塵芥

@fuuraineko

第1話

【障害者監護法施行】

 1900年、日本政府は障害者が生まれた家庭に座敷牢を作らせ障害者を家族に監視させることを義務付ける法律を施行。

 しかし、実際には家族が障害者を座敷牢に閉じ込めることはなく、家の中で自由に生活させていたことが問題になり、政府は高頻度で警官を該当の家に監視に向かわせることを決定。

 違反した家庭は障害者本人も含め、家族全員の右手を切り落とす罰則が追加された。

【地方自治法施行】

 1947年、治安維持も含めた地域の自治を地方公共団体が担うものとする法律を施行。

 この法律により軍備の導入、配備も地方公共団体が担うことになり地方公務員に強い権限が認められることとなった。

【優生保護法施行】

 1948年、総理大臣・山本良吉(やまもとりょうきち)の演説による「不良な遺伝子を排除することこそが国力の強化に繋がる。」という思想を実現する法律を施行。

それに伴い、優生看護隊(政府の意にそぐわぬ人々の生殖機能を破壊することを認められた武装警官)が日本各地に配備された。

 優生看護隊の主な任務は、精神障害者、知的障害者、身体障害者とその家族の生殖器(男性は精巣、女性は子宮)を物理的に破壊するというものであり、その手段は高熱を発する特殊警棒で生殖器を周囲の組織ごと焼き払うというものであった(政府はこの処理による対象者の生死に関して一切関知しない)。

 無論、こうした非人道的な政府の所業に国民は非難の声を挙げたが、そうした人々さえも「政府の意向に逆らう劣った種」として優生看護隊による処理の対象になり、やがて人々は政府に対して非難の声を挙げるのを辞めていった。

【国家学力把握法施行】

 1955年、政府は国民の質の向上を目指し、隠れている劣った種を炙り出すための法律を施行。

 その方法は17歳になった全ての国民に学力検査を行わせ知能指数が70未満の者を知的障害者とするものであった。また、この法律には都道府県単位で平均学力の優劣を明確にすることで競合させるものでもあった。

 更に国家学力把握法により算出された都道府県別学力等級により、47の都道府県は更に10の等級(い、ろ、は、に、ほ、へ、と、ち、り、ぬ)に分けられた。その等級により特別学力交付金が各々の都道府県に支給されることとなった。

【全国知事会】

 1956年度も秋田県は都道府県別学力等級で最上級の位置にいた。宮城県知事・間村小平(まむらしょうへい)は隣に座る秋田県知事に話しかけた。

「秋田県さんは二年連続で最上級をもらっていてうらやましいですな。」

 秋田県知事は

「いやいや、学力が全てではありませんよ。宮城県さんは学力以外のところ(米、農作物、水産物など)で上位ではありませんか。」

と笑いながら返した。

 それは大人の馴れ合いのはずだった。

 しかし、間村は声を荒げた。

「オメー!オリが“り級”だがらってバガにしてんだべ!(貴様!俺の宮城県が“り級”だからバカにするつもりか!)」

 秋田県知事にバカにされたと思った間村は大袈裟な音を立てながら全国知事会を途中で放棄していった。

 嫌味を言ったつもりなどなかった秋田県知事は、突然方言でまくしたてられあっけに取られていた。

【愛の十万県民運動条例施行】

 1957年、宮城県は県民の質の向上のため、障害者監護法や優生保護法を発展させた愛の十万県民運動条例を施行。

 その内容は、劣った種に遺伝子を残させないだけではなく、特定の地域に障害者やその親族、そして犯罪者とその親族を閉じ込めるというものであり、更に県民を三つ階層に分けて生活を分断することにしたのである。

※愛の十万県民運動条例による階層

・知事(ちじ)…宮城県における支配者であり、間村小平のこと。

・公僕(こうぼく)…知事のために最下層(塵芥)の人々を管理し計画通りの労働を強いる者のこと。

・塵芥(ちりあくた)…障害者とその親族、犯罪者とその親族、反政府主義者とその親族のこと。県のために様々な強制労働を強いられており、決められた居住地から抜け出すことは許されず、脱走が見付かれば本人だけではなく親族も右手を切り落されることになっている。

