介護はあきらめた時から始まる

ヒロシマン

第1話

 2021年現在、父は89歳で要介護3、母は87歳で要介護1。


 私は59歳で「ひきこもり」なので無職。


 ところで「ひきこもり」には2種類あり、対人恐怖症など何らかの原因で、外に出たくても出られない人。もう一つは、外に出ることに意味がないと感じ、いつでも外には出られるけど出ない超インドア派。


 私は後者の超インドア派のほう。


 ようするに私の家は5080問題の当事者で、頼るのは親の年金だけ。(来年は6090問題の当事者)


 私は両親について、全く無関心で、自分の健康保険や税金の免除を申請するため、区役所の福祉課にEメールを送り、その時に生活の実状と不満をぶちまけていた。


 そうしたらある日、区役所の福祉課の担当者が自宅に訪問して来て、家庭の状況を調査して帰った。しばらくして、ケアマネージャーがやって来るようになった。


 それでも私は両親について無関心のままだった。


 父は前立腺ガンだが、現在は状態が良く、落ち着いているので血液検査だけをしている。


 しばらくして、父がちょっとしたことで骨折し、通院するようになり母が付き添っていた。そしたら、その通院の時に母が転倒して骨折した。


 二人が骨折したことで、世話はすべて私が診なければいけなくなった。


 食事の世話に毎週1回、病院に注射を打ちに2年間、タクシーで通った。


 その後、父は、ケアマネージャーの薦めで、風呂に入ることとリハビリを兼ねて週に1回、ディサービスに通うようになった。


 ちなみに家では、風呂はシャワーを浴びるだけで浴槽には入らない。何かトラブルがあると困るので昼間に入るようにしている。この頃、父は風呂には入らなくなっていた。


 ディサービスに通っていた父が「寒い」という口実で行かない日が多くなった。


 突然、母が立ち上がれなくなり、深夜、救急車で病院に行った。カリウム不足ということで、薬の投与をして、なんとか立てるようになった。


 この頃、主治医にして定期的に通院していた病院が閉院することになり、近くの別の病院に通院しようと考えた矢先に、また、母が立てなくなり、その病院に救急車で行った。


 ちなみに、救急車を呼ぶのは、父と母を合わせて6回ぐらいになる。


 その病院は、「在宅診療」をしていることを知り、すぐに在宅診療をしてもらう手続きをした。


 在宅診療に来ていただいた医師に、足腰の弱い母が風呂に入るのは不安だと話すと、介護士が自宅で風呂に入れてくれることをアドバイスされ、ケアマネージャーとも相談して、母には介護士が、ついでに父には介護ヘルパーが定期的に風呂(シャワーを浴びるだけ)に入れてくれることになった。


 この他に、薬も薬局に配達してもらい、介護用品なども斡旋してくれる業者に頼み、屋根の雨漏りがした時には修繕してくれる業者をケアマネージャーに紹介してもらって修繕した。


 買い物は以前からネットスーパーを利用しているので、外出することはほとんどない。


 私は介護と家計の管理を口実に「ひきこもり」ができて、新型コロナの影響もなく生活している。


 将来、両親が亡くなって年金が入らなくなった時の不安はあるが、その頃には、ベーシックインカムなどをしなければ世界中が機能しなくなると考えている。もっとも、その前に食料備蓄の拠点を各地域に造り、ローリングストックで食料の無料配給が始まればいいと思う。


 これを読んで、「いい加減な奴」「ダメな人間の代表」と思う人がいるのは当然だと思う。


 だけど、あえて言わせてもらえば、「恥さらしても親と一緒に生きてやる」


 もし、介護に悩んでいる人がこれを読んでくれているのなら、早く自分で介護することは、あきらめたほうがいい。


 役所の福祉課に泣きついてでもいいから、ケアマネージャーを見つけて相談すること。


 介護士や介護ヘルパーを頼りにすること。こうした人達のトラブルや事件を耳にするけど、家族が見捨てた厄介な高齢者を介護するのだから、ストレスがたまるのは当たり前。


 高齢者と介護する人を1対1にしていたのでは、ストレスのはけ口は高齢者に向かう。


 私は、父や母が介護士や介護ヘルパーに風呂に入れてもらう時は、何もせず、新聞を読んでいるけど声が聞こえる場所にいる。何かあればすぐに手伝えるように待機することが、介護士や介護ヘルパーのストレスを軽減する。


 もちろん、終わった後は感謝の言葉を伝える。それを介護士や介護ヘルパーが喜んでいるかどうかは分からないけど、少しはストレスのはけ口にはなっていると思う。その証拠に、色々な人に来てもらっているけど、皆親切で、家族でもしたがらないようなことをしてくれる。


 別にケアマネージャーや介護士、介護ヘルパーの宣伝をするつもりはないけど、家族共倒れにならないようにするには、他人に頼るしかない。結局は、それが社会に、できるだけ迷惑をかけないことにつながる。


 それから、これから高齢者になる自分も含めてだけど、歳をとっていくと次第に赤ちゃんになっていく。覚えたことは、せいぜい3日ぐらいしか覚えていない。だから、高齢者に説教をしても無駄。体も衰えて動けなくなっていく。


 一番辛いのは、インドアの趣味がないこと。


 私の両親は、プロ野球を楽しみにしているけど、シーズンが終わると何も趣味がない。


 1日中ぼ~っとしていて、植物人間と同じ。これは地獄だと思う。


 インドアの趣味を一つぐらい見つけたほうがいい。


 これが役に立つかどうか分からないけど「あなたは孤独ではない」


終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

介護はあきらめた時から始まる ヒロシマン @hirosiman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