第二話 やっちまったな


神庭克樹(かんばかつき)24歳、彼女無し、趣味は会社と自宅の行き来、覚えたてのSNS。特技は「あ?いたの?」と言われるくらいオーラを消すこと。(意図していない)




今日は会社に遅刻しそうになった。間に合ったけど、寝坊したことはあきらかにバレバレ。髪の毛は実験に失敗した博士のようで、ダイナマイトが爆発したのかと思うくらいの腹鳴(腹減った)、そしてスーツではなく黒いジャケットを着てきてしまったからだ。


焦ると普段(無意識でも)できていることが軒並みできなくなっていく。指摘してもらえるが注意というよりも哀れまれている感覚。


「かわいそう」


何の変哲もない言葉だけどこれが1番刺さる。






本当に心配してくれている感じはしない。いいよ、僕は1人で生きていくなんていってても本当は寂しいのかもしれない。

でも、その寂しさを悟られたくない。出したくない。だから今日もこうして、心の声で終わらせている。






1日のストレスも溜まり始める夕方、夕日がカーテンの隙間から漏れてくるのが鬱陶しく感じてしまう。


お天道様は年中変わらない。たまには上りたくない日もあるだろうに毎日、毎日無休でエライ、本当に。僕だったら美女からの称賛でもなければやってられないよ。



最近の楽しみ、癒しは仕事帰りによる喫茶店。



コーヒーを飲みながら美人店員さんを端の席から眺めるのが楽しくて仕方がない。

ここの店員さんは仲が良い。お客さんに気を使いながら、小さな声で「あのお店の〜」や「Twitterでこれを見たんだけど〜」と僕でもついていけそうな会話をしている。入りたい。


いくつくらいなんだろうか?女子高生‥にしては大人っぽいし、社員さんかな?でも、こんな綺麗な人なら恋人の1人や2人いてもおかしくないだろう。


流行に敏感なのかな?今、知らない人の名前が出てきたので調べてみると、注目の二世若手俳優と出てきた。あぁ、あの俳優さんの息子さんなのか、へぇ〜。


俳優かぁ、お芝居なんてできないからゼッタイなれっこないなぁ〜。アニメとかゲームが好きだから一瞬、やりたいと思ったことがあったけど諦めちゃった。





今の会社だって別に入りたくて入ったわけじゃない。フリーターでダラダラやっていきたかったけど、親からなんて言われるか分からないし、同級生にバッタリあったとき、何の仕事やってるのー?なんて言われて


「いやーフリーターをー」


なんて言ったら格好がつかない。


第一、やりたいことなんてそうそう決まらないよ。高校生の頃、将来の夢について卒業作文?を欠かされたとき1番最後まで書けなくて、お前のせいでアルバムを作るのが遅れるなんて言われたっけな。





はぁー、コーヒーが喉から通って、冷たい感覚がだんだんと降りていき胃あたりに着地する。これがいい。


そして、この苦味のあるコーヒーの匂いに混じって、綺麗な人の匂いもしてくる。

どこからしてるかわからないし、まさか匂いの元を辿るわけにも。あの店員さんの匂いだったらいいなぁ〜なんて。えへへ( ´ ▽ ` )



て、言うか僕匂いに敏感すぎないか?敏感っていっても“この匂い”が好きなんであって、他の匂いには反応しないんだけども。この匂い専門の敏感。なんだよ、その特殊性癖みたいな能力。いつ使うんだよ。



さて、こんなバカなこと考えてないでさっさと家に帰ってご飯食べるか。でもこの妄想をしている時間も好きだったりするんだけど。



空いたグラスを返却口に入れる。

このグラスは洗われて、また新しい液体を入れられ

どっかの誰かに飲まれるんだろうか。

こいつの方がまだ人のためになってんだなぁ。

僕は、なんのために生きてんだろう。




て、空いたグラスに嫉妬し始めるとかいよいよだな。

コーヒーと出どころのわからない綺麗な人の匂いを後に家に帰る。今日は何食べようかなぁ〜、作るのもめんどくさいしコスパの良い牛丼、いや、昨日も食べたしスーパーの安売り惣菜でビールを〜と、これは一昨日。最近、お腹も出てきたしお酒は控えるか。

でもこれが唯一の楽しみであって、これがなくなっちゃったら何を楽しみに仕事をしたら‥ッアタッ!!



『きゃぁ!』


「うわっ!ごめんなさい!ボーッとしてて!!」


『いえっ!私もスマホ見ながら歩いてましたし!』


「本当にごめんなさい!!あ、あのスマホ‥」


『あっ』




画面が割れている。落としたとき、割れてしまったんだろう。うっわ‥やってしまった‥。





「え、あ、えっと、画面って元から割れてました‥?」


『いえ‥』


「うわぁぁぁほんっとにごめんなさい!!出します!!弁償します!!」


『えっ!?いや、わたしも悪いですから』


「いやいやいやいや、僕の気が済まないんですっ!!!連絡先っ‥て、あ、動きますか?」


『はい。電源は落ちてないので』


「よかった‥」




連絡先を交換し、この日は帰った。

うわぁ〜‥もう、こんなところで出費をするなんて‥。


でも思いもよらぬところで女性の連絡先を。ウヒヒッ。


て、喜んでる場合か。人の物を壊してんだぞ。

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あなたの臓器がほしいな、おいくら? 思い出の色あせた珈琲 @iroaseta_omoide

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