【欧米との対立】

 1962年、塵芥という非人道的な政策は世界中から非難の的になっていた。

 特に大戦を経て日本が親密な関係を築いてきたアメリカを含む欧米諸国からは「塵芥という政策は人権侵害である。」と猛烈な批判を受けていた。

 そこで、日本政府は宮城県に対し「塵芥集落の人々を開放せよ。」と要請したが、間村は地方自治法を根拠に日本政府の介入を拒否。更に宮城県は欧米諸国への反抗のため、中国やロシアから銃火器や起動兵器を搬入したのである。

【起動兵器】

 全高4m、ロケットカウルを後部まで延長し搭乗者の全身を囲うような形状のバイクに手足を付けたような車輛。搭載されているマニュピレーターは器用であり重火器を扱うことができ、且つ反動の大きい銃火器を発射してもブレが少ないという特徴を持っている。

 宮城県に搬入された起動兵器は、中国のジャオレンとロシアのカドンキがある。

【宮城県監査告示】

 1973年、宮城県は海外から入手した起動兵器を基に開発した新型起動兵器・間村一型を完成させていた。間村一型はマニュピレーターがオミットされた代わりに両腕の先端に銃火器が装備され、装甲を複層構造に変更しており、それは治安維持という目的を超えた殺戮機械であった。

 間村一型の最初の一機は塵芥集落近くの警察署に配備された。それは塵芥集落からの脱走を監視する名目で先行配備されたものであった。

 日々の巡回に警官・亀山は辟易していた。

「こんな機械に乗ってんだ一発二発撃ってみてぇな。」

 そんな独り言を呟いた亀山の目に映ったのは塵芥の男児だった。

 塵芥集落の境界線の中にいた男児に亀山は声をかけた。

「ガキ!こっちに来い!」

 男児は恐怖で硬直している。

「こっちに来ねぇとぶっとばすぞ!」

 男児は境界線を越えた。

 亀山は男児に向かって発砲。

 亀山は一、二発撃って男児を驚かせるつもりがトリガーを強く引いたため連射モードに切り替わり、弾丸が雨のように男児に降り注いでいった。

 凄まじい銃撃音に周囲の音が奪われる。

 銃撃が止んだ時、男児の体は片足首しか残っていなかった。

 静寂を挟み一部始終を見ていた塵芥の大人たちが間村一型に石を投げつけ、棒切れを手に詰め寄ったが銃撃音を聞きつけて集まった警官隊に彼らは拘束される。

 この一件により処分された塵芥集落の人々の数が前例がないほど多く出たため宮城県議会は亀山から聞き取りを行い、その結果「塵芥の大規模な脱走を阻止した」として亀山は署長への昇進が決まった。

【塵芥の起動兵器】

 1984年、宮城県は起動兵器の量産が進み、更に中国やロシアからの銃火器の提供もあり、独立国家のような振る舞いを強化していた。

 宮城県では、汚れ仕事は塵芥に押し付けられてた。機動兵器の量産作業も例外ではなく、公僕の監視下で塵芥が行っていた。

 強制労働をさせられている塵芥の人々は起動兵器の部品を少しづつ盗んでいった。

 そして塵芥の起動兵器・勇気号が完成したのであった。

 勇気号の装甲は紙のように薄く、撃ち合いには耐えられないだろう。

 しかし、装甲の薄さこそが勇気号の特徴なのである。

 薄い装甲は機体の軽量化に繋がっているのである。

 間村一型は重装甲ではあるが反面機動性が劣る。対象が急激に動いた場合に対応するのに手間がかかるのである。更に重装甲が故に一度バランスを崩すそうものなら目も当てられないのである。

 塵芥の人々の思惑通りなら勇気号は間村一号に勝てる算段は十分であった。

【転機】

 ロシアの高官が宮城県を訪問するという噂が流れた。

 宮城県にとってはロシア製の兵器を手に入れる絶好の機会であると同時に間村一型の性能を披露できる機会でもあった。そのため、失敗は許されず県内各地に配備されている間村一型を最大まで宮城県庁に集結させることが容易に想像できた。その日こそ塵芥の人々が反撃の狼煙を挙げるには吉日であった。

「勇太、明日だな。」

 右手がなく、顔がオイルで黒くなった男が別な男に声をかける。

「みんな本当に良いのか?」

 男が答える。

「あの時、俺達は勇気君を守ってあげられなかった。仇くらいは打ってあげないとな。」

 別のオイルまみれの男も答える。その男の右手もない。

 彼らは11年前に警官・亀山が男児を戯れで殺害した事件で警察に抗議を行い、右手を切り落とされた人々と男児の父親であった。この事件で男児の体は片足首しか残っていなかったため警察は身元確認を放棄した。そのため父親は処分の対象から外れていた。

