序、火中の神
火が怖い?
ぼやにでも遭ったことがあるのかい。
そりゃ目の前でごうごう燃えてたら怖いけど、こういう夜中にぽっと灯ってると安心しないか?
普通は暗闇の方が怖いだろ。
人類が火を発明してからどんどん強くなったのは闇に勝てるようになったからさ。
闇の中にはどんなものがいるかもわかりゃしない。凶暴な獣がいるかもしれないし、仲良くしてた友だちが刃物を持って待ち構えてるかもしれない。
もっと怖いのは、見えないからって際限なく怖いものを想像させることだ。
実際見てみたら何だこんなものかってこともよくある話だよ。
この村の森は深いからみんなよくないものを想像したんだろうなあ。
だから、明るい太陽に守ってもらおうって思ったんだ。
ほら、お囃子が聞こえる。
みんなして松明を持って神社の方へ登っていくだろう。
うちの村は太陽の神様を祀ってるところだから、今日みたいな祭りの夜はずっと明るくしておくんだ。そうしたら、まだ昼間なら太陽が出て行かなきゃって勘違いした神様に下りてきてもらうんだ。
その火が怖いか。何だか悪霊みたいだな。嘘、嘘、冗談だよ。
でも、そうだな。ああして神社で火を焚いてるときは怖いと思った方がいいのかもしれないな。
うちの神社は大きいだろう。それで、その周りに小さい祠や社がたくさんある。
何でかわかるかい。
昔、ここらじゃ小さな恐ろしくて悪いもんをしょうがなく神様として祀ってたのさ。
でも、祀ってやったのに変わらず悪さを続けるもんだから、いよいよ立ちいかなくなった。
それで、遠くからわざわざでかい神様を呼んで、みんな退治してもらおうって考えたんだ。
だから、太陽の神様が帰ってしまう夜中は、抑えてた悪いもんがうようよ出歩く。
大きくて眩しいもんの陰には必ず、小さくて悪いもんが、たくさん集まってんだ。
怖がらそうとしてるんじゃない。
昔の話だよ。
それに、この村には夜でもずっと太陽があるんだ。
見たことあるかい?
森の奥が光ってるのを。
そう、ぼんやり篝火を焚いてるみたいに森全体が赤く輝いていることがあるだろ。
太陽じゃない、炎だな。
太陽は照らすだけだろ。どんなに暑くても焼け死んだりなんかはしない。
でも、炎は違う。
小さな恐ろしくて悪いもんを全部まとめて焼いてくれるんだ。
今周りにある祠やお社はもう形だけみたいなもんだよ。
あの森の奥の炎が悪さをしないようにずっと燃やしてるんだ。
その、小さな恐ろしくて悪いもんはどんなものだったかって?
さあ……、もう忘れたよ。今頃、炭になって誰が見たって元が何だかわからないさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます