第4話   過ごしやすいように




 エリザベートは、朝起きると国王陛下と叔母様とエオン王子と一緒に朝食を食べる。



「エリザベートは、自分で空を飛べるのね。たくさんの荷物も持てるのね?」


「はい、色々覚醒してきました。シェフに頼んで、食事を作ってもらっています。夕食はプリムス王子と一緒に食べています。今日はお昼の準備もお願いしています」


「紅茶は淹れられますか?エリザベート」


「ずいぶん淹れていません。王女だったのは13歳までですので」


「教えて差し上げましょうか?」



 叔母様は優しげに微笑んだ。



「でも、出発が遅くなってしまいます」


「毎日、少しずつで構いませんよ。エリザベートは、プリムスと国作りをしているのでしょう」


「はい、一緒に国作りをしようと言われています」


「それなら、今朝は一杯だけね」



 叔母様は立ち上がると、エリザベートをキッチンに呼んだ。ポットに茶葉を入れると、お湯を注いだ。蓋を閉めて、砂時計をひっくり返した。



「簡単だから、大丈夫よ」


「はい」


「今日は四人分よ」


「はい」



 いい香りがしてくる。


 カップをお湯で温めている。


 砂時計が止まったら、カップのお湯を捨てた。


 そこにポットからお茶を入れていく。


 いい香りがする。



「さあ、できたわよ」



 叔母様は、皆さんの前にカップを置いた。


 エリザベートも飲んでみる。


 母の味がする紅茶だ。懐かしいお茶の香りに涙が浮かぶ。


 この味を覚えたい。



「明日は、淹れてもらいますからね?」


「手伝ってくださいますか?」


「勿論ですよ」


「ありがとうございます」



 ゆっくり懐かしい味を味わっていると、国王陛下が「着替えとオイルは揃ったよ」と教えてくれた。



「お茶を飲んだら、取りに伺います」


「着替えは部屋に届けよう。オイルは総騎士団長に預けた。夕方の4時に間に合うように布団も手配した」


「ありがとうございます。夕方4時に戻ります」


「部屋の窓から出なくても、宮殿の入り口から出たらいいのだぞ」


「部屋の窓なら、開けっぱなしでも安心ですから。お行儀が悪いですがお許しください。そうだ、お風呂の石鹸やシャンプーはあるかしら?」


「それも夕方までに準備しておこう」


「ありがとうございます」



 お茶を飲んで席を立つ。


 キッチンに顔を出して、いつ頃料理ができあがるか聞いてみる。



「できておりますので、直ぐに準備をいたします」


「ありがとう。一度、部屋に戻りますが、直ぐに戻って来ます」



 エリザベートは楽しんでいた。


 急いで部屋に戻ると歯を磨いて、肌を整えると、髪を梳かす。


 リーネを抱きかかえると、直ぐにダイニングルームに戻った。


 まだ湯気が出ている食事をリーネが片付けて行く。最後に出てきたのは、大きなバスケットだった。



「サンドイッチが入っております。お茶はこちらです。カップはバスケットの中に入っております」


「ありがとう」



 バスケットとポットをリーネが片付けてくれた。



「夜に戻って来ます。洗い物が遅くなってすみません。明日もお食事をお願いします」



 シェフはにこやかに「行ってらっしゃいませ」と見送ってくれた。


 その後、総騎士団長を訪ねた。オイルは大きな入れ物に入っていた。総騎士団長はドラム缶と言っていた。



「重いが持てるか?」


「はい」


「移すときはどうしたらいいのでしょう?」


「小さな容器に入れて、少しずつ移すといい」



 移す為の器具も用意してくれた。リーネが全て片付けた。



『リーネ、大丈夫?とても重そうよ』


『容易い』


『ありがとう』



 子猫を撫でると、リーネは擦り寄ってくる。



「可愛い、子猫だね」


「はい、とても大切な子猫なの」



 総騎士団長が撫でようとしたら、リーネは牙を出して威嚇した。



「これは、お嬢さんだけをご主人さまだと思っているんだな」


「はい、危ないので、手は出さないでください」



 お辞儀をすると、今度は部屋に戻った。


 モリーとメリーが来ていた。



「お嬢様、おはようございます」


「おはようございます」


「荷物が届いております」


「ありがとう」



 エリザベートは、リーネを下ろした。



「モリーとメリー、わたし、自分で飛んでプリムス王子の元に通っているの。だから、日中、ここには戻らないわ。眠りに帰って来るだけだから。やることはないわよ?」



 会話をしている間に、リーネが荷物を片付けてくれる。



「そうでございますか?それなら、帰宅する時間にここに来るようにいたします」


「窓は閉めないでね。戻ってこられなくなるから」


「畏まりました」


「それでは、行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」



 寝室に入って扉を閉めると、リーネを下ろす。


 リーネが大きくなって、エリザベートはリーネに跨ぐ。コルが肩に乗り、髪を一房握った。それを合図に、リーネは外に出て、姿を消した。


