【バーサス映画世界線】序、豊穣の神vs 搩の神
そこに在わす神が扉を開けるときにすっ転んでイカれた世界線。第三部エピローグ後の分岐なので読了後推奨です。
謎の人気があったので豊穣の野郎が仲間になります。
これが正史ではないとは思う。
***
とうの昔に看板の字は掠れてちまって、「桀」としか読めないんだけどさ。
昔は榤とか嵥って書いたらしい。
何となくわかるだろ。あのデカい山の腹を食い破って突き出てる大樹、あれが御神体なんだと。
由来はわからねえが、そういう話だ。
山神ってのは人間に恵みを与えるもんだ。自然と一緒でたまに厳しいが基本的には慈悲深い。
ここの神も御多分に洩れず、貧しく報われない人間の祈りに応えてやったんだと。
だがなあ、何の見返りもなく助けてくれる神なんておっかないと思わないか。タダより高いもんはないぜ。
俺はそこまで悪どくないよ。お代は煙草一本、見返りは吸い終わる間までの与太話でどうだい。
どうも。
じゃあ、話すか。と言っても又聞きだがな。
ここらは今じゃただのお山だが、昔は中に村落があったらしい。どっかの落人が開いたか、人里に降りられない理由があったんだろうな。
厳しい環境さ。土地が荒めばひとも荒む。
村長だか何だか知らねえが、村一番の分限者の一族はどうにも性根が松の木より捻じ曲がってたらしい。
ある代の当主の男が貧しい拝み屋の娘を半ば無理やり嫁さんにした。
最初はよかったが、野良仕事はできねえし、望まない結婚だから愛嬌も見せねえとだんだん邪魔になったらしい。美人は三日で飽きるっていうのかね。俺はひとの面の良し悪しはよくわかんねえが。
その上、ひどい冷夏が訪れた。
真夏に雹が降ったらしいぜ。四方を山に囲まれた村なんぞひとたまりもねえやな。
僅かな蓄えはすぐに尽きて、村人は飢えた。
人事尽くして天命を待つ。お山の神様にどうにかしてくれないかお伺いを立てようってことで、使者を選ぶ段階になった。平たく言えば人身御供だな。
名乗りを挙げたのは例の女だった。
旦那と姑と義妹に散々いびり倒された娘は、こんな家より神の下に行く方がマシだと思ったんだろう。
分限者の家は初めて役立たずの嫁が役に立ったと喜んで娘をお山に連れて行った。
氷雨の降る夜だったとか。伊吹山なら大猪でも出そうだな。
娘が大木の下で祈りを捧げたとき、神がそれを聞き入れた。
白い雷が山へ降りて、羽衣で包むように娘を覆い隠した。それから夜通し稲妻が響き続けた。
あの頃の村人が言うには、青白い炎が森を走って、人型の影が焼き払われるのを見たらしい。冷夏をもたらした悪霊と神が戦ったんだろうって話だがな。
一晩明けて、村は嘘のように晴れ渡った。
村人が御神木に駆けつけると、娘の姿はなかった。代わりに、木の幹から手弱女の細い腕と益荒雄の太い腕が重なり合ってるような、四本の枝が生えていたそうだ。
それから、村で悪いことをすると、どんなに晴れていても雷が鳴り響いて、悪人を懲らしめるようになったらしい。
老人たちは子どもを叱るとき、「夫婦の神様が見ているぞ」ってのが常套の文句になったくらいだ。
この神の桀の字は、英傑の桀だったんじゃねえかって話だな。
どっと払いという訳で、与太話はこれで終い。
まるで見てきたように語るじゃねえかって?
まさか。又聞きだって言っただろう。
だがな、伝承ってのは簡単に捻じ曲げられちまう。嘘八百だと思った方がいいぜ。
清廉潔白な神なんざ蓋を開けてみればそんなもんさ。
まあ、俺は違うけどな。
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