませんこと!?」
「エルネヴァ、あなたそろそろお嬢様名乗るのやめなさい。あとペリツェ公にも謝りなさいよ」
「申し訳ございません、とても興奮されているようでして……」
謝罪の後に笑顔を向けられ、ソネシエも執事に会釈を返す。
本当に本当にたくさん心配してもらえて、それだけで彼女の心は満たされていた。
さっきからずっと無言でニコニコしながらソネシエの右脇を固めていたフミネが、おずおずと提案してくれる。
「あ、あの……みみ、皆さんお忙しいところ、おおおお集まりいただき……」
「なんらかの主催者みたいになってますわよ、フミネ。もしかして、そうしたいということですわ?」
「う、うん、そうなので! ……や、やっぱりエルネヴァさんお願いします……!」
「ふふん、任されましたの! びっくりするほどゴォォジャァス! にいたしますわよ! フク、すぐに手配を!」
「かしこまりました、お嬢様」
「なんの話をしているの」
「それはもちろん、あなたの『無事で良かったね、お帰りなさい』記念お祝いパーティに決まってますわよ!」
そこまでやってもらうのは面映いが、せっかくの厚意なのだ。
兄に目配せすると、「ここは甘えておきなさい」と言うので、ソネシエは頷いた。
ようやく涙と鼻水が止まったリョフメトも、元気に賛成してくる。
「それがいいよ! 捜索メンバーのついでで、地元から参加する子集めてくるよ! あいつらうるさいアホばっかだけど、賑やかしにはちょうどいいから!」
「この子ときどき死ぬほど口悪くなるから怖いですわ!? ……あれ、そういえばさっきから、タピオラ姉妹の姿が見えませんの?」
「ああ、ニゲちゃんヨケちゃんは二人が発見された第一報を聞いたら、『やれやれ、手間かけさせやがるぜ』『これに懲りたら、首輪の一つも付けておくんだな』とか適当なことを言って帰っていったよ。たぶんお礼言われると照れちゃうからだと思う。かわいいよね」
「かわいいですが、天邪鬼ですわね〜。心配だったら心配だったと言えばいいですのに、素直じゃないのどうかと思いますわ!」
「エルちゃんさっきからちょいちょいブーメラン刺さってるからね? じゃあ、今夜はさすがにもう遅いし、今から集まるってのもあれだから、明日の夕食どきにしよっか?」
「それがいいので! ……ソネシエ、今夜は眠れそう……?」
手を握って心配してくれるフミネに、しかしソネシエはきっぱりと答えた。
「大丈夫。わたしには無敵の抱き枕がいるから」
翌朝。宣言通り、ぬくもりを感じてぐっすり眠ることのできたソネシエは、一晩中それを与えてくれていたヒメキアの寝顔をじっと眺め、うにゃうにゃ言っている彼女のおでこを撫でた後、そっとベッドを先に抜け、身だしなみを整え始めた。
寝坊に厳しいネモネモも、今朝ばかりは見逃してくれるようで、部屋を覗いてきた彼女にソネシエが口元で人差し指を立ててみせると、同じ仕草を返してニッと歯を見せ笑ってきて、そのまま食堂へ降りていく。
すでに制服に着替えていたソネシエは彼女の後を追い、いつもの席に就くと、程なくしてイリャヒが現れ、挨拶しながら隣に座る。
ぽつぽつと取り留めのない話をしていた二人は、厨房から「でーきたのー! 取りに来てほしいの!」と朗らかな声が聞こえてくると、どちらからともなく立ち上がり、まだ二人しかいない食堂で、自分たちのための食卓を整えた。
静かな朝食を終えた二人は、ちょうどよくアクエリカの呼び出しを受けて、聖ドナティアロ教会へ出勤する。
教区司教の執務室へ入ると、まずはメリクリーゼが突進してきてソネシエを抱き上げ、子供にするようにそのままぐるぐる回り始めた。
正直言って困ったが、それだけ心配してくれていたのだという、剣の師からの愛情を素直に受け取る。
「あらあら、はしゃいじゃって。メリーちゃん、それより二人に謝ることがあるんでしょ」
「う、うるさいな。ああ、そうだ。本当は昨夜のうちに話しておきたかったんだが、お前たちは疲れていただろうと思ってな……」
柔和に微笑むアクエリカの揶揄で冷静になり、赤面しながら咳払いで誤魔化したメリクリーゼは、後ろに控えていたある人物を、ソネシエとイリャヒに引き合わせてくる。
その顔を見て、二人は戸惑うしかなかった。
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