第139話 実際の参戦に耐えうるレベルの、超詳細なルール説明
少し時を戻して、夕方。連れ立って移動したデュロンたち6人は、他の同僚たちに混じって食堂へ入り、いつも使っている6人掛けのテーブルに就いて、仲良く晩ごはんを食べ始めた。
タピオラ姉妹は同僚たちに咎められるどころか、即打ち解けて和やかに会話している。
「おっ、ラグロウルの子じゃん。髪色シブいな」
「ここにいるってことは、もしかして敗退しちゃったの?」
「そうでーす! リューちゃんとデュロンくんに、さっさとやられちゃいましたー!」
「わたしたち、最弱の女の子っ☆ きゃは♫」
反応に困る自虐ネタをブチかましてドン引きされている姉妹を眺めながら、リュージュがデュロンに箴言を投げて寄越した。
「少し感想戦でもやっておこうか。ああ言っているが、あいつら……」
「ああ、わかってるよ。今回は遭遇した場所が良かったのと、お前がたまたま対抗策らしきものを持ってたから勝てただけで、あいつらのあの能力、完封試合量産しててもなんもおかしくねー性質のもんだった。
典型的な、あれだ……初戦で落とさなきゃダークホース化するタイプだな」
「おっ、見る目あるね、デュロンくん!」
「苦しゅうないぞー! ヒメキアちゃん、おかわりちょうだい!」
「おい、自分で取り分けて食え。お前らほんと一回甘えたら一直線だな……」
的確な見立てに気を良くした様子で姉妹がお皿を差し出すので、デュロンが適当な料理を盛り付けてやる。それをヒメキアがニコニコ見守っていた。
「あたしが作った料理、いっぱい食べてくれて、嬉しいよ!」
「おいしいからねー! パスタおいしい! お肉もおいしい!」
「お肉お肉! お肉は力の源! お肉がないと生きられない!」
野生の戦闘民族というかもはや餌付けされた動物さんと化した姉妹に、デュロンはふと気になって尋ねた。
「そういや、記憶が曖昧なんだが……俺をわんこにしてたんなら、先に俺の首輪の珠を破壊して、敗退させりゃよかったんじゃねーか?」
「うーん、それも一案ではあったんだけどね」
「えーと、すごく曖昧な概念で、追い追い感覚的に理解してもらうしかなくてほんと申し訳ないんだけどね?」
「うちらの民族には〈戦士の誇り〉ってのがあってね、要はそれに恥じないように健闘しろよっていう暗黙のルールなんだけど、破ると主催者さんの使い魔である蜥蜴ちゃんがやってきて、珠破壊して参加資格剥奪されちゃうわけなのよ」
「マジかよ、ヤベーな……そんなんで脱落とかぜってー避けてーわ」
『その通り。そしてご参加ありがとう、デュロン・ハザークくん』
噂をすれば影が差し、いつの間にか食卓に赤い蜥蜴が登ってきていて、遠地……おそらくはラグロウル族の里にいるであろう、竜人の美声を代弁していた。
デュロン、ヒメキア、ソネシエがビクッとなり、タピオラ姉妹は「「お疲れっす!」」とナメた口を利き、そしてリュージュは深々と頭を下げた。
「ご無沙汰しております、ヴァルティユ様。このような形での再会となり、大変恐縮の……」
『よいよい、そういう堅苦しいのはナシでいこうではないか。なあ、リュージュよ? 私はな、お前の元気そうな顔が見られただけで……そして、私の〈ロウル・ロウン〉に参加してくれただけで満足だぞ』
「寛大なお言葉に感謝いたします」
誰なんだ? というデュロンの視線を受け、リュージュは蜥蜴を丁重に指し示した。
「この使い魔を操っておられるのはヴァルティユ・グリザリオーネという方で、体術や息吹における、わたしの師匠と考えてくれればいい。
彼女は10年前に開催された、前回の〈ロウル・ロウン〉で優勝し、自薦された。つまり、一つ上の世代の
「なるほど……あ、こちらこそ、参加させていただいてます……」
使い魔越しにも威厳が伝わってくる上に、リュージュの師匠ということで失礼は働けず、自ずとデュロンは畏まった。ヒメキアとソネシエも感化されたのかお辞儀をしている。
しかし先方の対応はフランクなものだ。
