Special content“PureHeart”

桜蓮

第1話エピソード1

◆◆◆◆◆


繁華街のメインストリート。

そこから無数に伸びる細い路地。

その1本の路地を奥に進むと、路地裏に繋がっており、そこには大きなクラブがある。

このクラブはストリートギャングチーム“B-BRAND”の溜まり場。


陽が沈むと、どこからともなく目付きが鋭く、独特の雰囲気を纏った男達がこの場所に続々と集まってくる。

彼らはB-BRANDのメンバーだ。

B-BRANDのメンバーにとって溜まり場は家に等しい場所だった。

だから夜だけじゃなくて昼間でも四六時中このクラブには誰かしらいる。


このクラブは、元クラブとして営業していた建物を使用しているわけじゃない。

現在も夜になると一般客を入れて営業している。

このクラブを来れば、B-BRANDのメンバーに会うことができる。

それが付加価値となって多くの女性客が訪れる。

女性客が集まれば、必然的に男性客も増える。

その結果、このクラブはこの界隈でいちばんの集客力を誇る店舗となっていた。


そのクラブのVIPルームは、特定の人間しか利用できない。

そこで女子会を開いていたのは、葵と美桜とアユと萌の4人だった。

今回の女子会の発案者は葵。

そして、すでに女子会は始まっていた。


◇◇◇◇◇


急にみんなで女子トークがしたくなって、女子会をしようと思い立ったのは、昨日の夜のことだった。

すぐにみんなに連絡を取って、都合を確認したらちょうど週末だからってことでみんなが快くOKをしてくれた。

だから私はすぐにケンに連絡をしてみた。


『葵、どうした?』

ケンは開口一番そう言った。

私が電話をしたら、、ケンは必ずこの言葉を口にする。

それはもう癖みたいなものだと私は思っている。

だから特に何も気にせず、私は用件を伝えることにした。

「あのね。明日の夜なんだけど」

『あぁ』

「ちょっと女子会を開催しようと思ってるんだよね」

『女子会?』

「うん、そう」

『メンバーは?』

「美桜アユちゃんと萌ちゃんと私なんだけど」

女子会のメンバーを伝えるとケンは、

『いつものメンバーだな』

笑いながらそう言った。

ケンがそう言うのも無理はない。

最近、私達がなにかをするって言ったらほぼ必ずこのメンバーなんだから。

元々、アユちゃんと私は仲が良くて、よく一緒に行動していた。

学校も一緒だし、チームのイベントでも顔をよく会わせていたから。

そこに蓮くんと付き合い始めた美桜ちゃんが加わって私達は3人で行動するようになった。

そして最近トーマと付き合い始めた萌ちゃんも加わり、私達は自然と4人で一緒にいることが多くなった。

この4人でご飯も食べに行くし、ショッピングや映画やカラオケにも行く。

会わない時だって、連絡は結構こまめに取っている。

メッセージアプリも4人でグループを作るぐらい、私達は仲良くなっていた。

「うん。なんか久しぶりに4人でガッツリ喋りたくなったんだよね」

『久しぶりにって、毎日電話で話してるだろ?』

「いやいや、電話で話すのと直接会って話すのは、全然違うから」

私が力説すると

『そうなのか』

「うん」

『葵がそう言うなら、そうなんだろうな』

ケンはそう言ってやっぱり笑っていた。


ケンはよく笑う。

なにがそんなに楽しいんだろうと思うぐらいにいつも笑っている。

……きっとケンはどんな些細なことでも存分に楽しめる人なんだろうな。

私がそんなことを改めて感じていると

『場所は?』

ケンがそう聞いてきた。

「女子会の?」

『あぁ』

「場所とかはまだ決めてないんだよね」

『そうなのか?』

「うん、今のところみんな参加できるってことしか決まってないの」

『それなら、ウチの溜まり場のVIPルームを使えばいいじゃん』

ケンの提案に

「えっ⁉」

私はビックリした。


だって――……。


『どうした?』

「女子会って明日の夜だって、私さっき言ったよね?」

『あぁ、聞いたけど。それがどうかしたのか?』

「週末にVIPルームの予約が入ってないってことはないよね?」

『……まぁ、入ってるかもしれねぇけどキャンセルしてもらえばなにも問題なくね』

ケンはサラリとそう言い放った。

「ケン」

『ん?』

「……それは普通に問題があると思う」

『そうか?』

「そうだよ。私、この前聞いたんだけどあのVIPルームって一般のお客さんが使うってなったら何万円もするんでしょ⁉」

私はずっと知らなかったんだけど、この前アユちゃんと萌ちゃんに聞いてマジでビックリした。

基本的にVIPルームは予約制らしくて、予約が完了したら使用料と言うものが発生するらしい。

使用料は1時間いくらって時間で計算するらしいんだけど、その金額を聞いて私は卒倒するかと思った。

平日の使用料を聞いただけでもびっくりしたけど、週末とか休み前とか連休中ってなるとその金額がまた跳ね上がるらしくて、今まで何も知らずにVIPルームを使っていた私は怖くなってしまった。


