バグその4:〝走り威圧〟〝ラリィ〟〝ケツ魔〟


【バグ林】エルザリングオンライン【オワリン】 Part225


224:名前:名無し@バグでいっぱい

あれ、逆ゴブリン修正されてんじゃん


225:名前:名無し@バグでいっぱい

いやああああああジジイが元に戻ってるううううううう


226:名前:名無し@バグでいっぱい

流石に修正が入ったか

初狩り君が初狩り君じゃなくなってるな


227:名前:名無し@バグでいっぱい

クソチュートリアルが元に戻ったってマジ?


229:名前:名無し@バグでいっぱい

>>227

マジ


230:名前:名無し@バグでいっぱい

もう吟遊詩人じゃなくてもいいな!


231:名前:名無し@バグでいっぱい

重奏バグもジミヘンも修正されてないし、吟遊詩人一択だろ


232:名前:名無し@バグでいっぱい

吟遊詩人飽きるからなあ

ミル村で戦士にジョブチェンして砦で拾う雷神斧を神殿で強化するのが鉄板だろ


233:名前:名無し@バグでいっぱい

戦死はバグのせいで詰むぞ

吟遊詩人もだが


234:名前:名無し@バグでいっぱい

早く戦死バグ修正しろ~


***


「やっぱり直ってる……」


 私のデスクの上のモニターに映る掲示板やSNSには、チュートリアルが正常化したという投稿が増え、<エルザリングオンライン>は再びトレンド入りした。


 これまで全くバグを修正できなかった運営がようやく仕事したと、褒める言葉もちらほらあった。


「新規アクセスが増えてるな。これも宮野、お前の手柄だぞ」


 南先輩がそう言って、缶コーヒーを私へと差し出した。


「いやあ……えへへ」


 私は缶コーヒーを受け取る。ちゃんと、私が好きな微糖コーヒーを選ぶ辺り、南先輩は流石だ。


「でもまあ、まだまだバグは残ってる。俺らが帰れる日は当分来ねえな」


 自分のデスクに戻って頭の後ろで手を組んだ南先輩の言葉に、私は再び暗澹あんたんとした気分になる。


「そんな不吉なこと言わないでくださいよ……」

「チュートリアルステージはソロ専用だからな。そっから先はオンラインプレイヤーがひしめくエリアだ。バグを直すにも不確定要素が多過ぎる」

「ですよねえ……」


 そう。お忘れかもしれないが、<エルザリングオンライン>は名前の通り、オンラインゲームなのだ。チュートリアルは強制ソロだが、そこから先はオープンフィールドが広がっており、オンラインプレイヤー達がひしめき合っている。


 まともなゲーマーなら、あのチュートリアルでみんなコントローラーを投げているだろう。だからこそ、あれをくぐり抜けて、このバグだらけオンラインを楽しんでいるプレイヤーは……ほとんどが変人だと私は思っている。


