台風なんてクソ喰らえ!
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第1話 :台風なんてクソ喰らえ!
古来日本から伝わる、人の姿を模した台風
時は過ぎ、2022年 1月31日。1人の少年が風人討伐隊に憧れ上京する。
「うぉー! ここが東京か! すっげえ、都会だ……あっちにもこっちにもビルが。 おっと、目的を忘れるところだった」
憧れの風人討伐隊に入隊すべく、
風人討伐隊の入隊試験は、防衛省で行われるため電車を乗り継ぎ、新宿まで向かう。初めて乗る都会の電車は、人で溢れ変えており田舎育ちの裕人には、少々酷なものだった。
向かう途中、裕人は風人討伐隊の心得がのった紙に目を通す。幼少期から持っているその紙は、穴が空くほど読み込んだせいか、紙はしわくちゃになり踏まれすぎた広告紙のようになっていた。
風人討伐隊入隊心得の1つ。超人的な力を持っていること。
風人は人間の力を、遥かに凌駕した力を持っており対抗できる力がなければ駄目なのだが、裕人の超人的な部分は足の速さだけで最初からスタートラインにすら立ててないのだが、謎の自信と根拠で裕人はここまでやって来たのだ。
風人討伐隊入隊心得の2つ。絶対市民を見捨てるべからず。命を賭して守れ。風人討伐隊は如何なる強敵であろうと、背を見せ市民を逃がすことをやめてはならない。死してもなお市民を守れ。それが風人討伐隊だ。
しかし、裕人は小心者だ。怖いものはめっぽうダメで、命を賭ける根性などない。それでも、裕人は風人討伐隊に入ることを夢見て生きてきた。
裕人は、昔から風人討伐隊の活躍をテレビ越しに見ていた。勇猛果敢に風人に立ち向かう、数人の小隊。倒れても傷付いても笑って、市民を逃がし助ける。そんな姿に裕人は憧れていたのだ。いつしか、自分もなりたいと思うようになっていくのは、ごく普通の当たり前の事だった。
電車で心得を何度も読み直していたら、あっという間に新宿へと着いてしまった。新宿へ着いたという現実が、小心者の裕人の心を強く強ばらさせるが、足は止めなかった。
強ばる心を落ち着かせながら、新宿の町を歩き防衛省へと向かう。向かう途中オシャレなカフェや大好きなゲームセンターの前を通り、中へ入ろうとする小さな欲望が芽生えるが裕人はそれを押し込み防衛省へと向かった。
防衛省に着くと、対風人防壁
屈強な禿げたガードマン2人に、今日ある風人討伐隊の入隊試験を受けに来たと言うと、防衛省の中へ通してくれる。誰でも討伐隊に入れるわけではないが、入隊試験は誰でも受けることは可能なのだ。有望な人材を効率よく見つけるためには、これが一番いいということで昔からこの体制が取られている。
防衛省の中は、電車の中のように人で溢れ変えていた。廊下から試験会場まで人がずらりと並び、先頭の方は水平線となって見えていた。風人討伐隊は、国家公務員になり給料は国家公務員の中で最高クラスにいい。さらに待遇もいいため、このように毎年人で溢れかえるのは当たり前の事だった。
裕人は、あまりの人の多さに緊張し今すぐこの場を去りたい気分だったが、逸る気持ちを抑えつつその場に留まる。
壁にかけられたテレビには、風人討伐隊の華々しい戦闘が流されており暇になった人たちは全員それを見ていた。もちろん、裕人もその中の1人だった。
「あ、この風人泣いている……」
裕人は、テレビに映っている風人を見ながらそうこぼす。裕人は、昔から風人の表情が分かるのだが、風人には顔がない。のっぺらぼうのような顔をしており表情など読み取ることは到底不可能なことで、小さい頃の裕人は両親に、風人が泣いていると言ったが子供の戯言だと思われマトモに相手にはされなかった。風人討伐隊の一小隊に倒される間際の時、風人が見せた表情は泣いていた。
「あー。 マイクテスト、ワンツー。 うん、良好だね」
テレビを見ていたら、至る所に設置されたスピーカーから若い男性の柔らかい鈴のような声が流れる。会場はざわめきたつ。
「え〜大変長らくお待たせ致しました。 ただいまより、風人討伐隊入隊試験を開始します。 はい、それじゃスタート!」
唐突に始まる風人討伐隊入隊試験。試験の詳しい内容など、何一つ聞かされずに試験は開始する。