「俺達も勇太が亀山を倒せるように手伝うぜ。」

「みんな悪いな。」

 男たちは互いが二度と会えないと分かっていながら勇気号の前で勝利を誓った。

 日が明ける。

 ロシアの高官が訪れる宮城県庁と亀山の警察署は60km程離れていた。

 報告では亀山の警察署からも間村一型が搬出されたのが確認されている。

 警察署が手薄になった今が反撃の時である。

 塵芥集落の複数の地点で境界線を越える人々が同時に発生した。

 これを鎮圧するために警官隊が出動したが、塵芥の人々は密かに集めていた、中国製やロシア製の銃火器で抵抗した。思わぬ戦力の保持に警官隊は後手に回っていた。

 そうした中である建物の屋根が音を立てて崩れ、中から勇気号が現れた。

「勇気。お父さんに力を貸してくれ。」

 複数の地点で同時に警官隊の気をそらすことに成功したため、勇気号と武装した人々は難なく警察署に辿り着くことができた。

「何もしていない警官を殺して良いのか?」

 勇太に一瞬戸惑いが湧いた。

 しかし、仲間たちが突進していく姿を見て勇太は自らの憎しみの炎を再燃させた。

勇気号の拳が当たった警官は昆虫標本のように壁に貼り付けられ、勇気号の脚で踏まれた警官は床の赤いシミになった。更に勇気号の携行火器はミシンのように弾痕という糸を人も建物も関係なく縫い繋いでいった。

 署長室で女性警官と性行為を行っていた亀山だったが激しい銃撃音を聞きつけズボンも履かずに逃げ出した。途中で塵芥の人々に見付かり何度も銃撃を受けたが性行為の相手だった女性警官を盾にすることで自身は無事に間村一型が格納されている倉庫に逃げ込むことができたのであった。