『いやいや。むしろ君にはレベルを底上げしてくれていることに、こちらから礼を述べるばかりだよ。ああ、続けてくれ。私もちょくちょく解説を入れていくから、戻せ戻せー、話を戻せー』
赤蜥蜴さんに促され、姉妹が直前の記憶を喚起する。
「なんだっけ? ……そうだ、敗退者とか非戦闘員への攻撃も、敗退者とか非参加者からの、直接的な助力を受けるのもダメだからさ」
「そうそう。あの時点でデュロンくんを手放すって選択肢は、うちらにはなかったわけなのよ」
そこで黙って聞いていたソネシエが、いつになく前のめりに質問を始めた。
「いくつかの微妙な表現の相違が気になる。まず、直接的な助力というのは、戦闘に関する補助という認識でいいの」
『厳密な定義は難しいが、攻撃、防御、治癒、援護というところだな。まあ、水の一杯くらいは見逃してもいいが、勝敗や生命に関わるものはアウトだ。
ちなみにニゲルやヨケルが今もうすでにやっているわけだが、ルール説明を含む情報提供や交換は自由である。伏せられたルールの解明を楽しむタイプのゲームもあるだろうが、これは主旨が違うからな』
「理解した。次に、非戦闘員ではない非参加者への攻撃というのがなにを意味するかを聞きたい」
この熱心さを見るに、ソネシエはどうにかして誰かの
ヴァルティユからしても火を見るより明らかなようで、特に指摘せず返答してくれる。
『うむ。身もふたもないことを言うと、我々は戦闘大好きのアホ民族なので、大会の勝敗にまるで関係ない、なんの得にもならないどころか体力的に不利にもなるような、通りすがりの猛者への野良喧嘩を仕掛ける自由が、食事や休憩を取る自由と同程度に認められている。ただそこで一般市民に手を出すというのはダサすぎるなという話であって』
「割り切ってるっつーか、振り切ってるなー……他にはどういう行動が失格対象なんだ?」
まったく関係ないのにちゃんと話を聞いている様子のヒメキアに感心し、彼女の頭を両脇から撫でながら、タピオラ姉妹が思い出してくれる。
「あのねー、なんていうかルールを逆用した、盤外戦術系はやめといた方がいいねー」
「外からチマチマつつく暇でスカッと殴り合えや! って怒られる感じだね」
「あー、ならうちの姉貴は今回は不参加だな。あとヴィクターみてーなタイプ……そうだ、銃ってやつとかはどうだ? 銀の弾丸をバンってやると」
「一発で赤い蜥蜴さんが珠をバンっだね」
「武器や飛び道具みたいな、搦め手戦法自体がダメなわけじゃないよ。不意打ちも横入りも全然オッケーなの。ごめんね、ややこしいよね」
「ああ、卑怯の基準が難しいな……戦闘は良くて、戦争はダメみたいなイメージかな?」
思いついて適当に言ってみただけだが、ヴァルティユが意外に鋭い反応を示した。
『なかなか良いたとえではないか。それで言うと、たとえば、実際の戦争だと、傭兵部隊同士が事前に示し合わせて程々にやり合ったりするのだが、ああいうのは最悪に盛り下がるよな』
「あ、なんかそういうことがあるって姉貴が昔言ってたような……ん? お前ら、どうした?」
リュージュ、ニゲル、ヨケルの顔が真っ青になっており、3人は訥々と話し出した。
「……デュロン、落ち着いて聞いてくれ。ここまで出たのは違反しても失格になるだけといえばそうなわけで、残念だったねで済まなくもない。
ああ、ちなみに我々ラグロウル族の参加者が脱落すると、その相棒も同時に落ちる決まりになっている。つまり最終戦より前にわたしの珠が破壊されたら、お前の優勝も消えるわけだ」
「お、おう……なんだ? こえーんですけど」
「あのねデュロンくん、一つだけ絶対やっちゃいけないことを念頭に置いてね」
「君はやんないと思うけどさ。それはね、手を抜いて、わざと負けることなの」
「あーそうか。単純に白けるし、外から勝敗を操れちまうからな。わかった。……それやっちまうと、どうなる?」
姉妹は顔を見合わせ、あっけらかんと言った。
「うーん、死ぬ!」
「比喩とかじゃなくて、マジで死ぬ!」
「死ぬの!? なんでだよ!?」
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