序、●●●神
私は神を見てきた。
生贄を求めて鈴の音を真似る神がいた。死の瞬間を永遠に繰り返す悪夢を見せる人魚の神がいた。ひとの営みをただ見守る巨大な神がいた。ひとの営みを脅かすものと戦う蚕の神がいた。
三つの目に過去、現在、未来を映す猫の神がいた。海の底にある物を食い荒らし、空から恵みの物を降らす魚の神がいた。踊る死者の幻影を見せる神がいた。生贄にされた人間をいつまでも若く美しい状態で返す神がいた。
神に翻弄されるひとびとを見た。
母を生き返られせるため息子と娘を焼き殺した人間を。神罰に怯えて村人を殺し尽くした人間を。誰にも顧みられない神のために一生をかけて社を築いた人間を。
神に家族を奪われても思い出せない人間を。見えない神の姿を見てしまう人間を。神を利用しようとした人間を。彼らを止めるために自らを消し去った人間を。
ただ、見てきただけだ。
私には何もできなかった。
私は本と同じだ。求めて開く人間がいなければ自ら語ることはできない。書かれていることをどう使おうと止めることはできない。全てを知っていても、本そのものがそれを使う術などない。
本を焼くひとがいる。本を守るひとがいる。どちらにも善悪はない。神と同じだ。
本と同じであるならば私は何かを思うべきではなかった。
でも、本には書かれた意図がある。
あの夜、私は望まれた。全てを記録することを。そう誓い、特別調査課を作り上げた彼の意志が、私を動かしている。
彼が託された少女がいる。彼女が守ろうとしているひとびとがいる。
私は何もできない。ただ記録するだけだ。
それでも、私が彼らが本が開くよう祈り続ける。祈りは無意味ではないと知っているから。
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