「塵芥がなめんなよ。」

 亀山の間村一型が標的も定めず銃撃を開始した。

 倉庫の天井、壁、塵芥の人々、無差別な射撃とはこのことであろう。

「野郎!起動兵器を一機残していたのか!」

 塵芥の人々の銃弾が間村一型に命中するが複層構造の装甲が亀山を守っていた。

 亀山の射撃は塵芥の人々を挽き肉にしていく。

 そこに追いついた勇気号の射撃も亀山を捉える。

 亀山の間村一型の複層構造の装甲を弾丸が撃ち抜き始めた。

 亀山は焦る。

 焦った亀山は11年前と同じようにトリガーを強く引き絞った。

 出鱈目な射撃を続ける亀山に誰も近付けなくなっていた。

 近付けないのは勇気号も同じであった。

 亀山の弾丸がパトカーを撃ち抜き爆発が起こる。

 爆風で倉庫の瓦礫が亀山に降り注ぐ、亀山の間村一型はバランスを崩し倒れる。

 これは好機であったが勇気号も爆発に巻き込まれ携行武器ごと片手を失っていた。

「勇気。今から悪い奴をやっつけるからな。」

 立ち上がった勇気号は、直ぐ様飛び上がり左手を亀山の間村一型に突き刺す。

 風防が破れ露わになる亀山。

 勇太は腰に付けていた金槌を手に亀山に詰め寄り、一発二発と殴打していった。

「やめろ!塵芥が!俺に何の恨みがあるんだ!」

 亀山が両手で頭を覆いながら怒鳴る。

「お前が俺の勇気を殺したんだろうが!」

 勇太の金槌は亀山の指を粉砕し、頭部を陥没させていった。

 勇太は亀山の下半身に気付く。

 勇太の金槌が亀山の股間を潰す。

 亀山の悲鳴がより甲高いものになる。

 しかし、勇太にそんなことは関係なかった。

 勇太がやるべきことは亀山を殺すことだけだった。

 亀山は動かなくなった。

 勇太は金槌が頭に刺さった亀山を眼下に呆然としていた。

 乾いた音が響いた。

 放たれた弾丸が勇太の心臓を仕留めていた。

 他署の警官隊であった。

 程無くして塵芥の騒乱は収まる。

 今回の件に関わった全ての者と親族を処刑するという収束であった。

 こうした一連の出来事は世界中が知ることとなり、各国から人権保護団体が宮城県に潜入を始めるきっかけとなった。

【公僕】

 私は食料加工場で塵芥を管理する公僕です。

 塵芥の人達が作業を失敗しても強く言えません。

 また、同僚たちは塵芥の人達を虐待をしていますが上司にそれを報告する勇気もありません。

 私は平和に暮らしたいのです。

 しかし、明日は知事が工場を視察に来るらしいので憂鬱です。

 知事が視察に来る日の朝、私は緊張でえずいています。

 私は工場に来た知事に上司が設備の説明をしているのを後ろで見ていました。

 知事は作業をしている塵芥の女性に後ろから近付き胸を揉みしだきました。

驚いた女性は知事の手を振り払ったのですが知事はそれが気に入らないと彼女を杖で殴りつけました。

 女性が動かなくなっても知事は殴るのをやめませんでした。

「も、もう殴るのを辞めませんか?」

 自分でもどうしてそんなことを言ったのかわかりませんが、知事の行動を批判してしまいました。

 知事の怒りの矛先は私になり杖が私に飛んできました。

 更に知事はお付きの人に何かを命じました。

 間もなく、知事のお付きの人が私を羽交い絞めにし、知事は懐から出した拳銃で私の右手首を撃ち抜いたのです。

 痛みに襲われている私を知事のお付きの人は施設外に引きずり出し、そのまま塵芥集落入り口まで引きずると「今日からお前も塵芥だ」と言い残し去っていってしまいました。

 何時間経ったのでしょうか。

真っ暗になり痛みと寒さで気が遠くなってきました。

 何処からか出て来た人達が私を担ぎ上げ、何処かの地下のベットに運び、私の耳元で何かを話していましたが上手く聞き取ることが出来ず、ぼんやりしていたところ口に布切れを入れられ、次の瞬間右手首に強い衝撃が走り、私のボロボロの右手は切り落とされていました。その後、何かが焦げる臭いが充満したところで私の意識は途切れてしまいました。

 痛みと高熱に何度も「死にたい。」と思いながら死ぬことが出来ずに1か月ほど経った頃でしょうか。私は自分の置かれた状況を理解し始めていました。

 私を治療してくれたのは、英語圏から宮城県に潜入した人権保護団体の人達でした。

 彼らだけではなく岩手県沖や福島県沖には、各国の人権保護団体の船が何隻も停泊しているということでした。

 そして、私は義手を付けてもらえるそうで今晩にでも岩手県沖の船に移送されることになりました。

船で治療を受けるようになってから暫くして、私はリハビリに良いと船内を歩くことを許されたので船内を見て回りました。

食堂、シャワールーム、医務室、自動車整備工場のような部屋…

自動車整備工場のような部屋には、宮城県では見たことがない起動兵器が三機並んでいました。

たぶん、宮城県を攻撃するモノなのでしょう。

高さは3m程でしょうか。鉄板で覆われたクレーン車の運転席のようなものから四本の脚が生えていて脚の先には太いタイヤが付いていました。運転席からは腕が二本生えていてカニのようでした。

