バグその5:再現性と蛇
私はバグを楽しむプレイヤー達を尻目に、まっすぐに最初のプレイヤーの拠点となるミル村へと向かう。
すると――
「誰か助けて~!!」
そんな少女の声が聞こえてくる。ほとんどのプレイヤーがボイスチャットを行っているので、こうして声は聞こえるのだが、私はそんなに構っている暇はないので、無視する。
「いいのかい、プレイヤーが困っているよ」
「バグ修正が最優先」
「でも、あのプレイヤー……バグにやられてるっぽいよ」
「へ?」
私は声のする先を見ると――草原で声の主らしき可愛らしい少女が、ヘビ系の雑魚モブと戦っているのだが、明らかにおかしいことになってる。
「あらら……これはひどい」
「たーすーけーてー」
青髪ショートカットの少女は、魔術師の初期装備である杖を持っているが、それ以外の格好は全く私と同じだった。
頭上には<ウロ>と表示されているので、それがプレイヤーネームだろう。
まあそこまではいたって普通なのだが……なぜか背中から二匹のヘビが生えている。どうやら戦っていたわけではなく、背中に生えているヘビを何とか取ろうとしていたらしい。
「なんじゃそら」
流石にプレイヤーの背中からヘビが生えるバグは知らんぞ! またぞろわけわからんバグが発生してる……。
「そこのお姉さん助けて! 雑魚と戦ってたらこんなことに!」
「詳しく状況聞かせてくれる? 再現性を確かめたいから」
「へ? 再現性?」
「うん、再現性」
「えっと――」
私はその少女――ウロちゃんの言った通りにするものの、同じ事にはならなかった。
「うーん。やっぱり条件を一緒にしないとダメか」
「あの……ヒナ? さんでいいのかな?」
考え込む私を見て、ウロちゃんがおずおずと聞いてくる。
「へ? ああ、プレイヤーネームはヒナであってるよ。それよりも君、ジョブは魔術師だろうけど、所持アイテム、装備、ステータス、スキル構成全部教えてくれない?」
「えっと……教えるのは良いですけど、これ何とかなるんですか……?」
ウロちゃんが、頬に顔をすり寄せてくる背中のヘビを手で遠ざけながら聞いてくるので、私は首を横に振った。
「残念ながらその確証はないけど、どういう条件かを特定しないと直すこともできないから」
「分かりました!」
それからウロちゃんの協力の結果、私は一つの結論に行き着いた。
「とりあえずジョブを変えないとダメね。あとステータスも振り直しが必要かも」
「そんなこと出来るのかい?」
バグ神様がそう聞いてくる。どうやら、その姿も声もウロちゃんには聞こえていないようだ。
「どっちも、条件あるけど可能」
というかこのキャラはデバッグ用アカウントなので、実は内部データを好きに弄ることが出来るのだけども……それをするとまた何かしらのバグが発生しそうなので、使わない。
他のプレイヤーと同じ条件でやらないと、おそらく意味を為さないのだろう。
「僕もそれを推奨するね。どうも君達が内部データを弄れば弄るほどに、バグは複雑怪奇に進化していく。それを修正できるのは君しかいない」
「そんな気がした」
私は二匹のヘビにやたらと懐かれているウロちゃんへと手を差し出した。
「とりあえず、一旦ミル村に戻りましょうか。まだ時間ある?」
「あ、ボク、今日明日は仕事休みなんで大丈夫です! でも、村は……他のプレイヤーもいるし」
ウロちゃんが恥ずかしそうに俯いた。
うーん。表情やモーションのバリエーションはかなり増やしたけども、ここまで自然とは驚いた。
「見られたら、晒されそうだもんね。そのヘビ、思いっきり防具のグラフィック突き破ってるし」
まるで服なんて気にしないとばかりに貫通してウネウネしている二匹のヘビを、隠す手段はなさそうだ。
「じゃあ、どっかに隠れてる? 私、村に行って条件整えてくるから」
「うん! 何とかこれ外せないか、ここで頑張ってみる!」
「じゃあ、はぐれないようにパーティを組んでおこうか」
私はウロちゃんにパーティ申請を出した。本当はユーザーとパーティを組んだり交流してはいけないのだけども、バグ検証のためだし、仕方ない。
それから私はミル村へとダッシュで向かい、ジョブチェンジとステータス振り直しの為のイベントをやっつけていく。
ミル村はいわゆるファンタジーゲームにありがちな、風車がある牧歌的な村だ。ここのデザインについては、社内で揉めに揉めたので、何となく印象深い場所である。なんせダークファンタジー好きの社員が多いうちの会社は、すぐに廃墟とかにしたがるので、それを何とかを止めて出来上がったのがこの村なのだ。
最初の拠点ぐらい……ファンタジーファンタジーしてても良いだろう。
『では……祈りを捧げよ』
村の教会で、イベントを完遂させて私はジョブチェンジ出来るようにすると、<魔術師>を選択する。次に、ステータス振り直し(専用アイテムを消費するので、使いどころを考える必要がある)を行う。
そういえば、なぜか村の中はバグがほとんどなかった。一部、商人のフラグがおかしいだけで、他は奇跡的に正常だ。
「まあ、その商人フラグがかなりヤバいんだけどね……」
フラグ担当者がついに失踪したので、お察しである。
「そのバグは使わないのかい?」
「今のところはいらないかな。かなり強い防具が購入できるようになるけど、装備に必要なステータスが重いから、買っても今すぐは装備できない」
「なるほど」
私はウロちゃんと完璧に同じステータス、アイテムおよびその順番、そして装備をすると、彼女の下に戻る。
「ウロちゃんがまだビギナーで助かった」
「レベル、ほぼ同じぐらいだったもんね」
ウロちゃんがこのフィールドについたのはほぼ同じか少し早いぐらいのタイミングだろう。その証拠に総経験値がほぼ私と同じだったからだ。おかげで、同じ条件にしやすかった。
「ウロちゃーん」
私が手を振ると、岩陰に隠れていたウロちゃんが出てきた。
「ヒナさん!」
相変わらずヘビを二匹背負ったウロちゃんが私を見て、手を振るモーションを行った。
「じゃあ、早速再現してみようか」
「うん」
私は、ウロちゃんがやった通りの行動を行う。
まずは、このヘビのような雑魚モブ――<グラスサーペント>が二匹出てくるところへと向かい、戦闘を行う。その二匹を魔術を使わず、杖で殴ってちまちまHPゲージを削っていく。
「そういえば、なんで杖で戦ってたの? 魔術使えばすぐ倒せるのに」
「チュートリアルボスのあとだったからMPが切れてて……」
なるほど。
チュートリアルステージから進んだところの脇に、回復の泉があるけど、どうもそれを見逃したらしい。
うーん、あれやっぱり分かりづらいか。戻ったら報告しておこう。
そうしてポコポコ殴っていると、HPがミリまで削れた二匹が、鎌首をもたげた。
「この攻撃です!」
ウロちゃんの言葉通り、これまでとは比べ物にならないほどの速さで攻撃してきた二匹に、私は右手と左手をそれぞれを噛まれてしまう。
「シャー!」
すると、攻撃したはずの<グラスサーペント>が消え、代わりに私の両腕からそれぞれヘビが生えていた。
「再現できたああああ!!」
だけども、私はまだこの時点で気付いていなかった。
このバグの有用性と――ウロちゃんの実力に。
***
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