第11話 空を泳ぐ魚たちへ

拝啓


十二月の寒空の中で、雪にも負けず泳ぎ続ける君たちを横目で見ながら生きている私がいますが、いかがお過ごしでしょうか。


魂を揺さぶる鐘が鳴り続けています。それは私にとっては、かなり革命的であり、かつ心の隙間を音色が埋めてくれる、斬新な体験でもあります。餌を求めて鳴いている子猫のような気持ちです。


右を向けば左。左を向いたら上を向く遊びの様に、誰もいない真っ白な部屋で私は対話を試みました。真っ黒な扉は何を思い、何を主張しているのか理解出来ずに、ただただ見つめるしかありません。そんなあなたも寂しいのですねと、慰めました。


裏路地を歩けば棒に当たりそうな、ひっそりとした楽しみは、君たちの特権ですね。凛とした瞳で泳ぐ姿は、私の心を虜にしています。滝の様な雨が降ると同時に、流れに逆らうその姿を写生してみたいと、毎日の様に思っています。


影にはいつも光が隠れています。その真実は変わりません。いつか私も空を泳ぐ鳥になって、君たちを捕食したいと切に思います。


それまで元気に育って下さい。


敬具

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報われない手紙たち 櫻花 葵 @rufan

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