当然、会場は困惑と驚きに包まれており誰一人としてその場を動こうとはしなかった。裕人も訳が分からずに、カカシのように突っ立ていた。
困惑が立ちこめる会場の雰囲気をぶち壊したのは、防衛省の壁を破壊し突如現れた黒タイツに身を包んだ謎の集団たちだった。
会場にいる人たちは、悲鳴を上げ逃げようと入口の方へ走るが、この人の量だ。人と人が押し合い、まともに進める状況ではなかった。
「逃げるなんてことはするかよ!」
1人の強気な青年が、果敢に黒タイツの集団に飛び込んでいき、それに続く人が5人。裕人も続こうとするが、足が言うことを聞かない。前へ動けと命令しても、足はその場に溶接されてしまったかのように動かなくなる。
6人は、勇敢に黒タイツの集団と戦いその他の人たちは、1歩後ろに下がりその光景をただ呆然と静観していた。
今、会場にたちこめる雰囲気は、あの人たちがやってくれる。だから俺たちはしなくていい。という他力本願のもので風人討伐隊にはふさわしくないものだった。
数分経った頃、スピーカーからまたあの男性の声が流れる。
「はい、終了〜! さっき黒タイツの集団に立ち向かった人たちだけ、この場に残ってください。 その他の人たちは帰ってよし!」
スピーカーから告げれた言葉は、6人以外の人たちは不合格と言っている内容だった。会場は試験内容を聞かされてないから、あれが試験だと思わなかった等と不満と愚痴をこぼしていたが、裕人は納得していた。
風人はいつどこから来るかも分からない。だから、急に現れた黒タイツの集団に果敢に飛び込めるか。飛び込めなければ、急に現れた風人にも対応が出来ない。不合格になって当然だった。恐らく黒タイツの集団の正体は、風人討伐隊の人たちなのだろう。
裕人は、肩を落としながら防衛省を後にする。試験の内容はズタボロで、心もズタボロだった。そんな心を癒すかのように、裕人は当初の予定になかった都会観光を始めた。
まず最初に向かったのは、ここに来る途中見つけたカフェとゲームセンターに寄る。ある程度、ゲームセンターで遊び終えるとショッピングモールが近くにある事が分かり、裕人はそこへ向かうことにした。
ショッピングモールへ着いた、裕人は遊ぶため財布の中身を確認するが、カフェとゲームセンターでお金を使いすぎたせいで埃しか入ってない、悲しい財布になっていた。
仕方なく近くにあったベンチに座り、綺麗に澄渡る青空を眺めることにした。空は青く、なんの迷いもないように見える。
裕人の心は迷いだらけで、澄渡るとは程遠い心をしていた。小心者を発動し、あの場では足が動かなかった。結局、志だけでは上手くいかないのだ。
ぼーっと、空を眺めていたらだんだんと曇り空へと変わっていき、突然満杯に溜まったバケツをひっくり返したような雨が降り始める。
「うわあ! 雨が降ってきた最悪だ!」
雨が降ってきたのは最悪だった。しかし、その直後さらに最悪なことが起こってしまう。
「……ギ、ギ。 ヒ、ヒト。 タ、タ、クサンン」
つむじ風のように、突如目の前に現れた風人。体中に風を纏い、その姿はまさに台風。
意思の疎通が図れない風人が人間の言語を話している。
つまり、この風人は……
「特異型!? それに今日風人予測は出ないだったのに!」
現代になって、いつ風人が出るかを大体なのだが予測出来るようになっており、その予測では今日は出ないとなっていたのだが、目の前には出ないとされていた風人が立っていた。
ショッピングモールにいた人々は、徐々に風人の存在に気付き悲鳴をあげながら逃げて行く。
裕人も逃げなければ、と思い風人から離れようとするが、風人の風圧で倒れてしまった女性を通路の奥に見つける。
女性を助けようと足を動かそうとしているが、ガッチリと固まってしまい、その場から動かなかった。裕人は、動け。動け。と自分の足に命令を送り続ける。このままでは、あの女性は風人に殺されてしまう。早く動け、ほらもう向かってるじゃないか!風人は、女性に徐々に距離を詰めていく。殺す気だ。
「動けよ! 俺の足! 何が、風人討伐隊に入隊するだ! 人を守るのが、風人討伐隊だろ! 動けよ!」
心からの叫びを上げると、足はそれに呼応するかのように動く。裕人は、間一髪のところで女性を助けれたが、この後のことは考えているはずもなく、獲物を取られたと勘違いした風人は怒り狂う。
