午前の真野

ナナシ

第1話おまわりさん

最近、私のアパートからそう遠くない場所で大掛かりな工事をしている。


地方開発とか言って工場か何かの施設が立つのだろう、遠くで音がする。


そんな開発中の田舎に住んでいる私はマノ。


窓枠に腰を掛けてその工事の音を聞きながら景色を眺めている。


「やっほー、マノちゃーん。」


下の道路から声をかけられた。


こいつはモグ。


幼い頃からの幼なじみで、大のオカルト好き。


怪奇な噂を収集するのが生きがいだ。


その友人モグが下の道路から手を振っている、眩しいくらいの笑顔だ。


「どした、さんぽか?」


「へへっ。」


更に笑みを浮かべた。


「それ以上笑うと口が裂けるぞ」


「あのね、聞きたてホヤホヤの噂を入手したからマノちゃんに先に教えようと思って!今からそっちに行くね。」


私はモグの友人の中で唯一のオカルトに理解があるということで新しい噂を入手すると真っ先に私のところへくるのだ。





[ねぇ、おまわりさんって知ってる?]





モグがおもむろに聞いてきた。


「交番の人。」


「言うと思った。でも ウチが言っているおまわりさんはそれじゃ無いんだなぁ。確かに見た目はそうなんだけど、そのおまわりさんに会うとどうしてか自分の家にたどり着かないの最悪の場合、失踪しちゃうんだって。]


「ほぅ」


「夕方に自転車に乗って現れるんだけど見た目は普通の おまわりさんだからわからないんだって」


「へぇー。」


そうなんだと私は遠くを見て生返事をした。


「と、言うことで。少女は見た!怪人

おまわりさんの姿!を実行しちゃいまーす!」


「そか、そか、いってらっしゃい。お土産よろしく」


「何言ってんの!君も行くのだよ。」


「・・・・」




私はどこまでお人好しなんだろうか…。






私たちは夕方外に出て住宅地を歩き回っていた。


まだあちこちに帰路に着く人達がいる。


モグが私に話しかける。


「会うときにおまわりさん、おまわりさん帰り道をはどこですかって3回唱えるの」


「あー、だりぃ」


もう少し暗くなってから言おうと時間を潰しながらオレンジと紺色が混じる風景を見ていた。


数十分たったところでじゃあと私たちは3回唱えた。




おまわりさん、おまわりさん、

帰り道はどこですか?


おまわりさん、おまわりさん。

帰り道はどこですか?


おまわりさん、おまわりさん。

帰り道はどこですか?





「よし!じゃあ試しにまたマノちゃんの家まで行ってみよう」


そういって歩み出した。


この道を真っ直ぐ行ってT字路を

右に曲がって行けば私のアパートだ。


右に曲がったそこには。




アパートはなかった。




「え?」


「あれ?道を間違えたのか…」


「そんなはずないよ、いつもの道だったよ?」


おかしい、あるはずのアパートの場所には両側には家の高い塀が続いている。


「んー、じゃあウチん家行こ!」


何かの間違いだよとモグは言いながらさっきの道を戻ったところで赤いポストを右に曲がり、最初の曲がり角を左に曲がればモグの家だ。


「もしよかったら夕食べてって。」


そんな穏やかなモグの顔が一変した。


曲がったそこにモグの家は無かった。


あるのは私たちよりも高い塀が道を止めていた。


「んー?最近、地殻変動でも起きた?」


「地殻変動で塀は建たないから!」


「これは完全におまわりさんルート突入でしょ!」


「そんな呑気なこと言ってる場合か!噂が本当なら家に帰れないぞ?」


モグの表情がまた変わる。


「今日の夕食、唐揚げ!!」


どこぞのホラー漫画の絵のような顔つきで夕飯の心配をしていた。


モグと漫才のようなやり取りをしていると背後から気配がした。



リンリンッ、リンリンッ。



自転車のベルの音が聞こえた、強く打ち付ける鼓動を抑えながら恐る恐る振り返ると…。


お巡りさんがいた。


「まさに救世主!すみませーん」


モグは走っていったが私は気づいてしまった。






そこにいるお巡りさんは…






おまわりさんだってことを、






「あのーすみません。ウチの家、ここなんですけど、道に迷ったみたいで、どうやって行けば良いですか?」


私はダッシュでモグのもとへ行く。


「モグ!その人は…!」


話し終わる前にモグ越しに腕が伸び私の額に銃口がピッタリついた。


「マノ、ちゃん…。」


モグのかすれる声を遮るように怪異が話しかける。


「なぜ、俺の場所にきた。妖怪」


緊張が走るが吃りながらも話す。


「わ、私が妖怪?ど、どういうことだよ」


「惚けるな。俺を喰いにきたのか、それともこの場所を奪いにきたのか?」


「何か勘違いしてないか?私は人でここへきたのはコイツのだ!」


 


-----ッパン!!




私の額に直径9㎜の穴が開いた。


そのままドサッと倒れたまま動かなくなってしまった。


「マノちゃん。ねぇ、マノちゃん!!」


モグが叫ぶが動かない。


ウワーッと大泣きするモグを余所におまわりさんは話しかける。


「何を死んだふりをしている。起きろ」


銃口を空に向かって放つ。


「ッああ!びっくりした。あ、あれ?生きてる」


額に手をやると穴は塞がっており、血も出ていない。


モグが顔をグシャグシャにしながら私に抱き付く。


「お前、本当に自分を人だと思ってい

るのか?」


私はコクリと頷いた。


「ひゃはははは、あははは。」


おまわりさんは大声で笑いだした。


「こいつは傑作だ。今まで自分を人だと思ってたなんて、ンフフフ。」


笑いをこらえながら話を続ける。


「久々に、面白いモノを見た!今回は機嫌が良いから元の場所へ帰してやる」


それから---とおまわりさんはこう言った。


「これからは用心しろよ、お前らたくさんの怪異と対峙するんだからな」


と、記憶はそこまでしか残っていなかった。


どうやって私たちは家に戻ったのか覚えていない。


ただ一つはっきりしていることはこれからとんでもない事が次々に起こる序章にすぎないってことだ。









これはおまけだが。


後日、腹痛でレントゲンを撮ったら医者に胃の中に金属の塊があると言われた。


形はまるで銃の弾のようだった。


おわり

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午前の真野 ナナシ @nns8amehuri9

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