第六章
第1話 鉱山探し 1
穢れがやっと落ちたエリザベートは、貴族達の亡骸を黄泉の国に送り、プリムスとエルペスとリーネとコルとイリス地区の区画整理を終えると、本格的に鉱山探しをし始めた。
朝、騎士団にお肉を届けて、プリムスとエルペスと話をする。
河川工事に出かける二人を見送ると、そのまま鉱山探しを始める。
シュタシス王国の王宮の近くで、鉱山を探す。
リーネとコルに案内されて、空を駆ける。
夏の日射しで日焼けや熱中症を起こさないように、帽子とストールで肌を隠す。
この国は豊かなのか、鉱山はたくさん見つかるが、宝玉のある鉱山となると限られてくる。
山の中まで入り、鉱山の様子も見て歩く。
ついでに、野草や薬草も採取して、リーネは狩りもする。
炊き出しは、王宮の前庭と河川工事現場でも行われている。
肉体労働をしているので、どうしてもお腹が空くのだろう。
河川工事現場に、寝泊まりしている民も多くいる事から、雨を塞ぐテントを張り、休む場所を提供している。
季節は夏なので、野外で寝ても風邪を引くことはないだろう。
五日目に、宝玉が取れる鉱山を見つけた。
最初にプリムスに教えた鉱山と内容は似ている。
リーネに一部を削ってもらいリーネの空間収納に保存してもらった。
夕方になり、イリス王宮に瞬間移動してもらい、お風呂の支度を始める。
水の補給と灯りを点していく。湯加減も適温にしておく。
騎士団長のもとに行き、足りない物資を尋ねる。
最近では、足りない物は紙に書き出して置いてくれるようになった。
それを受け取り、ダイニングルームに向かうと、いつの間にか、プリムスとエルペスがお風呂から出てきていた。
「お帰りなさい。全く、気付かなかったわ」
「さっき、帰って来たんだ。お風呂が沸いていたから、先に戴いたんだ。後がつかえているからね。いつもありがとう。エリ」
「いいえ、わたしの仕事だと思っているの。お水の補充もしておいたから、明日の朝の炊き出しも魔道具を使わずにできるでしょう?」
「魔道具の水は、あまり美味しくないって、エリの水を飲むようになって気付いたんだ。すごく助かっているよ」
エルペスは、エリザベートとプリムスが話しているときは、間に入ってこない。
そんなに気づかい等しなくてもいいと思うけれど、プリムスがエリザベートと話をするのを楽しみにしているのは、話している顔を見れば分かる。
エリザベートは、自分が愛されていると思えるほど、熱い眼差しを向けられていると思えるようになった。
リーネが食事を並べてくれる。
「今日もご馳走だ」
「美味しそうだ」
二人は、このときは感嘆の声を上げる。
「シェフが朝、支度してくれるの。王宮に戻ったら、少しでいいから労ってね」
エリザベートは微笑む。
「冷める前に戴きましょう」
三人で今夜も食事を食べる。
「そう言えば、炊き出しは毎回、同じで飽きたりしないのかな?」
「エリが肉を提供してくれるから、工夫しているみたいだよ。でも、基本は餅米と味噌スープだから、僕たちだけご馳走をもらって申し訳ないなって思うよ」
「そうなんだ」
「今日、差し入れでお酒が欲しいって書かれていたわ」
プリムスとエルペスが笑う。
「彼等はお酒が好物だからね」
「見張り以外は、酒盛りをしているよ」
「そうなんだ」
「僕たちは、早々に布団に入っちゃうけどね」
「さすがに、昼間の疲れで、夜はぐっすりだよ」
プリムスとエルペスは、出会った頃より日に焼けて、肌が黒くなっている。
「肌はヒリヒリしないの?」
「そうだね。最初の頃はヒリヒリしていたけれど、今ではなんとも感じないよ。肌は黒くなったけれどね」
「隊服を着ているから、長袖の部分は白いんだ。顔と手だけが黒くて、服を脱ぐとチグハグで恥ずかしいね」
なんとなく想像できて、エリザベートは微笑む。
「エリは日焼けしないように気をつけてね。綺麗な肌が焼けてしまうと大変だから」
「うん。最近は帽子とストールで肌を覆っているのよ。日焼けは火傷と同じだと教えてもらったから」
「昼間は部屋にいた方がいいと思うよ」
プリムスは、エリザベートの顔をじっと見つめる。
顔が熱くなる。
リーネが食器を片付けて、テーブルの上には紅茶の入ったお茶とカップだけだ。
「そうだ。今日はね。宝玉の混ざった鉱山を見つけたの。そこを国王陛下に見てもらおうと思っているの」
エリザベートはシュタシス王国の地図を国王陛下にもらった。それに、リーネとコルに教わりながら、鉱山の場所を記している。
それをテーブルに広げた。
プリムスとエルペスは、その地図を見つめて、ホウと息を吐いた。
「ずいぶん、たくさんあるんだね」
「殆どが金鉱山なの?」
「宝玉が混じった鉱山は、それほど多くはないの。この地図はプリムスに渡すわ。まだ鉱山はあるみたいだけど、全部はまだ見てないのよ。いずれ、全てを調べるわ。それから、イリス地区の鉱山も探したいと思っているの。地図を写してくださるかしら?」
「いいけど、日中は暑いから、あまり無理はしないで。まだエリは栄養失調なんだろう?」
リーネが頷いている。
「でも、食事は食べているわ。大丈夫よ。冬が来る前に、イリス地区の生活の基盤を整えておきたいの」
「それもそうだね。いつまでも炊き出しはしていられない。騎士達も疲れてきているから。交代要員を出せば、シュタシス王宮を守る騎士がいなくなってしまうから、この人数で乗り切るしかないんだ」
エリザベートは頷いた。
「冬までに川ができるといいわね」
「ああ、順調に進めているから、河川二つはできると思うよ」
「後は、魚の養殖ね。国王陛下にはお願いしてあるけれど、間に合うといいわ。上手くいけば、春には田園ができるわ」
「頑張らないとね」
ふわりとプリムスがあくびをした。
つい、ゆっくり話をしてしまった。
「今夜は、もう帰るわ。ゆっくり休んでね。二人とも」
「ああ、すまない」
「気をつけて帰ってね」
「ええ、また明日」
エリザベートは、リーネに跨がると一瞬でシュタシス王宮の私室にいた。
今日はゆっくりしてしまった。
『主よ、今夜は風呂に入り、眠れ』
『そうするわ』
エリザベートもふわりとあくびをする。
お風呂に入ると、慌てたように浴室の扉がノックされる。
「エリザベートお嬢様、お風呂の時はどうか鈴を鳴らしてください」
声をかけてくるのは、モリーだった。
「忘れていたわ」
扉を開けて、モリーとメリーが慌てて、浴室に入ってくる。
「今日は疲れてしまったから、シャワーでいいかと思って」
「そうでございますか。では、そのようにいたします」
モリーは急いで髪を濡らすと、髪を洗ってくれる。
メリーは風呂場から出ていった。
お風呂から出ると、冷ましたお茶が用意されていた。
肌を整えてもらい、髪を乾かしてもらっている間に、お茶を戴いて、すぐに寝る支度をすると、「おやすみ」と言って寝室に入って行った。
ベッドに入った瞬間、そう言えば、騎士団長から備品のお願いの手紙を受け取った事を思いだしたけれど、もう眠くて起き上がれなかった。
『私が渡してくるわ』
コルの声がして、「お願い」と言って眠ってしまった。
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