衛星的音楽系番組『スペースアグノーシア』
常闇の霊夜
流星ギター『エレメンタル』
「はー……いい楽器ねぇなぁ……」
空のギターケースを背負いながらそう喋るバンド志願の高校生『
「いやキミ買った端から壊していくじゃん、そりゃ身に付かないよギターも」
「うるせぇ!俺の天才的ギターコンディションについてこれない楽器が悪いんだよ!」
この羅理と言う男、ギターを買っては毎回求めた音じゃねぇ!とぶっ壊しているバカなのである。しかもエレキギターは絶対に認めないというもうこだわりが強すぎてヤバい奴なのである。
「……もうエレキギターでも買いなよ……」
「そんなんじゃねぇんだよ!要するになんていうんだろうな……こう!こう凄いギターがいいんだよ!」
「何にも分からないね」
呆れた表情で二人が楽器について討論していると、羅理は空き地に謎の物質を発見する。
「っと!?アレは何だ!?」
「えっアレはって何!?」
思わず近寄ってみると、それはギターの上の部分であることが分かる。しかしギターにしてはかなり奇妙な形であると困惑する羅理。なおラムはそれ以上に困惑しているようであった。
「ギターが空き地にぶっ刺さってんだけど?!」
「えぇ……こんなことある……?」
「よし引っこ抜いてみるか」
押すなと言われたボタンは押すタイプの羅理、そのギターを即座に引き抜く構えに入る。大根を引き抜くかのように飛び出て来たギターは、羅理の手に非常にしっくりくるものであった。
「おぉ……おぉぉ!これだ!これだわ!」
「いやそんなことあるかい!?第一地面に埋められてたギターは音が出るのかい!?」
「まぁ鳴らすに限るだろ……行くぞ!」
チューンアップ無しでも魂に響くほどの音量、そして鳴らせば鳴らす程魂の鼓動が威力を増してくのを感じる。羅理は瞬間的に理解する。このギターは俺に弾かれるためにここに来たのであろうという事を。
「ふー……」
「泣くほど!?」
「これが俺の魂だ……」
「そんなことあるの……?」
とまぁそんな二人が余韻を感じていると、二人の目の前にいきなり人影が落ちてくる。何事だと二人は身構え次の出方をうかがう。するとその人影はおもむろにギターを取り出してくる。
「なっ……なんだ!?」
「ここに落ちてきていたか『
「何それ……?」
なんのこっちゃさっぱりな二人、聞き返そうとするが人影がギターを構えたことで羅理もまたギターを構える。ラムはこの状況についてこれない様子であった。
「当然ギターを持つ二人が出会ったという事はこうする以外の選択肢はないだろ!」
「そうだな誰だか知らん奴!おいラム、ドラム出せ」
「えー……?まぁいいけど」
「ちょっと待て、そっちの兄ちゃんはドラム出せねぇだろ出せて精々スネアくらい……」
と、人影がそう言うとラムは手のひらサイズの箱を取り出す。そしてそれを地面に置きボタンを押すと、その箱はドラムへと変化してく。まるで質量保存の法則を無視しているその光景に困惑する人影。
「……えぇ?」
「こいつの実家は音楽関係の会社の社長でな、少なくとも国内シェア率は90%を超えている。今はどこでも音楽セットって感じの試作品を作ってるんだと。それがこれ」
「……何それ……?」
何はともかく舞台は整った。両者はどちらか始める訳でもなく、楽器をかき鳴らし始める。最初こそ音楽と言えるようなモノではなかったが、次第に二人の音は重なり、次第に音楽と言う物が生まれていく。それに対抗するように人影もまた、一人音楽を奏でていく。
「すげぇ……」
彼らの周りには人影が増えてきていた。中には涙を流す程感動している者もおり、この音楽の戦いがどれほどの物かを示していた。しばらく音楽を奏で続けた後、人影は一人ギターを下ろす。
「……負けたよ」
「そうか!」
〆の一音を鳴らし終え、二人は楽器を下ろす。人影は自らの敗北を認めると、そのまま帰っていった。羅理とラムの二人は表情をほころばせ互いの音楽をほめたたえるのであった。
「さて。これからセッションと行くか?」
「あぁ、そうだな……ん?」
「なんだってなんだぁ!?」
二人が再び楽器を握ろうとした瞬間、彼らの頭上に巨大な宇宙船が突如として出現する。何事だと慌てる観客達、そして宇宙船は二人の頭上にとどまると、そこから誰かが降りて来た。
「あぁ、気にしないでくれ。俺の名前は『ギンガ』、『大アンドロメダ星雲宇宙警察所属、ブラックホール課のギンガ』だ。
