ロウル・ロウン 1日目 承の段・蛍雪殺菌
第151話 朱の光芒が次なる戦いへと誘う
時間を遡って、昨夜。
夕食を終えて地下訓練場へやって来たデュロンは、すでにサンドバッグを蹴り始めているリュージュを見つけて、ゆるく挨拶した。
「おーす」
「おう、来たな」
「なんだよ、やる気満々じゃねーか」
「当たり前だ、優勝するのだろう?」
「まーな」
「よし。ではまず、明日の朝だが……」
三バカ一本釣りについて話し合い、概要が固まったところで話が変わった。
「……で、さすがにそこで全員仕留めることはできないだろうから、逃げられた後は街へ繰り出そう。この段階では、ターゲットは三バカには絞らない。そこからいよいよ本格交戦が予想されるわけだが、いくつか確認しておきたいことがある」
そう言ってリュージュは、彼女自身の喉を示す。そこでは変わらず、アメジストのような美しい紫色の輝きが主張している。
「そもそも勝敗を左右する珠をここに着ける時点で、主体的な参加者である我々竜人族にとって若干有利と言えるのだが、その理由がわかるか?」
「ああ。普通に致命傷となりうる部位ってだけじゃなく、お前らにとっては
「うむ。やはりお前は、喧嘩における論理や力学に関しては聡明だな」
「褒められてんのか微妙だが……じゃ、やっぱいきなり珠狙ってくってのは難しいか?」
「であろうな。ニゲルとヨケルにやったようにわたしが拘束したり、あるいはもう先に意識を刈り取るというのを基本方針にしよう。お前もその方がやりやすいのではないかな?」
「まーな。ただ、そういうふうに威圧して択迫って、結局先に珠ってのもアリだな」
「そこは臨機応変にやっていこう。……となれば、障壁となるのが……これであるな」
いきなりリュージュが息を吸い込んだので、デュロンはその場で身構えた。
が、竜人は
「……っなんだよ!? あ、そういう方針だから、もっとフェイントを鍛えようってことか?」
「いや、違うのだ。わたしは今、ちゃんと
リュージュは説明しながら、指を順に二本立てた。
「知らぬ者も少なくないが、我々竜人族の
一つはお前もよく知る『外部放出』、一般に想像される、火を吹く竜のイメージそのものだな。
そしてもう一つは『内部循環』だ。肺で生成した
少なくとも体内にあるうちは、具体的な攻撃力のある魔術ではなく、未分化の魔力であるため、それが可能となるのだ」
「そういやこないだイリャヒが、似たようなことをやったって言ってたな」
「うーん……厳密には違うのだが、思考実験のサンプルとしては近い部分があるので、流用させてもらおうか。
イリャヒの固有魔術〈
「ああ。ずいぶん難儀させられたって、ギデオンがぼやいてたっけ」
「ではたとえば同じことを、ソネシエに〈
「それは……あいつ自身の全身を食い破って、氷の刃が生成されちまうのか?」
「おそらく。それと同様に、我々竜人族の
外部放出したときに起こる現象と同様、内部循環したときに現れる効果も、バラバラすぎて一律には語れんのだ。
基本が身体強化かというと、それもちょっと違うわけで、共通の対策というのが練りにくい」
「マジか……じゃあ、たとえばお前は?」
「わたしの場合は、毒にも薬にもならんという感じだな。知っての通り、わたしの
「だから今まで全然使ってる素振りがなかったんだな。他の連中はどんな感じなんだ?」
「そうだな……たとえばドヌキヴという子が使う、
これはあらゆる物質や信号の流動を停滞させるという性質を持っているので、内部循環で使うと……なんだろう……おそらく再生限界に陥ったときの、応急的な止血などに役立ちそうではある」
「そうやって推測ベースで探っていくしかねーって部分もありそうだな……じゃあ、ブレントなんかはどうだ? まんま自家中毒になっちまうのか?」
「いや、有用な効果がある者ほど普段からよく使っているわけで、自分自身の属性に対して、耐性を獲得していると考えた方がいい。
そしてあいつの場合はちょっと特殊だから、毒も使い方では薬になるというやつで、身体能力の底上げくらいは可能と考えるのが無難だろうな。
そして内部循環の効果は、体の末端にも現れやすい。具体的には、手先と足先だな」
「
……ちなみに、タピオラ姉妹はどうなる?」
「聞きたいか? 本当に聞きたいのか?」
「こえーよ、やだよ。たぶん自己暗示みてーな形になるんだろうが、どれくらいヤベー方向性なのかがわかんねーんだよ」
「場合によっては法規制が必要なレベルだ」
「その時点でもうアウトじゃねーか!」
そもそも内部循環なので外から見てもわからない部分も多いので、追い追い見極めて対応していくしかない。
もっともそこは普段からやっている色々な種族相手の訓練や実戦と同じなので、大きな問題はない。
「わかった、気をつける。で、明日は……早々に釣れた場合だが、具体的にどこへ出る?」
リュージュは顎に手を当てて少し考えた後、その指を鳴らした。
「そうだな……零番街というのはどうだ?」
「ミレイン全体が開催区域な中、あえてそこか? どういう狙いなんだ?」
「確かにどこで戦ったっていいのだが、一般市民を巻き込むとアウトというのは、我々のように戦法が地味で小規模な者は目視の注意で済むのだが、派手な者はそうはいくまい」
「あ、そうか。めちゃくちゃブッ放したりするタイプの奴が、誰もいなさそうな広いとこで、手ぐすね引いて待ち構えてることが考えられるわけだ」
「そう。そしてそういう奴をこそ、早めに捕捉して狩っておきたいのだ。中盤や終盤の重要局面で別のペアと縺れ合った瞬間に、横からまとめてドーン! 一網打尽! みたいな展開は切実に困る」
「納得。それで決まりだ。対峙したらいつもの感じでいいか?」
「そうだな。お前が感知・索敵して耐久・機動力で肉薄。わたしはそれを後ろからサポートし、場合によっては前衛二枚。普段から連携していると、こういうところがやりやすい」
「な。だからこそ、ポッと組んだ奴らとかには負けたくねーよな」
「ああ。改めて、明日からもよろしく頼むぞ、デュロン」
「任せとけ。俺らで全員食い散らかしてやろうぜ」
ここまで強く結びつくと、もはや信じるもなにもない。
互いの役目をきっちり果たすだけで、自ずと結果が出ているのだから。
そして現在。零番街の一角で、建物の陰に隠れるデュロンとリュージュは、昨夜行った作戦会議を、ちょうど回想しているところだった。
「……おい、リュージュ。お前の読み、当たったぞ。もっと喜べよ」
「無理な相談であるなあ。まさかここまでとは思わないであろう」
逆に遮蔽物のあるここで良かった。開けた場所で遭遇していたら、いきなりやられていた可能性もあった。
「うおっ!」
今もまた、少し出ていたデュロンの頭のてっぺんを狙ったのだろう、前方斜め上方から鮮烈な朱色の極太光線が飛来し、屋根を掠めて向かいの壁に直撃するところだった。
照射された部分は焦げるでも溶けるでもなく、まるで鉄杭を打ち込まれたかのように、轟音を立てて蜘蛛の巣状の亀裂が走る有様だ。
「こいつは一体どういう現象なんだ?」
「わからん。ただ、食らうとダメージを受けることだけは確かだ」
破壊光線の発生源を辿ると、かなり高所にある時計台に、灰朱色の長い髪を緩く一つに束ねた、長身で筋肉質な女が、太い腕を組んで威風堂々と立ち、敢然たる哄笑を発していた。
「わーっはっはっは! さあ侵略者よ、降伏せよ! さもなくば我が咆哮の藻屑と散るがいいっ! わたしはどちらでも構わんぞーっ!? いざ勝負っ!」
肺に湛える
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