序、そこに在わす神

「領怪神犯の持続可能な治安保護機関としての利用に関する草案」

 三原みはら凌子りょうこ



 ≪資料六≫領怪神犯の実験的使用例



 ・まだらの神


 某村にて確認。高さ四メートル直径一メートルの円柱と記録されていた。

 実態は巨大な座敷牢に似た形態の領怪神犯であった。

 神秘に近い存在の収容を権能とし、過去に二十四名の人間と二柱の未確認存在の収容を行ったことが明らかとなる。

 領怪神犯の収容を目的とした実用を承認、稼働済。



 ・知られずの神。

 某村山間部にて確認。※備考:新興宗教「黙しの御声」旧施設跡地に位置する。

 長らく詳細が確認できず、観察のみの処置を行なっていたが、神体を認知した人間を抹消する権能を持つことが発覚した。

 領怪神犯の隠蔽を目的とした人的措置における実用を承認、稼働済。


 尚、知られずの神に抹消された者に関する記憶は周辺人物から消えるが、その完全性は不確実である。

 対象人物が完全に抹消されないケースについて、写真、書類などの個人の記録が関係する他、対象人物が神秘に近い存在であった場合、又は領怪神犯と何らかの関係性を持っていた場合、その完全性が減少すると推測されている。

 引き続き調査中。



 ・這いずる神

 某村沿岸部にて確認。蛇頭の神。

 神秘に近い存在を認知した場合、巨大な帯状のものが這うような音を立てる。


 領怪神犯の発見を目的とした実用化を検討していたが、地中に十五キロメートルの胴体を隠し持つことが明らかとなる。這いずる音は胴体の移動に伴う音で、蛇頭部分で神秘に近い存在を捕食することが判明。また、体長が増幅させる特徴を持つ。

 実用化を断念、まだらの神により収容済。



 ・桑巣の神

 某村にて確認。白い繭型の本体と、絹糸に似た無数の触腕を持つ。

 人間に危害を加える領怪神犯や神秘に近い人物を抹消する権能を持つことが確認される。


 領怪神犯の破棄を目的とした実用を打診するものの、対策本部員、切間きるま蓮二郎れんじろう冷泉れいぜいあおい両者の強い反対により、正式な運用は未定。既に某村にて俤の神に対する実験的稼働済。



 ・件の神

 某村にて確認。人頭に牛に似た胴体を持つ。

 元は歩き巫女の一部の間で信仰されていた。その特質上、固有の場所に留まらず、神秘に近い人間の前に現れる特異性を持っていたと記録される。

 江戸後期から明治初期にかけて、某村にて歩き巫女の系譜を持つ祈祷師・烏有うゆう家が件の神を祀る形に移行した。

 未来を予知する権能を持つことが確認される。


 対策本部員、烏有 伯郎はくろうの協力の元、領怪神犯の収容を目的とした実用を承認。

 正式に稼働するものの、予知の不確実性が増加した。

 これを機に烏有家内で反対の風潮が高まり、稼働を断念。烏有家には人的措置を行った。分家の存在が確認されていたが発見できず。

 現在も収容中。


 追記:烏有の分家の末裔と思われる、烏有 定人さだひとを対策本部に招集。彼の処遇は未定。



 ・そこに在わす神

 某村にて確認。古民家の引き戸のような形状を持つ。平安から神事に携る宮木みやき家が所有する神社の扉だったと記録される。宮木家の協力の元、収容済。


 扉を通った者は外からはただ出入りしただけのように見えるが、通った者は一日間巨大なお堂のような空間で過ごした記憶を持って出てくるという特徴を持つ。それ以外の権能は不明。


 件の神が「国を揺るがすほどの変革を起こす」と予言した領怪神犯であるが、その兆候は全く見られない。



 領怪神犯は日本国の持続可能で有効な資源である。











 この資料は厳重保管の下、閲覧を禁止する。

 切間さんの言った通りだ。俺たちは何もかも間違った。

 神々は、人間の手には負えない。

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