 ちらりと、南先輩のモニターを見れば分かる。


 数人でパーティを組んだプレイヤーが、最初の拠点である<ミル村>近くの崖に向かって、ひたすらピョンピョンしながら武器を振っている。


 それはあまりシュールな光景であり、新進気鋭のオンラインゲームの光景とは思えない。


「何してるんですかそれ……」

「デバッグだろうさ。壁抜けできる場所を探しているんだろ」

「攻略しろよ……」

「バグで攻略できねえんだよ! って声が聞こえてきそうだ」

「仰る通りで」


 はあ……とため息をついて、私はモニターの上のデバッグ神社へとチラリと視線をやった。


「じゃあ、続きをやりますか」


 私はデバッグ神社に手を合わせて目を閉じた。なぜそうしたかは分からない。でもそうすればいいと、自然と理解していた。


 スーッと意識が遠のく感覚。


 そして目を開けると――


「やあやあ! 待ってたよ!」


 バグ神様の声と共に、私の目の前には広大な草原が広がっていた。


 そこはチュートリアルステージを抜けた先に広がる、最初のフィールド――<窪みの平原>だ。


 この広大な平原は周囲全てを高い岩壁で囲まれており、平原の中心には<ミル村>というプレイヤーの拠点がある。


 プレイヤー達はまずはこの平原とその周囲にあるダンジョンを攻略してキャラを強化し、唯一外界に繋がる道を塞ぐ大ダンジョン<竜の谷砦>の踏破を目指す流れだ。


 勿論、腕に自信があればいきなり<竜の谷砦>に挑んでもいいが、それなりに装備やキャラを鍛えておかないと、ボスにすら辿り着けないだろう。


 なにより、ここからはオンラインエリアである。


 ゆえに――


「あははははははは!!」


 自分の周囲に衝撃波を放つスキル――<拒みの威圧>を発動しているプレイヤーが、走りながらそれを連続で発動しつつ、雑魚モブの群れに突撃していく。


 本来なら連続で使えず、しかも移動不可の魔術のはずだが、それがどうしたとばかりに走り回っている。


「うっし、次は十回ラリー目指すぞ」

「おっけー」


 二人のプレイヤーが向かい合っている。一人が初級魔術<ファイアーボール>をもう一人に向かって放つと、もう一人が左手に装備したバックラーを構えた。


「そーれ」


 バックラーを使って<パリィ>と呼ばれるスキルを使用すると、なぜかそれは<ファイアーボール>を跳ね返した。そしてそれを放った側も、戻って来たその火球に<パリィ>を重ねた。


「ほーれ」


 まるでテニスか何かように、<パリィ>で火球をお互いに跳ね返しているが、<パリィ>は物理攻撃に合わせることで、相手の体勢を崩すスキルであり、魔術を弾く効果はない。


 これではパリィではなく、ラリーじゃないか……ってやかましいわ。


「おらあああああ<フレイムスピア>!!」


 なぜか雑魚モブに背中を向けたまま近付いていく魔術師らしきプレイヤーが魔術を発動。魔術が尻の辺りから放たれると、明らかにおかしいダメージを叩き出し、雑魚モブを一撃で倒した。


「どこもかしこもバグだらけだ……」

「みんな楽しそうだね! でもなんでお尻から魔術が出てるんだろ?」


 バグ神様の暢気な声に私はため息をついた。


「多分、<マナバースト>のパッシブスキルと背後にスキルを放つ盗賊のスキル<死角の攻撃>を組み合わせているんだと思う。ほら、あのプレイヤー、<賊の短剣>を装備してるでしょ? 多分装備バグじゃないかな」


 <マナバースト>は魔術の威力を劇的に上げる代わりに、あらゆる魔術の軌道がデタラメになってしまうスキルだ。威力は魅力的だが、狙って当てるのは非常に難しい。そして<死角の攻撃>は盗賊のスキルで、背後へとスキルを放つのだが、その軌道は必ず真っ直ぐになる。

 

 本来、違うジョブのスキルは覚えていても使えないのだが、【共通する武器カテゴリーを装備していると、同じジョブ扱い】という馬鹿みたいなバグによってそれが可能となっている。


 魔術師と盗賊は両者とも<短剣>を装備可能なので、それを装備していると、どちらのスキルも使えるという訳だ。


 これにより、<マナバースト>のデメリットを、<死角の攻撃>で打ち消した結果――


「超火力の魔術! ただし尻から出る。みたいなっ!」

「愉快なバグだけども、使えそうだね」

「このゲームが三人称視点だから出来る芸当で、私には無理」


 ゲームの場合、キャラが後ろ向いていようがカメラを向ければそちらを見えるので問題ない。だけども、私の場合はキャラ視界=私の視界となるので、狙ってやるのは難しい。


「なるほど! ゲーム世界に入るのってそういうデメリットもあるのか」

「最初から使う気はないから大丈夫。それで、バグ魔の気配は?」

「うーん……この辺りにはないかなあ。北の方に気配があるかも?」

「北ってことはやっぱり<竜の谷砦>か」


 まあ、実は予想できていたことだ。


 バグ神様は、このゲームには六匹のバグ魔が潜んでいるといった。そして偶然かどうかは分からないが、私達が、〝これは致命的なバグであり、最優先で直すべし〟と定めたバグも――。そしてその内の一つである〝初狩り君〟は無事修正できたが依然としてあと五つ、とんでもないバグが潜んでいる。


 私は、その五つとバグ魔が一致しているのではないかと、予想していた。


 そしてその五つのバグのうちの一つが――このフィールドにある<竜の谷砦>で発生している。


「行くのかい?」

「と言いたいところだけど準備が必要かも。多分、この吟遊詩人のまま進んだら……詰む」

「ふーん。十分強いと思うけど」

「そうね。普通にこのままこのゲームを楽しむなら確かにこの強さで素材やら経験値を溜めて違うジョブになるなり、そのまま進める方が効率的かも。でも、私達が向かうべき場所では通用しない」

「どうやら、ある程度目星を付けているみたいだね」

 

 その言葉に、私は頷いた。


「ええ。<竜の谷砦>の壁抜けバグによっていける<竜晶神殿>。そこにある、致命的なバグの一つ――……戦士ならぬ〝戦死〟が、おそらくバグ魔のはずよ」

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