「大……何?」
突如として現れたのは青い肌から星々が見えるという奇妙な青年、その名もギンガ。ギンガは二人が今どういう事に巻き込まれたのかという事を説明してくれる。
「とりあえず重要なことを言っておこうか……君が持っているそのギター、それは年に一度、宇宙中の音楽家たちが集まり巨大なフェスを開催するのだが……それは参戦チケットのような物だ。君は選ばれた……ということだ」
「成程そう言う事か」
「いやどういうこと!?まず宇宙でそんなことが行われているのか!?」
「まぁ年に一度と言っても千年単位だが」
「それは年に一度じゃないんじゃないのか?」
「まぁそんなこと言うなよ!そんな凄い所に俺らが選ばれたんだぜ!?」
「待って、じゃあなんで警察が来るの?」
ごもっともな疑問である。それに関して、ギンガは少し目を伏せながらどういうことか説明してくれた。
「簡単に言えば……そこでトップに入れなかった宇宙は消滅する」
「急に規模がヤバイ!」
「えっじゃあ俺らに宇宙の存在がかかってるって事……!?」
「そう言う事だ。俺は個人的にこの地球が好きなので君たちに協力しよう」
「マジ?お前何できる?」
「ベースが出来る」
そう言うと宇宙船からベースが降りてくる。そして三人は何を言うでもなくセッションを始める。始めこそ不協和音になりかけていたものの、すぐにラムが合わせギンガはギターを支える。歌詞も歌も存在しない曲、否。譜面も存在しないその曲は魂を揺さぶるかの如く響き渡った。
「スー……」
そして打ち合わせをしておらずとも、終わらせる瞬間すらもピタリと合った。まさしく完璧と言える程の演奏である。すると観客の中から銀色の髪をした少女が歩いてくる。
「どうしたお嬢ちゃん」
「私、月」
「え?」
「どういうことか解説してギンガ」
「待て待て……うーんお前月人だな?」
「月人……?」
ギンガ曰く、彼女は元々月にいた存在であるらしい。色々あって地球に落ちてきてしまい、それ以降は地球でグダグダと生きて来たというのだ。だがそんな彼女は何やら決意を固めた様子で話しかけて来たのである。
「私も、混ざる」
「おぉいいぞ!で、楽器は……」
「無理。歌う」
「だと。行けるよな?」
「当然!」
本日四度目の演奏。即興曲だが一度セッションしているためかすぐに合わせる事が出来る三人。そしてその音楽に合わせるように、優しいコーラスが響く。曲とも歌詞ともとれるその声は、人々を魅了するに有り余る程度の良さを誇っていた。
その場にいる者全てが息を吞む程の演奏。それはまさしく宇宙レベルと言うべき存在であった。そして三分間にわたる永遠にも感じられる演奏が終わり、一分ほどの静寂の後に大歓声が幕を上げる。
「はー……これ宇宙救えるわ」
「自意識が凄い!でも……確かにそれは言えてるかも」
「私達、最高」
「だろぉ?あっギンガ、そう言えばそのフェスっていつ行われるんだ?」
「うん、明日」
明日と言われた瞬間噴き出す二人。月は特に何とも思っていないのか羅理の隣で同じような表情をしている。
「明日ぁ?!」
「ちょっと待って学校があるんだけど」
「いやそこじゃねぇだろ!楽曲作って譜面書いて……」
「……それ、いる?」
思わず顔を見合わせる羅理と月。仮に楽曲も譜面も無いとなると先ほどのようになるが、それは確かに良いのかもしれない。だが仮にも宇宙がかかっているのだ、完璧に仕上げようと思うのが羅理の考え。
「いるな、絶対にいる」
「ふーん……」
「ま、詳しい事は俺の宇宙船の中で話そう!」
そう言うと四人はギンガの宇宙船へと乗り込む。中は案外普通の部屋であった。
「結構普通の部屋なんだな……」
「まぁね。さて……それじゃ、とにかく一回フェスが開催される場所に行こうか!」
「ま、そうするしかねぇな……よし!頼んだぞ!」
「はぁ……とんでもないことに巻き込まれちゃったな」
「でも、楽しい」
「それはそうだね。僕自身もこういうの望んでたのかもね……あぁ羅理、それ何?」
そして一行を連れた宇宙船はフェチへと飛び立っていくのであった……
次回!
『俺らの音楽に酔いな……』
「あれが俺達が戦うグループか……!」
「……液体種族?」
『
衛星的音楽系番組『スペースアグノーシア』 常闇の霊夜 @kakinatireiya
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