『心配しなくてもお前らから金を取ろうなんて思ってねぇよ』

「いや、そういう問題じゃなくて」

『じゃあ、どういう問題なんだよ?』

ケンは不思議そうに聞いてくる。

「私達に使わせるよりも、予約してくれているお客さんに使ってもらったほうが売り上げになるでしょ?」

ケン達が溜まり場として使っているクラブは普通に店舗として営業している。

あのクラブのオーナーは、蓮くんの組で、一応ケンが責任者兼経営者ってことになっている。

ケン曰く、『まっ、雇われ店長みたいなもんだな』らしい。

店舗の売り上げは家賃やスタッフのお給料やお酒類の仕入れとかに充てる他、B-BRANDの活動資金の一部にもなっているらしい。

その辺の詳しいことはよく分からないけど、売り上げは少しでも多い方がいいってことは私にだって分かる。

だから私はそう言ったんだけど

『別にVIPルームの使用料がなくても、目標売上には十分到達するから大丈夫だって』

そう言われてしまったら

「そうなんだ」

私はそれ以上なにも言えなかった。


『てか、俺は売上よりも葵のことの方が心配なんだけどな』

「えっ? 私?」

『あぁ、できれば女子会は俺の目が届くところでやってくれたら助かるんだけど』

「それってVIPルームで女子会をして欲しいってこと?」

『あぁ、できればそうしてくれると俺が安心できる』

こんな言い方をされてしまったら

「……分かった。明日の夜、VIPルームで女子会をさせていただきます」

私はこう言うしかなかった。

『ご予約ありがとうございます。それでは明日、スタッフ一同お待ちしております』

ケンの妙に丁寧なこの言葉で女子会の場所が決定となった。


そして、今に至る。

「なんか、急に誘ったけどみんな集まれて良かった」

私が言うと

「わたしはいつでもヒマなんで誘ってもらえて嬉しいです」

萌ちゃんは嬉しくて堪らないといった感じで身を乗り出してきた。


「萌ちゃんはそんなにヒマじゃないでしょ?」

アユちゃんがすかさず笑いながら突っ込む。

萌ちゃんはトーマと半同棲してて、本人曰く『毎日、主婦みたいな生活を送っているんですよね』らしい。

だから学生の私達よりは明らかに忙しいはずで、アユちゃんもそれを知っているから突っ込んだのだ。


「そんなことないですよ。毎日ヒマすぎて溶けそうになってますよ」

萌ちゃんが笑いながら言うと、

「えっ? 萌ちゃんってヒマだと溶けちゃうの?」

美桜ちゃんが驚いたように尋ねる。

美桜ちゃんの質問に、萌ちゃんは驚いたように目を見開き私とアユちゃんは吹き出した。

私とアユちゃんは、美桜ちゃんのこの質問が真剣なものじゃないって気付いているけど、萌ちゃんはまだ気づいていないらしい。

その証拠に

「いや、美桜さん。本当に溶けちゃうわけじゃなくてですね……こういうのってどう説明すればいいんですかね?」

萌ちゃんはアユちゃんと私に助けを求めてきた。


萌ちゃんを助けたいって気持ちは私もあったんだけど、すっかり笑いのツボに嵌ってしまい声が出せない状態だった私の代わりに、請け負ってくれた。

「美桜ちゃん、萌ちゃんが言ってるのはあくまで例えだから」

「例えなんだ」

「うん、そう。てか美桜ちゃん、最初から分かってたよね?」

「やっぱり、バレてた? 女子会が嬉しくて、ついテンションが上がっちゃって」

美桜ちゃんは楽しそうにクスクスと笑う。

「だよね。美桜ちゃんの冗談だよね?」

「うん。ちょっと調子に乗っちゃった」

「あぁ……冗談なんですね。すみません、本気だと思っていました」

萌ちゃんは状況が飲み込めたらしく、安堵の表情を浮かべる。


「美桜ちゃんって演技はだから騙されるよね」

私がそう言うと

「はい、ガッツリ騙されてました」

萌ちゃんは力強く頷いて同意してくれる。


「でも良かったね、萌ちゃん。トーマへの報告のネタができて」

私はあまり深く考えずにそう言ってしまった。


すると――

「トーマへの報告のネタ?」

アユちゃんと美桜ちゃんが不思議そうに首を傾げた。


「トーマって意外に束縛するんだって」

「えっ? 束縛? あのトーマが?」

ここでようやく私は気が付いた。

これは私がここで言ってはいけなかったんじゃないだろうかって……。


「……あっ、萌ちゃん今更なんだけど、これって言っても大丈夫だった?」

「えぇ、全然大丈夫です。なにも問題はありません」

「本当に? あとでトーマから怒られたりしない?」

「大丈夫ですって。この女子会に話題を提供できるなら、トーマに怒られてもなんともありませんから。それにここで話したってバレてもトーマはきっとなにも言えないでしょうし」

「そ……そっか。じゃあ、とりあえずこの話はここだけの話ってことにしようね」

私が言うと

「うん」

美桜ちゃんとアユちゃんはコクコクと頷いた。


Special content“PureHeart”1【完結】



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