第七章
第1話 不穏な空気
プリムスとエルペスと離れて13日ほど経った。
相変わらずエリザベートは、山に入り薬草と野草を取っている。リーネは狩りをしている。
そろそろ動物たちは冬眠に入るだろう。
風も冷たく感じられるようになり、エリザベートは外套を身につけている。
食堂には魔道具の冷蔵庫が設置されているので、夕方でも肉を届けられる。
食堂のシェフは、肉を保存できるように干し肉にしている。寒い冬でも、少しずつ栄養を取る事ができる。
冬に入る前に収穫した芋類もここで管理している。
一般的に、1タンで食事を取れるようになっている。どうしてもお金がない者は、仕事を斡旋しているが、それでも働きに出られない年寄りや病人は無料で、食べられるようになっている。
炊き出しとは違う料理は、家庭の味がする。
決して豪華ではないが、腕のいいシェフが考えた食事は、民が飢えることがないように考えられている。
メニューは日替わりで1種類だけ、テーブルで食べられる。
洋服も一人一着は、1タンで買えて、二着目からは生地代が出る金額を出さなければ買えないように、工面されている。
靴も一人一足だけ1タンで購入することができる。サイズが細かくあるものなので、予約も受け付けているが、今のところ、一人、一足だけ購入が可能だ。二足目からは定価販売に設定している。まだ、この地区では買えないだろう。
子供の服や靴は、中古品を持ってくることで、新しい物か中古品を手に入れられる工夫をしている。
洋服や靴は民に平等に行き渡るようにしている。
布団は騎士団が使っていた物を提供した。100個くらいしかないので、二人で一つを使うように指示を出した。今、布団を持っていない人で、病気の人は優先して、抽選を行った。
全く布団を持っていない人は、それほど多くはいなくて、100個でも十分に足りた。
熊や猪の毛皮は、国で買い取り、国はシュタシス地区で売り、その賃金をイリス地区の食費にしている。
イリスの都から馬車が出ていて、工事現場に送迎している。
河川工事も3貴族の男子が指揮を執って順調に進んでいる。
田畑の管理は、貴族の主人が主に行い、奥様やお嬢様達も手伝いに出て、民に指示を出している。
3貴族は元シェフを雇ったようだ。貴族には国から、賃金が支払われる。その資金で、シェフを雇い、最低限のメイドを雇ったようだ。
国王陛下から小麦粉と砂糖と紅茶の差し入れがあって、エリザベートはその差し入れを届けた。
奥様やお嬢様達は涙を浮かべ、喜んでいた。
エリザベートは、日々、満足していた。
皆と一緒に作った国ができあがりつつある。
この寒い冬が明ければ、もっといい国にできあがる。
今日はこの後、帰り、明日はプリムスを迎えに行く予定だ。
国境地帯を飛びながら、西側の河川工事の様子を見ていた時、爆発音がした。その瞬間、エリザベートは、国境の向こう側に落ちていた。
体を打ち付けて、全身が痛むが、それ以上に足が痺れていた。
見ると、足から大量の血が流れている。
「くっ、は、は、は、リーネ?」
神獣は血にまみれて倒れていた。意識はない。
『コル』
『逃げて』
コルはエリザベートの洋服を引っ張っているが、動けない。
『怪我をして、痛くて動けないの』
意識が吸い込まれていく。
「やはり聖女だったではないか?」
聞き覚えのある声は、バコーダ王国の国王陛下の物だった。
逃げなくてはと思っても、リーネは意識をなくしているし、エリザベートも痛みと大量出血で意識が薄れていく。
『コル、プリムスにありがとうと伝えて、それと精霊王様にも……』
『……主』
『わたしは、もう駄目かもしれない』
瞼が閉じて、エリザベートは意識を飛ばした。
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