その重々しい見た目にあっけに取られていると後ろから声が聞こえてきました。

「それはクラブ(Crab)という名前です。」

振り向くと軍服のような緑色の服を着たサンタクロースのような男性が立っていました。

「体調はどうですか?…あなた名前は?」

と軍服サンタが私に問いかけて来たのですが私はバツが悪くなり

「私も塵芥です。」

と返したのですが軍服サンタは

「アクタさんね。」

と勝手に納得してしまいました。

私は

「日本語がお上手ですね。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

と軍服サンタに問い返すと

「私は現代のリンカーンですよ。」

と自称リンカーンはサンタクロースのように笑っていました。

少し経ってからわかったのですが、この自称リンカーンはこの船の船長でした。

【搭乗員】

 私は自動車整備工場のような部屋で見た起動兵器が気になっていました。

 ある時リンカーン船長に

「私もクラブに乗せてください。」

と頼んだのですが

「ダメです。」

と断られてしまい肩を落としていると

「クラブはダメだけどハンガーに昔のがありましたら練習していいです。」

という片言の日本語の返事が返ってきました。

 ハンガーにいた作業服の中年男性に話しかけることにしました。

「Crab please.(クラブをください。)」

 私は作業服の中年男性に拳骨をもらい頭を抱えていると私と同じ背丈の日系人が近付いてきて

「どうした?」

と助け船を出してくれました。

 男性は中国系でマーチンという名前のようです。

 私はマーチンにリンカーン船長と話したことを伝え、作業服の中年男性にもそのことを伝えてもらいました。

 マーチンはクラブの搭乗者を紹介すると言い、私を引っ張っていきました。

クラブの搭乗者は、マーチン、長身イギリス系ルーサー、筋骨隆々アフリカ系キングの三人でした。

 マーチンは日本語が話せ、親切ですがお節介でした。

 ルーサーは日本語が話せないようで上手く意思疎通が出来ていません。

 キングは片言ですが日本語で陽気に話しかけてくれます。でも、やたら私の肩辺りを指で突っついてくるのは辞めて欲しいです。


【恥】

 私の義手が出来ました。

 親指、人差し指、中指の三本指です。

 そして掌にソケットがあります。

 これはドクターとハンガーの整備員がやり取りをしてくれて実現した義手でした。

 私はクラブの搭乗者にはなれませんでしたが、クラブのパーツや車輛のパーツなどを組み合わせて少々小型の私専用のクラブを作ってもらいました。

 運転席はクラブと同じですが足先のタイヤはトラックのモノになり腕は一本でした。

 一本になった腕はクラブより大きく、鉄砲、チェーンソー、杭打機が一つに集まっています。

 そして今から操作方法の説明を受けるところです。

「この起動兵器は名称ビックアームです。右の操縦桿の突起に右手のソケットを接続することで直感的に操作できます。」

 ゲームみたいに簡単な操作方法だったので余裕の表情が出てしまったようで

「船長から自分の国の自由は自分で勝ち取りたいだろうから手伝ってやれと言われて出来るだけ簡単に動かせるように作ってやったんだ。船長に感謝しろ。」

と若い作業服の男性は不機嫌そうに帰っていきました。

 私は自分の思い上がりが恥ずかしくなりました。


【立志】

 アクタはビックアームの操縦訓練を受け始めて半年ほど経ち、まともに動けるようになっていた。

 しかし、それは訓練の中での話であって実際に戦闘になった際に使えるものなのかは誰もわからなかった。

 塵芥の人々の解放のためには、いつ権力の中枢である宮城県庁に急襲するべきか。どのタイミングがベストなのか。様々な国から集まった人権保護団体の中で協議が続いていた。

 答えが出ない日々が続く中で突然海上に轟音が響いた。

 アクタが外を見ると他の人権保護団体の船が二つ折りになり沈んでいた。

 宮城県は中国やロシアに協力を仰ぎ、岩手県沖や福島県沖に停泊している船に攻撃を仕掛けていた。

 姿は見えないが潜水艦からの攻撃であることは容易に想像できた。

 リンカーン船長が大声で怒鳴ると船が加速しだす。

 アクタはマーチンにビックアームに乗るように促され、ルーサー、キングは既にクラブに搭乗している。

 ハンガー内の整備員がクラブとビックアームに駆け寄り兵器を詰めるだけ積み込む。

 最早、作戦云々言っていられる状況ではなかった。

 ただ、独立国家のように振舞ってきた宮城県知事間村は他の地域に逃れることはできず、また、各所から命を狙われている間村であるから、その所在が常に宮城県庁にあることは明白であったのが救いであった。