「オ、オ、オ、レレノノノノエ、エ、モモノノ!」
怒り狂ってしまった風人。足の速さだけが取り柄の裕人。走って逃げようが、風人の方が速い。追い付かれて殺されるのが、関の山だ。
なら、やるべきことは1つ。
風人討伐隊入隊条件の2つ。絶対市民を見捨てるべからず。命を賭して守れ。風人討伐隊は如何なる強敵であろうと、背を見せ市民を逃がすことをやめてはならない。死してもなお市民を守れ。それが風人討伐隊だ。
「お姉さん、起きてください。 目を覚ましてください」
気絶する女性の頬を叩き、強引に目を覚ませる。目が覚めると、風人がいる状況に女性は悲鳴を上げるが裕人は落ち着いて、この後どうするかを説明する。
「それじゃ、貴方は!?」
裕人は自分が囮になるからと、女性に説明をする。囮になって死ぬのは女性も分かりきっているようで、裕人の心配をする。
けれど、裕人は笑いながらこう言い放つ。
「僕、こう見てもさっき風人討伐隊の入隊試験受かったんですよ」
小心者がつく、見苦しい嘘だ。しかし、今の裕人の姿は小心者ではなかった。果敢に突如現れた風人に挑む風人討伐隊のようだった。
「そう、なら私先に行くわ。 必ず後で会いましょう」
女性と後で会う。という約束をし裕人は風人の前に立ち塞がる。
足はまだ震えてる。雨に濡れて寒いせいなのか、それとも武者震いなのか。それとも、ただ怖いだけなのか。答えは、後者だろう。
それでも、裕人は風人の顔から目を離さない。怒りに染った顔から、目を背けずに見つめる。
「こ、来い! 風人!」
死を覚悟し、そう叫んだ時。陳列されている商品を浮かし、風人を宙へと舞わせる暴風が吹き荒れる。
吹き荒れる風は、裕人の周りに集約していくき、裕人の姿を変えていく。風が集約しきった時、店の硝子に反射して映る自分の姿に驚愕する。
「これは……風人?」
硝子に反射する姿は、宙へ舞っている風人と同じはずなのだが、読み取れないはずの表情が、正確に浮き出ており顔の表情が読み取れるのだ。
宙へ舞っていた風人が地面に着地し、今はそんなこと考えてる場合ではないと裕人は、ファイトポーズをとる。
「ギ…オ、オ、オマエ。 ナカ、ナカ、マ」
風人は、裕人の姿を見て仲間を言うが裕人にとって風人は敵なのだ。同胞を殺す、風人と裕人は成り果てたのだ。
「知らない! 俺にとってお前たちは敵だ! 台風なんて、風人なんてクソ喰らえ!」
拳を前に突き出すと、暴風が吹き風人に渦巻いている風を蹴散らしていき、緑色のコアを露出させる。
風人を倒すには、胸の真ん中にある露出している緑色のコアを潰せば、渦巻いてる風が空へと舞っていき、風人は死んでいく。
裕人は、露出した緑色のコアめがけキックを繰り出す。パキッと、硝子が割れる音がしてコアは割れる。風人の風は絶えて空へと還っていく。
裕人に渦巻いていた、風もどこかへ行ってしまい普通の人間に戻る。手を見ても、風は渦巻いておらず、普通の人間の形をしていた。
「なんなんだったんだろう。 さっきの力」
「少年、君がやったのかい?」
拳を見つめ、力のことを考えていると後ろからスピーカーから聞こえたあの声がし振り向くと、紫色の派手な髪にカラーコンタクトなのだろうか、緑色の目をした男性が立っていた。ニカッと笑いながも、その顔には疑いがあった。
さっきの風人の情報が、風人討伐隊に入り討伐しに来たが僕が先に倒してしまったせいで、この人たちは手持ち無沙汰状態になってしまったのだ。
ここで僕が倒したと言ってもいいのだろうか。でも、ここで僕やってませんと言ってしまったら、逆に誰がやったんだ?となってしまうため素直に言ってしまおう。力のことは一応隠して。
「はい、僕がやりました」
「……君入隊試験にも居たよね?」
「え、あ、はい。 居ました。 でも、立ち向かえなくて落ちちゃいましたけどね……」
「なるほど。 なら、合格! ようこそ! 風人討伐隊へ!」
「えぇー!!」
紫色の派手な髪な人から合格を言われ軽い感じで、俺の風人討伐隊入隊が決まってしまい、俺の風人討伐隊としての日々が幕を開けたのであった。
台風なんてクソ喰らえ! 青いバック @aoibakku
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