第34話 その炎の名は
なんでも燃やせる炎の魔術と、いかなる魔術も無効化する金属。〈
この優劣関係を覆すための追加条件はただ一つ。
銀の浄化作用による魔力への干渉を防ぐために、〈
これをクリアするため2人は文字通り火を「放ち」、イリャヒのものではなくするという方法論を採った。だが正直、演技だったのは半分くらいだ。
イリャヒを殴り倒したのは、念のため彼と炎の魔術的なリンクを完全に断ち切り、さらに、野火と化しても〈
最後にそれをデュロンの体毛に移し、ギャディーヤへ届けるという行程である。
放火・同士打ち・火ダルマという奇行の三連コンボを食らったギャディーヤは、動揺するまではいかずとも思考を狭められ、とっさに正面から迎え撃ってくれた。
こうなってしまえばしめたもの。
魔力の無効化を無意味化した以上、体を覆うのが銀だろうと
特にメッセンジャーが人狼である意味すらなく、〈
「オオッ!」
デュロンに求められているのは、装甲を破ったその先だ。全開の乱打を開始する。
「オオオオオオオオ!!」
残念ながら〈
「ルアアアアアアア」
これがまた
燃費は相当にいいようで、魔力の枯渇を狙うのは無理そうだ。
もっともご覧の通り、デュロンも燃費の良さでは二重の意味で負けていない!
「アアアアアアガアアアアア!!」
ならあとはデュロンの腕次第、体力勝負である。
デュロンの体重と筋量は、ギャディーヤの半分もない。
加えてギャディーヤを苛む青い鬼火は、宿し続ければデュロンの命を削る疫病神でもある。
火責めを仕掛けてはいるものの、主に炙られているのはデュロンの方なのだ。消耗が激しい、今に潰れる。
「こ、の……クソガキャァ……!」
そして当たり前だが、ギャディーヤも反撃してくる。しかしこれは先ほどの逆も言える。
燃えているデュロンを殴り返すだけ、ギャディーヤの装甲は剥げてゆく。掴めば止められるだろうが、焼かれる痛みでままならない。
だから言ったのだ、一緒にくたばれと。
「……オオ……!」
自分から上手く仕掛け、優位に進行してはいる。それでも挫けそうになったデュロンの脳裏で、姉の言葉が甦った。
『我らの取り柄は謀略と暴力、騙すか殴るかだけ。わたしが前者、君が後者だ』
……そうだ、それだけが取り柄だ。ヒメキアを救うためにここへ来た。
こんなただ硬く、ただ重く、ただ
「オアアア……ッグ!」
だが燃えながら殴り続けているのだ、再生力が追いつこうとも、まず呼吸に限界が来る。
デュロンは最後の一撃の反動で自分の方が後退してしまい、天を仰いでその場に立ち尽くした。
「……ア……アア……」
体が熱い。不思議と痛みはなく、熱だけを感じている。
狭窄した視野の中央で、ギャディーヤの装甲が完全修復されるのを見た。相手の魔力はまだまだ残っている。
「ヤ、ベー……動け、ね……!」
デュロンの方は追い打ちどころか、地面を転がって火を擦り消す体力すら残っていない。
「……ハッ、ハァー……いィーい、突きだ、小僧ォ……ゲッホァ!」
そしてそれはギャディーヤの方も同じようで、笑ったままで吐血し、ゆっくりと前のめりに倒れた。
防御魔術は盤石でも、その下の内臓が累積ダメージに耐えられなかったようだ。
霧が晴れるように熱が引いてゆく。デュロンが自分の体を見下ろすと獣化変貌が解けており、炎もいつの間にか消えていた。
気配を感じて振り向くと、イリャヒがすぐ後ろに、右手を掲げて立っている。指先には野良の同胞を消火した、新たな鬼火の残滓が燻っていた。
そしてイリャヒは嬉々として謳い上げる。
「我が固有魔術は至高の輝き! 味方には加護をもたらし、敵と見れば一切の容赦なし! 有機・無機、物質・現象問わず、万物を焼く始原の炎! その名も……」
「〈
「ちょっと、そこ私が言わなきゃダメなんですけど!?〈
「前から思ってたけどお前、ちょっと自分の能力好きすぎるだろ……」
〈
ともかく、ようやく強敵を下した。リュージュの方も決着がついている頃だろう。
あとはウォルコを蹴っ飛ばせば、この一連の騒動は終わりだ。
もっともそれが、実現するには難しいのだが。
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