 間村を討つ。

 着岸と同時にルーサーとキングが船から飛び出す。

 遅れて、アクタ、マーチンと飛び出していく、約100kmの旅の始まりであった。

 街中に間村一型が配備されているが、既にその装甲は脅威ではない。しかもクラブやビックアームと比べると間村一型の機動性など無いに等しい。

 クラブ専用の自動小銃が間村一型を鉄屑に変えていく。

 国道45号線を進むことにした。

 暫く走ると先頭のルーサーが

「That road seems to be easy to drive.(向こうの道が走りやすそうだ。)」

と三陸自動車道へ全員を誘った。

 舗装された道は走りやすかった。

 しかし、利府JCTには多数の間村一型が待ち構えていた。

 機動力がない間村一型であっても多数の銃口を突き付けられるのは分が悪い。

「Fly down!(飛び降りろ!)」

 ルーサーが叫ぶ。

 二番手で走るキングが三陸自動車道から飛び降り、マーチンもアクタを掴みながら飛び降りる。

 凄まじい衝撃が搭乗席に響き渡る。

 ルーサーがいない。

 ルーサーは先頭を走っていたため間村一型の集中砲火を浴び脚を損傷したため、三陸自動車道から飛び降りることが出来なかったのだ。

 ルーサーのクラブに雨のように弾丸が降り注ぐ。

「I'm going to help!(助けに行くぜ!)」

 キングは叫んだがルーサーは

「Go ahead!(先に行け!)」

とキングを拒んだ。

 次の瞬間、ルーサーは爆薬に着火。

 轟音と共に複雑に入り組んだ利府JCTは多数の間村一型と共に崩れ落ちていった。

 宮城県庁まで約5km。

 市街地に入る。

 三人はとにかく目立たないように慎重に進んでいく。

目的地の宮城県庁の隣は宮城県警察本部。

更に宮城県庁の前には勾当台公園や市民広場があり、そこに多数の間村一型が配備されているのは容易に想像できた。

宮城県庁まで約1km。

ここからは減速は許されない。

三人が北側から宮城県庁へ駆ける。

案の定、宮城県系本部だけでなく、勾当台公園や市民広場から間村一型が多数現れた。

しかし、市街地で狭い立地がビックアームに味方した。

団子状態に戸惑っている間村一型をビックアームのチェーンソーが切り付ける。間村一型の搭乗者の悲鳴が恐怖から痛みに変わり、やがて静かになる。

更にアクタはタイヤを激しく鳴らしながら間村一型の攻撃を横回転で回避しつつ間村一型の搭乗者にパイルバンカーを打ち込む。

アクタは既に以前のアクタではなかった。

「Shit!(糞が!)」

キングが怒鳴る。

キングの機体の片腕が千切れていた。

クレーンのような腕を持った高さ6m程の大型起動兵器が駄々っ子のようにその腕を振り回していたのだ。

 二発目の駄々っ子のパンチを真面に受けたキングは宮城県警察本部の外壁を突き抜けフロアの中にいた。

「It doesn't work.(動かねぇ。)」

 そこに警官隊が群がる。

 クラブの自動小銃は数人の警官を撃ち抜いたが間もなく弾は尽きた。

「You bastard!(糞野郎!)」

キングも爆薬に着火した。

宮城県警察本部は一階の半分が吹き飛び建物が傾いていく。

瓦礫が大型起動兵器に降り注ぐ。

マーチンの動きは的確だった。

瓦礫を躱し、駄々っ子の攻撃も躱す。更に弾丸を駄々っ子に撃ち込んでいたのだ。

宮城県庁から黒塗りの車が走り出す。

「マーチン!あの車にターゲットがいる!」

アクタには見知った顔であった。

間村を追うアクタ。

アクタの機銃が間村の車を捉える。

横転した車から間村と秘書が出てくる。

アクタの照準が間村を捉えた。

「アクタ避けろ!」

マーチンがアクタを押し退ける。

アクタが立ち上がるとマーチンの機体の搭乗席を駄々っ子の拳が潰していた。

アクタは再び間村に照準を合わせようとする。

しかし、弾は秘書を撃ち抜いたところで止まる。

駄々っ子の拳がアクタを捉えたからだ。

アクタはビックアームから放り出されアスファルトに叩きつけられる。

「このガキが!」

間村はよろめきながらアクタに近付く。

そして、懐から出した拳銃でアクタの胸めがけ数発発砲した。

アクタの心臓は鼓動を止めた。

アクタの右手が爆発し、アクタの右手周囲1mのモノを吹き飛ばす。

間村は爆発に巻き込まれ、左手、両足、左目を失った。

アクタは戦闘員としての自覚を持ち始めた頃、自身の心臓が止まった時に起爆する爆薬を義手に仕込むようにオーダーしていた。

間村は自身が最も忌み嫌う障害者という塵芥になったのだ。

数分遅れて到着した様々な国の人権保護団体の起動兵器たちが宮城県庁に集結。

瀕死の間村が拘束されたことが明らかになると警官隊は武器を捨てた。

更に遅れ自衛軍が宮城県庁に到着。

日本政府は労せず宮城県の反乱を納めることができたのである。

その後、宮城県は土地を隣県に分割で移譲され塵芥の人々も解放されることとなったのである。


1999年 

障害者監護法 撤廃 

優生保護法 撤廃 

地方自治法 撤廃 

国家学力把握法 撤廃

愛の十万県民運動条例 宮城県の消滅と共に撤廃

宮城県知事間村小平 国家反逆罪により死刑

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