第5話   探検




 宮殿を出たら、馬に乗って宮殿の周りを探索する。


「王立学校が、宮殿の傍にあるのよ。貴族の学校よ。寄宿舎もあったはずよ。わたしは王宮から通っていたけれど」


 エリザベートが言うと、二人は興味深そうに見ている。


「エリも通っていたの?」


「王妃様が気分転換になるだろうからって、入れてくれたけれど、悪口ばかり言われて、全然楽しくなかった。勉強も知っていることばかりで、つまらなかったし」


「いい思い出がない学校なのだな?」


「そうね。王太子は男爵家の偽物の聖女といつも抱き合っていたし、偽物の聖女に偽物と言われて、他の生徒も酷い言葉を言っていたわ。虐めばかりで、全然、気分転換にならなかった」


「それなら、ここは壊そうか?」


 プリムスは、立派な学校を躊躇わず壊そうと言い出した。


 いい思い出はないけれど、学校は使い道がある。


 簡単に壊してはいけない。


「改装して、騎士団の宿舎にしたらどうかしら?運動場もあったし、パーティーが開けるほどの室内運動場もあったわ」


「それはいいな。新たに作る必要もなくなる」


 プリムスに試されているのだろうか?とエリザベートは思った。


 いい思い出の無い物は、排除してくれる気持ちは嬉しいが、そこまでエリザベートは望んではいない。


 使える物は使って、無駄を省くべきだ。


 プリムスがエリザベートの申し出を受け入れてくれて、ホッとした。


 貴族学校を見てから、貴族街に入った。


 王都の中心部には、高貴貴族が屋敷を建てている。領地は他にあるが、王都の周りにセカンドハウスを構えている。


 爵位剥奪されたので、領地もなくなった事になる。


 馬で通ると、まだそこに住んでいるようだった。


「この地帯の屋敷は、出て行ってもらって、シュタシス王国の貴族を住ませよう」


 エルペスは、大まかな地図を書きながら、屋敷の数を数えている。


 その後、庶民街に入ると、閑散としている。


 お店は、全て閉まっている。


 歩いている人は、殆どいない。


 死に絶えたのか、それとも家に閉じこもっているのか?


「ここは、どれほどの人が残っているのか、確認が必要だな」


「商店もシュタシス王国から、この地区に店を構えたい者を募集したら如何でしょうか?」


 エルペスが意見した。


「一度、落ち着いたら、国へ戻り父に相談してみよう」


「それなら、今夜、戻ったら、国王陛下にお伝えします」


「それは助かる」


 エリザベートは、庶民街一帯を浄化した。


 比較的お金持ちの商店街を通り過ぎると、今度は、粗末な家が建っているエリアになった。


 王都に住んでいるのだから、貧乏人ではないと思う。


 それでも、エリザベートの母国よりもシュタシス王国よりも質素だ。


『人の気配はないわ』とコルが教えてくれた。


「人の気配はないそうです」


「そうか」


 エリザベートは、そのエリアも浄化した。


 遺体の回収は終わっていると思うので、浄化すれば住めるだろうと思ったが、殆どの人が死に絶えたのなら、住む人もいない。


「どれくらいの人が生き残っているのかの調査も必要だな。旅館を一つ、役所にして名簿を作ってもらうか?」


「いい考えだ」

「農家から、人が王都に全て集まってしまうと、農家をする人がいなくなってしまいますから、注意も必要でしょう」


 エリザベートは、自分の意見も口にする。


「そうだな、ここで自給自足できなくは、ならない。炊き出しも一時的な物だ」


「今夜慈愛の雨を降らせます。地域が安定すると思います」


 街を視察すると、今度は農地の視察することになった。


 馬を走らせて、現状を確認する。


『この森の中に水脈があるぞ』とリーネが教えてくれた。


「この森の中に水脈があるそうです。ここから水を流しましょう。川ができれば、大地が肥えてきます。川を作りましょう。田畑も作れるでしょう?分岐させれば、国中に水が行き渡ります」


 エルペスは、記録している。


『リーネ、水脈があってもどうやってそれを掘り出すの?』


『任せておけ。湖を作ってやる。川を先に作れ』


「リーネがここに湖を作ってくれるそうです。先に川を作れと言っています」


「それは助かる。リーネ、ありがとう」


「主の為だ」


 リーネは言葉に出して答えた。

 素っ気ないが、そこには愛情が籠もっている。


「そろそろお昼ね。森を見ながら、お昼を戴きましょう」


「それはいい」


「ちょうど、空腹だ」


 森の中に入ろうとして、そこには道がなかった。


 プリムスとエルペスは、馬から下りて山の中に入ってみる。リーネが先頭に立ち引率してくれる。エリザベートはリーネに乗っているので、安全だ。


「この地下に水脈がある」リーネが言った。


 この辺りだけ、木々がよく茂っている。


 リーネはその奥に入っていく。開けた場所に出た。


 そこは、草原になっていた。


「ここで食事をするといい」


「リーネ、ありがとう」


 リーネから下りると、リーネはそこに座った。


 目の前にバスケットとポットが置かれている。


 エリザベートは、そのバスケットを開けた。


 出来たてほやほやのサンドイッチがある。


 けれど、木をかき分けて来た、プリムスとエルペスの手が汚れている。


「水を出すわ。手を洗って」


 エリザベートは、二人を誘って、少し離れた場所で、掌から水を出した。


「これはありがたい」


 二人は手を順番に洗って、顔も洗った。


「飲めるのか?」


「ええ、飲めますわ」


 二人は順番に、その水を飲んだ。


 それから、サンドイッチを三人分出すとカップにお茶を入れた。


 木漏れ日の下で食べるサンドイッチは、格別に美味しく感じる。


 ハムと卵がふんだんに挟まれたサンドイッチは、フワフワパンで作られていた。


 三人分のお皿が入れられていて、各自、お皿を持ってそれを食べた。


 バスケットの中には、デザートのプリンや果物も入っていた。


 少し硬めの卵プリンは、甘くて美味しい。赤色と緑のリンゴがカットされていた。


 サクッとした歯ごたえが、心地よく甘い。


 どれを食べても、美味しい。


 プリムスもエルペスも美味しいと言いながら、食べている。


 外で食べる食事も楽しい。


「エリのお陰で、ピクニックみたいだ」


「エリザベート、ありがとう」


「今日のサンドイッチは、特別に美味しいわね」


 プリムスとエルペスは、頷いた。


 お茶を飲んで、バスケットにお皿を片付け、空になったポットも片付けると、リーネがしまってくれた。


「奥に鉱山があるな。また、ここに連れて来よう」リーネが言った。


「リーネ、ありがとう」


「リーネ、頼りにしている」


「主の為だ」


 リーネは立ち上がった。


「馬の場所まで戻る」


「頼む」


 エリザベートがリーネに乗ると、木々の間を歩いて行く。


 直ぐに馬の待つ場所に着いた。


 エリザベートは、馬にも水を与えた。二頭は、競い合うように水を飲んだ。


 それから、またリーネの背中に跨がると、プリムスとエルペスは馬に乗り走り出した。


 寂れた山村があり痩せた畑が広がっている。


「人は住んでいるわ」コルが教えてくれる。


「西はいいが、東の方面がかなり被害が出たようだな」


「主、約束の刻限だ」


「分かったわ。わたし、一度、シュタシス王宮に戻ります」


「それなら、我々も、王宮に戻る。エリ、無理はするな」


「ええ、では、お先に」


 リーネの姿が消えた。


「日暮れまでに戻ろう」


「ああ」


 二人は馬を飛ばした。



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