 姿を現したのは、ミミス王宮の上空だった。王宮の影で地上に降りて、子猫になったリーネを抱き上げる。



「おはようございます」

「おはよう」



 騎士団達は、もう炊き出しの準備をしていた。


 プリムスとエルペスは朝食を食べていた。



「何を食べているの?」


「これは餅米を炊いた物だよ。スープは大豆を発酵させて作った味噌スープだよ。戦の時の食事だね。腹持ちがよくて、作るのが簡単なんだ」


「今日はお昼にサンドイッチを作って戴いたの。お昼は一緒に食べられそう?」


「サンドイッチ食べたかったんだ」


「僕も好物なんだ」


「紅茶もポットで持って来たから、お昼になったら、ダイニングルームに集合ね。それとオイルを持って来たの。すごく大きなドラム缶に入っているの。用意された物を持ってきたけれど、使い方は分からないの」


「食事を食べたら、見せてもらうよ」


「うん」


「それとね、国王陛下にお布団を頼んだの。王宮内で眠れるかと思って。オイルがあれば、王宮内は明るいでしょう?夕方に揃うと言われたから、取りに行く予定なの」


「布団か、寝袋よりかなりいいな」


「慈愛の雨も降らせる事ができるでしょう?」



「雨か」とプリムスとエルペスは呟いた。



「ここに来る間、雨は降らなかったな」


「そうなの?」


「旅はしやすかったが、土地にはよくないね?」


「空気も土壌も乾燥しているね」



 プリムスとエルペスは、国境地帯の死体処理が大変だった事を教えてくれた。



「わたしが強制的に雨を降らせれば、土地も安定してくるわ」


「それで、お布団なの?」


「騎士団の皆の分も頼んだから、皆で休めると思うの」


「そんなに持って来られるの?」


「大丈夫だって、リーネが言ったの」


「それは助かる」



 話している間に、二人は朝食を食べ終えた。



「片付けしてくるよ」


「うん」



 二人は炊き出しの方に行って、器を洗い、籠に伏せた。


 エリザベートは、二人の後をついて行く。



「今日は、この付近の探索に行こうと思っているんだ。一緒に行くか?」


「勿論、行くわ。それなら、お昼は外で食べてもいいかもしれないわね?」


「そうだね」



 備蓄庫に行くと、オイルのドラム缶とその付属品を全て出して、エリザベートは首を傾げた。初めて見る物だ。



「これは騎士達の方が慣れているな」



 エルペスは言うと、備蓄庫の中から出ていった。



「どう使うのか、さっぱり、分からないわ」


「量が多いから、混乱するだけだよ。小さな器に入れ替えたら、オイルを入れていくだけだからね。落ち着いたら、ここも魔道具を置いて便利にしていこう」


「そうね。プリムスは、ずっとここに住むの?」


「いや、ここは領地として治めるつもりだ。留守役の侯爵も連れて来ている。その者達の家探しもさせなくてはな。元の貴族から爵位は剥奪したが、使い道はあるから、子爵を与えようかと思っている。功績によってはのし上がれるだろう」



 プリムスは、プリムスが考えている予定を話してくれた。


 エリザベートは、頷いた。


 公爵家の者が子爵家となり不満が出ないか心配ではあるが、今はこの混乱した世の中を正して行かなければ、この領地は発展しない。


 エルペスが騎士二人を連れてきた。



「オイルを移し替えて、王宮の中のオイルランプに注いで欲しい」


「畏まりました」



 騎士達は早速、ドラム缶から小さいと思えないドラム缶よりは小さな容器にオイルを入れ始めた。


 夢中で見始めたエリザベートの頭を、プリムスは撫でると、今日の目的を思い出させる。



「ここは任せて、調査に行こうか?エリはリーネで行くの?」


「そのつもり」


「厩に行こうか?」


「はい」



 王宮内の備蓄庫から外に出ると、騎士達が多くいる。炊き出しも始まって、民が集まり始めている。


 人が多くて、厩でリーネに乗っていいものか迷い出す。



「あの、やっぱり、外で待っているわ。人が多くて」


「それなら、厩に行って、馬を引いてくるよ」


「お邪魔をしているみたいよ」


「そんなことはないよ」


「うん」



 エリザベートは、リーネを大切に抱いた。


 コルが『大丈夫よ』コロコロと笑った。



『主よ、馬に化けるくらい容易い』


『馬は背が高くて乗りにくいのよ』


『考慮しよう』


『ほら、だから、大丈夫だって言ったでしょう』とコルが、またコロコロと笑う。



 プリムスとエルペスが厩に入っていった。


 エリザベートは、辺りを見渡して、厩の影に入った。


 リーネを下ろすと、まず、いつものサイズになって、そこに跨がった。


 影から出ると同時に、リーネが馬の姿に変わった。


『ほら、上手くいったわ』コルが笑っている。


『わたしはドキドキしっぱなしよ』


 厩の中から、馬を引いて、プリムスとエルペスが出てきた。


 頬を赤くしたエリザベートを見ると、二人は微笑んだ。




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