第2話 貴族の屋敷 メテオーラー公爵
ミミス王国が黒死病で壊滅した。
最後に救ったのは、この国を追放されたエリザベートだった。
空が虹色に染まり、光りの雨が降り注いだ。
王宮の上に留まったのは、何かの動物に跨がったエリザベートとエリザベートを背後から支える異国の王子のように見えた。
やはりエリザベートは聖女であったと思った。
屋敷に閉じこもっていたメテオーラー公爵は、エリザベートの姿を見て、久しぶりに屋敷から出た。
暫く、上空に留まっていたエリザベートだったが、どこかに飛んで行った。
跨がっていた動物は、もしや神獣であろうか?
物語の中でしか知らない神獣だが、エリザベートが聖女であるならば、神獣を従えていても不思議ではない。
異国に保護され、聖女の力を使ったのならば、エリザベートに危険はないのだろうかとエリザベートを案じた。
ミミス王国に黒死病が流行りだしたのは、エリザベートが国外追放されて直ぐだった。
ホタモス王太子が勝手に行った行為だった。
神が怒り、まるで天罰が下ったように思えた。
大金を払って買ったエリザベートを、婚約者とも思わず、愛情の欠片も持たなかったホタモス王太子は、女好きで有名だった。
貴族学校で出会ったエレナという男爵令嬢の色香に騙され、彼女を聖女だと思い込み、エリザベートを婚約破棄し、国外追放したのだ。
黒死病が流行りだした時に、病気を治し、感染を防いでくれと国王が命令したが、彼女は仮病を使い王宮内の私室に閉じこもって出てこなくなった。
エレナこそ、偽物の聖女だったのだ。
彼女が魅了を使っていることには、気付いていたが、国王までも魅了され、結婚を許した。
我が兄であるが、情けない。
王都に住む民が王宮に集まり、聖女様のお力を……と直訴するのに対して、王族の対応は、民に対して銃撃だった。
突然の銃撃に、民は驚き雪崩のように倒れていった。
黒死病で死ぬか、銃で撃たれて死ぬかの二択になっていた。
無差別の銃撃で、王都に住む民は、壊滅状態だった。
生き残った民は、黒死病で亡くなり、王宮の周りは屍の山となった。
愚かな国王である。
聖女の力で救われたミミス王国の民の数は、激減したはずだ。
生き残った貴族も王都に残った僅かに15軒ほどだ。
領地に戻った貴族は、食料危機と領民に助けを求められ、共倒れになったようだ。
新王が立ち、ミミス王国はシュタシス王国の一部として吸収されたようだ。
エリザベートを救ったのは、シュタシス王国だったのだろう。
エリザベートの故郷、シュタイン王国とシュタシス王国は同盟国だった事を思いだした。
新王が立った日に、我が従弟は反旗を震った。
恐れ多くも新王を狙撃したのだ。
羊皮紙に名を書き記した時に、爵位は取り消しになったはずだ。
ここで、反発しても倒れた国の貴族は、ただの厄介者だと気付かなかったのか?
哀れに一家皆殺しに遭い、王宮の前庭で、亡骸を晒されて、毎日、朽ちて行く様子を見る度に、自分は家族を守らなければと思ったのだ。
屋敷を明け渡す期日は7日だ。
行き先は、一時しのぎになるだろうが、領地だろうか?
新王が立ち、この国の整備をしているのは、シュタシス王国の第一王子だ。
エリザベートの姿も、毎日のように目にする。
河川工事をすると言っていた。
区画整理もされているので、領地の屋敷もいずれ出て行けと言われるだろう。
ミミス王国の紙幣は、ただのゴミになり、新しく成り上がるためには、働かなくてはならない。
ただの平民になったのならば、仕方が無い。
だが、生き残った貴族の中では、まだそれを受け入れられない者も多くいる。
我が家は残った食料と必要最低限の荷物と家財を二台の馬車に乗せて、家族揃って、領地にある屋敷に戻った。
メテオーラーには、妻と息子が二人いる。
息子達には「逆らうな」と申した。
敗北した貴族にできることは、従うことだ。
領地の屋敷では、もう使用人も雇うことはできない。
紅茶しか淹れた事ない妻にも家の事をしてもらわなければならない。
取り敢えず、食事だ。
良家のお嬢様だった妻は、できない家事に泣きだし、代わりにメテオーラーが厨房に立った。
息子達には、河川工事に行かせる。
僅かな賃金でも蓄えないと、生活ができなくなる。
美しく整備された薔薇園を壊し、屋敷の庭に畑を作り、収穫の早い葉物野菜の種を植える。
生き残った領民から、鶏を数匹譲り受け、小屋を作り毎日、卵を産ます。
卵を温めているなら、それを奪わずに繁殖させる。
鶏を食べてしまえば、それでなくなってしまう。
今は、我慢の時なのだ。
繁殖させる事で、数を増やせる。
増やしてから食べなければ、なくなってしまう。
配給はまだ行われているので、息子達は飢えることはないだろう。
生活に馴染めない妻が、この生活に馴染めるまでは、放っておくわけにはいかない。
+++
泣いてばかりいた妻も、メテオーラーの生活を見ていて、一緒に畑仕事をするようになってきた。
鶏の世話もできるようになり、笑顔も出るようになってきた。
領民から羊を二頭もらい。乳を搾る。
メテオーラーの屋敷の庭は、農園に代わっていた。
果物の木をもらいそれを植える。
一緒に小麦の世話をする。
今までは従わせる者だったが、国が代わり同等になった。
それでも、領民はメテオーラーに優しく、譲れる物は譲ってくれる。
有り難い事だ。
妻も領民に心を許して、家事を教わり始めた。
区画整理が始まれば、また住処がなくなる可能性もあるが、今の所、この場所で暮らせるようだ。
妻が落ち着けば、メテオーラーも働きに出るつもりでいる。
お金を稼がなくては、この先に生きていけない。
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